会計事務所や経理部門において、記帳内容のチェックは極めて重要なプロセスです。正確な記帳は、適切な税務申告や経営判断の基礎となるため、効率的かつ確実なチェック方法を確立することが求められます。本記事では、会計事務所職員や経理担当者向けに、記帳チェックの基本から効率的な実施方法、2025年度に特に注意すべきポイントまで解説します。
- 記帳チェックで何を優先的に確認すればよいのかわからない
- 効率的に記帳チェックを行う方法が知りたい
- インボイス制度に関連した記帳チェックのポイントは?
- ミスなく記帳チェックを進めるコツを教えてほしい
【基礎知識】記帳チェックとは何か?




記帳チェックとは、会計帳簿への入力内容が正確であるかを確認するプロセスです。適切な記帳チェックは、税務申告の正確性を確保し、経営判断の基礎となる財務情報の信頼性を高めます。
記帳チェックの目的と重要性
- 記帳内容の正確性の確保
- 税務申告の基礎となるデータの検証
- 会計上の誤りの早期発見
- 税務調査時の指摘事項の予防
- 経営判断の基礎となる財務情報の信頼性確保
記帳ミスは、単なる事務的なミスに見えても、税務申告の誤りや経営判断の誤りにつながる可能性があります。特にインボイス制度導入後は、消費税の課税区分についての正確なチェックが重要になっています。
記帳チェックの基本的な流れ
- 貸借対照表項目の残高チェック(現預金、売掛金、買掛金など)
- 損益計算書項目の確認(特に交際費や消費税区分)
- 月次推移表での異常値の検出
- 消費税区分の正確性確認(特にインボイス対応)
- 必要に応じた証憑書類との突合
記帳チェックは、全ての勘定科目を同じ重要度でチェックするのではなく、金額の大きい項目や、誤りが発生しやすい項目を優先的にチェックすることが効率的です。



【チェックポイント】記帳チェックの重要項目と確認方法






記帳チェックでは、以下の重要項目を優先的に確認することが効率的です。特に貸借対照表(BS)項目は決算に直接影響するため、確実にチェックすることが重要です。
貸借対照表項目のチェックポイント
項目 | 確認内容 |
---|---|
預金 | 帳簿残高と証憑の一致を確認する。API連携の場合は、API連携に表示されている金額とチェック時点での残高が一致していることを確認する。 |
現金 | 現金出納帳との一致を確認する。現金出納帳がない場合には、残高を役員借入金振り替えることを検討する |
売掛金 | 売掛金の発生・回収のスケジュールに異常がないことを相手先別に確認する。半期以上滞留している売掛金や売掛金残高のマイナス(不明入金)がある場合には証憑と統合して内容を確認する。 |
買掛未払 | 債務の発生・支払のスケジュールに異常がないことを相手先別に確認する。半期以上滞留している債務や債務残高のマイナス(不明支払)がある場合には証憑と突合する。 |
前払費用 | 残高が証憑に基づいた理論値と一致しているか確認する。また、時の経過に合わせて適切に費用計上されているか確認する。 |
社保預り | 社会保険料の支払が当月の給与支給日と同月内になされている場合には、残高がゼロであることを確認する。月末休日の場合には、残高が給与明細の控除額と一致していることを確認する。 |
住民税 | 当月納付で一度残高がゼロになっていることを確認する。 給与明細による徴収額と納付額の一致を確認する |
源泉税 | 納特でない場合には、当月納付で残高が一度ゼロになっていることを確認する。納特の場合には、給与明細や税理士報酬の徴収額を確認し、残高の増加が適切であることを確認する。 |
固定資産 | 固定資産台帳の金額とB/Sの金額の一致を確認する。 |



