個人事業主にとって避けて通れない確定申告。毎年2月から3月にかけて多くの事業主が頭を悩ませる手続きですが、正しい知識があれば節税効果も大きい重要な経営活動です。この記事では、事業所得の確定申告について基礎から実践的なテクニックまで徹底解説します。
- 確定申告の期限や必要書類がわからない
- 白色申告と青色申告のどちらを選ぶべきか迷っている
- 経費として計上できる項目を知りたい
- 自宅を事務所にしている場合の経費計算方法を知りたい
- 確定申告を効率的に行う方法を探している




事業所得とは?基本をおさえよう
事業所得とは、個人が事業として行う活動から得られる所得のことです。具体的には、農業、漁業、製造業、小売業、サービス業などの事業活動による利益が該当します。
事業所得の計算式は非常にシンプルです。
事業所得 = 総収入金額 – 必要経費
事業所得と雑所得の違い
副業やフリーランス収入を得ている場合、事業所得と雑所得のどちらに該当するかは税額に大きく影響します。
事業所得の場合、損益通算が可能で、青色申告特別控除によって最大65万円の所得控除を受けられるからです
事業所得の判断基準
- 反復・継続して行われているか
- 利益を得る意思があるか
- 自己の責任で独立して行われているか
- 一定の規模や社会的地位を持つか
- 記録・帳簿の保存あり
- 収入が300万円超






損益通算とは
損益通算とは、事業所得で生じた赤字(損失)を、給与所得や不動産所得などの他の所得と相殺できる制度です。これにより総所得金額を減らし、納税額を抑えることができます。






確定申告の基本要件:誰が、いつ、どうやって?
申告が必要な人
- 事業所得の金額が年間48万円を超える個人事業主
- 給与所得者で、副業等の事業所得が年間20万円を超える方








申告期間と期限
- 申告期間:毎年2月16日〜3月15日
- 最終日が土日祝の場合:翌営業日が期限
- e-Tax(電子申告):24時間申告可能(メンテナンス時間を除く)
期限を過ぎると「期限後申告」となり、青色申告特別控除が10万円に減額されるほか、無申告加算税・延滞税が課される可能性があるので注意しましょう。



申告方法の選択肢
- 税務署窓口での提出:直接持参する方法
- 郵送による提出:期限日の消印有効
- e-Tax(電子申告):インターネットで申告する方法
e-Taxを利用すると、65万円の青色申告特別控除(通常の紙申告では55万円)が適用されるほか、24時間いつでも申告できるなど多くのメリットがあります。初回利用時にはマイナンバーカードが必要です。
白色申告と青色申告:どちらを選ぶべき?
確定申告には「白色申告」と「青色申告」の2種類があります。それぞれの特徴を比較してみましょう。
項目 | 白色申告 | 青色申告 |
---|---|---|
事前手続き | 不要 | 「青色申告承認申請書」の提出 |
帳簿の記録方法 | 簡易な記録でOK | 複式簿記 |
特別控除 | なし | 最大65万円 |
赤字の繰越 | できない | 3年間可能 |
家族従業員の給与 | 経費計上できない | 経費計上可能 |
帳簿の保存期間 | 7年間 | 7年間 |
青色申告のメリット
- 最大65万円の特別控除が受けられる
- 赤字を3年間繰り越せる
- 家族従業員の給与を経費計上できる
- 30万円未満の減価償却資産を一括経費計上できる






必要書類と所得計算方法
確定申告に必要な書類
- 確定申告書(第一表・第二表)
- 決算書類:
- 青色申告の場合:青色申告決算書
- 白色申告の場合:収支内訳書
- マイナンバー確認書類:マイナンバーカードまたは通知カード+本人確認書類
- 控除証明書:各種控除を受ける場合(医療費控除、生命保険料控除など)
- 収入や経費の証明書類:請求書、領収書など(提出不要だが保管が必要)





事業所得の計算手順
すべての売上・収入を合計し、総収入金額を算出します
すべての必要経費を合計します
総収入金額から必要経費を差し引いて事業所得を算出します
青色申告の場合は青色申告特別控除(最大65万円)を差し引きます
所得控除(基礎控除、社会保険料控除など)を差し引いて課税所得を算出します
課税所得に税率を適用して所得税額を計算します
復興特別所得税(所得税額の2.1%)を加算します
各種税額控除を差し引いて納付税額を算出します
5%〜45%の累進課税制度が適用されます。例えば、課税所得が195万円以下なら5%、195万円超330万円以下なら10%(控除額9万7,500円)というように、所得が増えるほど税率も上がります。
経費として認められる費用一覧
事業所得の計算において最も重要なのが必要経費の把握です。経費として認められる主な費用は以下の通りです。