損益計算書項目のチェックポイント
項目 | 確認内容 |
---|---|
修繕費 | 20万円を超える修繕費の計上がある場合、証憑を確認し、維持管理や原状回復費用であることを確認する。 |
消耗品費 | 10万円を超える消耗品の支出がある場合、資産計上すべきか確認する。単体で10万円を超えなくても、一式として見た場合に資産計上が必要かどうかを検討する。(パソコンとモニターのセット購入など) |
交際費 | 交際費に計上されている明細を確認し、区分の適切性を確認する(1人あたり1万円以下の場合は会議費)。金券の購入(非課税)や飲食物の贈答(軽減)などが多いため、消費税の取扱いが正しいことを確認する。また、特に高額な飲食費は相手先の記載がなされていることを確認する。 |
受取利息 | 計上されている場合、対応する源泉税(15.315%)が計上されていることを確認する。計上されていない場合には、入金額を0.84685で割って受取利息を計上し、入金額との差額である15.315%を法人税等とする。 |
受取配当金 | 上場株式の配当金が計上されている場合、対応する源泉税(15.315%)が計上されていることを確認する。非上場株式の場合には20.42% |
消費税 | 消費税の科目別の税区分を見て、消費税区分の適切性を確認する。例えば、諸会費であれば基本不課税、保険料であれば非課税、通信費であれば課税が基本である。勘定科目の性質と異なる計上がなされている場合には、内容を確認する。 |
損益推移 | 月次推移表を見て、前月から大きな変動がある項目について分析する。地代家賃や役員報酬やリース料などの毎月定額で計上される項目に変動があった場合、理由を確認する。 |
消費税の課税区分は税務調査でも頻繁に指摘されるポイントです。特に交際費や諸会費、保険料などは課税区分を間違えやすいため、注意が必要です。詳細については、国税庁の消費税課税区分に関するページも参考にしてください。







インボイス関連チェックのポイント
項目 | 確認内容 |
---|---|
請求書 | 請求書に登録番号が記載されているか確認する。税率ごとの消費税額が正確に記載されているか確認する。 |
経過措置 | 経過措置適用対象の取引が適切に区分されているか確認する。免税事業者からの仕入れの消費税区分が正しく設定されているか確認する。 |
仕入税額控除 | 適格請求書の要件を満たす書類が保存されているか確認する。2025年10月以降は免税事業者からの仕入れの仕入税額控除が50%に縮小される点に注意する。 |
取引区分 | 課税・非課税・不課税の区分が適切に設定されているか確認する。特に保険料や不動産取引などは区分に注意が必要。 |
2025年度は、インボイス制度の経過措置の変更点に特に注意が必要です。国税庁のインボイス制度に関する特設ページで最新情報を確認しましょう。


【実務ガイド】効率的な記帳チェックの進め方
効率的な記帳チェックを行うには、体系的なアプローチと優先順位の設定が重要です。以下のステップで進めると効率的にチェックできます。
最初に、チェックすべき項目を明確にしたチェックリストを用意します。自社の状況に応じてカスタマイズしましょう。
まず、現金預金の残高をチェックします。帳簿上の残高と実際の預金通帳や現金出納帳との一致を確認します。
次に、売掛金、買掛金などの債権債務の残高をチェックします。滞留分やマイナス残高がないか確認します。
消費税区分の確認を行います。課税、非課税、免税の区分が適切か確認します。特にインボイス制度への対応を確認します。
前月や前々月と比較して、損益計算書の各項目に異常な変動がないかを確認します。特に固定費の変動には注意を払います。



記帳チェックを効率的に行うには、freee会計やマネーフォワードクラウド会計などのクラウド会計ソフトを活用するのも有効です。これらのソフトには自動仕訳機能や異常値検知機能があり、記帳ミスの防止に役立ちます。
【Q&A】記帳チェックについてよくある質問と回答
- 記帳チェックはどのくらいの頻度で行うべきですか?
-
基本的には月次で行うことをお勧めします。特に月末締めの処理後や決算時には念入りにチェックすることが重要です。また、四半期ごとにより詳細なチェックを行うと、問題の早期発見につながります。
- 記帳チェックにおいて最も重要な項目は何ですか?
-
最も重要なのはBS項目の残高確認です。BS項目の残高が誤っている場合、対応する相手勘定も誤っていることになります。また、税務署に提出する勘定科目内訳明細書にも記載することになります。すべてのBS項目の残高チェックをしましょう。次いで、消費税区分の確認や交際費などリスクの高いPL項目が重要です。
- インボイス制度による記帳チェックの変更点は何ですか?
-
インボイス制度導入により、消費税の課税区分のチェックがより重要になりました。特に取引先が適格請求書発行事業者かどうかの確認、請求書に記載された登録番号や消費税額の確認などが必要です。また、経過措置の適用対象となる取引の区分も正確に行う必要があります。2025年10月以降は免税事業者からの仕入れの仕入税額控除が50%に縮小される点に注意しましょう。
【実践ツール】記帳チェックリストのテンプレート
以下は、すぐに使える記帳チェックリストのテンプレートです。自社の状況に合わせてカスタマイズしてご利用ください。
チェック項目 | 確認内容 | チェック |
---|---|---|
【貸借対照表項目】 | ||
普通預金 | 帳簿残高と証憑の一致を確認。API連携の場合は未登録がないか確認。 | □ |
現金 | 現金出納帳との一致を確認。多額の場合は設置額へ振り返る。 | □ |
売掛金 | 回収スケジュールの異常や滞留売掛金、マイナス残高の確認。 | □ |
買掛金・未払金 | 支払スケジュールの異常や滞留債務、マイナス残高の確認。 | □ |
預り金 | 徴収と支払の流れを確認。納付時に一度0円となっていることを確認。 | □ |
前払費用 | 残高の理由と理論値の一致を確認。適切な期間配分の確認。 | □ |
固定資産 | 固定資産台帳とB/Sの金額の一致。新規取得・売却の処理確認。 | □ |
【損益計算書項目】 | ||
消耗品・修繕費 | 高額支出の資産計上検討。20万円超の修繕費は証憑確認。 | □ |
交際費 | 明細確認と区分の安全性チェック。金券購入や飲食物贈答に注意。 | □ |
損益推移 | 月次推移表の異常変動分析。変動理由の確認。 | □ |
【インボイス関連】 | ||
取引先確認 | 取引先が適格請求書発行事業者かどうかを確認。 | □ |
消費税区分 | 正しい課税区分の確認。諸会費や租税公課の区分に注意。 | □ |
経過措置 | 免税事業者からの仕入れの消費税区分が正しいか確認。 | □ |



【まとめ】記帳チェックについて押さえておくべきポイント
記帳チェックは、正確な財務情報を確保するための重要なプロセスです。特にインボイス制度の導入により、消費税区分の正確さがより一層求められます。効率的で効果的な記帳チェックを実現するために、以下のポイントを押さえておきましょう。
現預金、債権債務、消費税区分などの重要項目を優先的にチェックします。特にBS項目は税務申告に直接影響するため、念入りに確認しましょう。
効率的かつ漏れのないチェックのために、適切なチェックリストを作成・活用しましょう。自社の業種や規模に合わせて最適化することが重要です。
前月比や前年同月比での異常な変動を見つけ、その理由を確認します。特に固定費の変動や突発的な高額支出に注意を払いましょう。
月次、四半期、決算時など、定期的なチェックを行います。問題の早期発見と対応が重要です。
取引先の適格請求書発行事業者登録状況や、消費税区分の正確さを確認します。2025年10月以降の経過措置変更に注意しましょう。
正確な記帳チェックは、適切な税務申告や経営判断の基礎となります。特に2025年度は税制変更の過渡期にあたるため、より一層の注意が必要です。本記事で紹介したチェックポイントやテンプレートを参考に、効率的かつ正確な記帳チェック体制を構築してください。



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