事業に直接関わる費用
- 仕入費・材料費:商品の仕入れや製造のための材料費
- 外注費:業務の一部を外注した際の費用
- 荷造運賃:商品の発送費用
事業施設・設備関連費用
- 地代家賃:事務所・店舗の賃借料
- 水道光熱費:事業用の電気・ガス・水道料金
- 通信費:電話代、インターネット料金、切手代等
- 修繕費:事業用設備の修理・メンテナンス費用
- 減価償却費:10万円以上の固定資産(青色なら30万円未満一括可)
販売促進・営業関連費用
- 広告宣伝費:広告掲載料、チラシ作成費、ウェブサイト運営費等
- 交際費:取引先との会食、贈答品等の費用
- 会議費:商談や打ち合わせでの飲食費等
- 交通費・旅費:事業に関わる交通費、出張費等
一般管理費
- 消耗品費:事務用品、包装資材等(10万円未満のもの)
- 新聞図書費:業務に関連する書籍、雑誌、新聞の購読料
- 租税公課:事業に関する税金(個人事業税、固定資産税等)
- 保険料:事業用の保険料
- 支払手数料:振込手数料、決済手数料等
- 支払利息:事業資金の借入に対する利息
人件費
- 給与賃金:従業員への給与(青色申告の場合は家族従業員の給与も含む)
- 外注費:フリーランスや他の事業者への外注費用
- 福利厚生費:従業員の健康診断費用や社員旅行費用など
- 所得税・住民税などの税金
- 事業主(あなた自身)の生活費
- 罰金・科料
- 事業目的でない交際費や接待費
- プライベートな旅行費用






家事按分とは?自宅兼事務所の経費計算法
自宅の一部を事務所として使用している場合、経費の一部だけを事業経費として計上する「家事按分」が必要になります。
家事按分の対象となる主な費用
- 家賃・住宅ローン利息
- 水道光熱費(電気・ガス・水道)
- インターネット料金
- 電話料金
- 固定資産税
- 火災保険料
例:自宅の面積が80m²で、そのうち事務所として使用している部分が20m²の場合
事業使用割合 = 20m² ÷ 80m² = 25%
月々の家賃が10万円の場合の事業経費 = 10万円 × 25% = 2.5万円
家事按分の計算方法
- 面積基準:自宅全体に対する事業使用部分の面積割合で按分
- 時間基準:1日24時間のうち事業に使用している時間の割合で按分
- 使用目的基準:使用目的に応じて合理的に判断






確定申告を効率化するためのテクニック
日々の経理処理を簡単にする方法
- 事業専用の口座とカードを作る:プライベートと事業の資金を明確に分ける
- レシートと領収書は必ず保管:デジタル保存も可能
- 会計ソフトを活用する:自動計算機能を使って効率化


青色申告特別控除の最大化
- 複式簿記による記帳
- 貸借対照表・損益計算書の作成
- 期限内申告
- e-Taxによる申告



消費税の基礎知識
個人事業主にとって、所得税と並んで重要なのが消費税です。






消費税の課税事業者となる条件
- 前々年の課税売上高が1,000万円を超えた場合
- 前々年の課税売上高が1,000万円以下でも、課税事業者選択届出書を提出した場合
インボイス制度(適格請求書等保存方式)
2023年10月1日からインボイス制度が開始されています。インボイス制度とは、適格請求書発行事業者が発行する「適格請求書(インボイス)」のみが、仕入税額控除の対象となる制度です。
インボイス発行事業者になるには
- 「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出
- 課税事業者を選択(免税事業者はインボイスを発行できない)
社会保険・年金の基礎知識
個人事業主は、会社員と異なり、自分で社会保険や年金に加入する必要があります。
国民健康保険と年金
個人事業主は「国民健康保険」に加入します。保険料は前年の所得をもとに計算され、自治体によって料率が異なります。
個人事業主は「国民年金(第1号被保険者)」に加入します。2023年度の国民年金保険料は月額16,520円(年間198,240円)で、全額が社会保険料控除の対象です。
さらに、老後の年金を増やしたい場合は、「国民年金基金」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」に加入することも検討しましょう。これらの掛金も全額が社会保険料控除または小規模企業共済等掛金控除の対象となります。





小規模企業共済
個人事業主の退職金制度として「小規模企業共済」があります。月々1,000円から70,000円まで自由に掛金を設定でき、全額が小規模企業共済等掛金控除の対象となります。
- 掛金は全額所得控除
- 廃業や退職時に退職金として受け取れる
個人事業主によくある確定申告の質問
- 確定申告の期限に間に合わない場合はどうすればいいですか?
-
期限に間に合わない場合は、「期限後申告」となります。期限後申告では、青色申告特別控除が減額されるほか、無申告加算税(15%〜20%)や延滞税が課される可能性があります。やむを得ない理由がある場合は、事前に税務署に相談しましょう。
- 開業初年度の確定申告はどうすればいいですか?
-
開業初年度は、開業日から12月31日までの期間が対象となります。青色申告をする場合は、開業から2ヶ月以内に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。また、「個人事業の開業届出書」も提出しましょう。
- 副業の収入が少額の場合も確定申告は必要ですか?
-
給与所得者の場合、副業による所得が20万円以下であれば確定申告は不要です。ただし、所得税の還付を受けられる可能性がある場合(経費が多い場合など)は、確定申告をした方が得になることもあります。
まとめ:計画的な確定申告で節税と経営改善を
事業所得の確定申告は、単なる納税手続きではなく、自身の事業を見直し、経営改善につなげる重要な機会です。日々の経理処理をしっかり行い、青色申告特別控除などの節税措置を活用することで、税負担を適正化しましょう。
事業の規模や内容に応じて、「白色申告」と「青色申告」を選択
必要経費の記録と保管を日頃から徹底する
会計ソフトを活用して効率的に帳簿をつける
社会保険料や小規模企業共済の掛金など所得控除の対象を把握
確定申告の知識を深め、計画的に対応することで、適正な納税と事業の健全な発展の両立を目指しましょう。





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