- 外注費と給与の区分けに関する税務上の考え方がわかる
- 外注費が否認されるリスクとその影響額が具体的にわかる
- 形式面・実質面から見た外注費の判断要素がわかる
- 税務調査で否認されないための具体的な対策方法がわかる
法人経営において「外注費」と「給与」の区分けは、税務上の大きな争点となります。
一見似ているようで、税務上の取り扱いが大きく異なるこの二つの費用区分。適切に処理しないと、税務調査で否認され、多額の追徴課税を受けるリスクがあります。




なぜ税務署は「外注費」を「給与」に否認するのか?






消費税の課税関係
「外注費」は課税仕入れとして仕入税額控除の対象になりますが、「給与」は不課税取引となるため仕入税額控除の対象外です。
簡単に言うと、事業のために支払った消費税は、後で納める消費税から差し引けるという制度です。外注費は控除できるけど、給与は控除できません。
例えば、100万円の外注費に10万円の消費税を払ったとしても、それは後で国に納める消費税から10万円引けるから、実質的な負担はゼロになるわけです。



所得税(源泉所得税)の課税関係
「外注費」は事業所得として支払側に源泉徴収義務がありませんが、「給与」は給与所得として支払時に所定の税率で源泉徴収する義務があります。
給与の場合、会社側が支払う時点で所得税を天引きして国に納める必要があります。しかし外注費の場合、その必要はないのです。
外注費を給与に否認されると、源泉徴収してなかった分の税金も追徴されることになります。
社会保険の適用関係
「外注費」として支払いを受ける個人事業主は社会保険の適用対象外ですが、「給与」として支払いを受ける従業員は社会保険の加入対象となります。
給与の場合、健康保険や厚生年金の加入義務が生じて、会社側も保険料の半分を負担しなければなりません。外注の場合はその必要がないため、経営者としては外注のほうがコスト的に助かります。



否認された場合の影響額
外注費と給与の区分けが否認された場合、企業が負担する追徴税額は想像以上に大きくなります。以下に具体的な試算例を示します。
年間給与相当額 | 400万円/人 |
消費税追徴額 | 40万円/人・年 |
源泉所得税追徴額 | 15万円/人・年 |
社会保険料(会社負担分) | 112万円/人・年 |
5人分が5年間否認された場合の追加負担額は以下のようになります。
消費税・源泉所得税 | (40万円+15万円)×5人×5年=1,375万円 |
延滞税・加算税等 | 約225万円 |
社会保険料 | 112万円×5人×2年※=1,120万円 |
合計追加負担額 | 約2,720万円 |
※社会保険料は過去2年分のみ遡及されるのが一般的です






外注費と給与の判断基準
形式面での判断要素
外注は「請負契約」、給与は「雇用契約」という法律上の定義の違いがあります。
請負契約:当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる契約(民法第632条)
雇用契約:当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる契約(民法第623条)
請負契約書や業務委託契約書を整えておくことは大事ですが、それだけでは不十分です。実態が伴っていなければ、形式的に契約書があっても否認されてしまうことがあります。
実質面での判断要素(総合的に判断される)
実質面では以下のポイントを総合的に判断されます。主な判断基準を一覧表にまとめました。
判断要素 | 外注費の特徴 | 給与の特徴 |
---|---|---|
指揮命令系統 | 自己の責任と判断で業務遂行 | 指揮監督者から命令を受ける |
報酬の計算方法 | 出来高払い、変動費 | 日当計算、固定費 |
賞与・残業 | 無し | 有り |
福利厚生費 | 無し | 会社負担 |
工具・備品等の経費負担 | 自己負担 | 会社負担 |
請求書・領収書 | 有り | 無し |
飲食等の経費処理 | 交際費 | 福利厚生費 |
確定申告 | 有り(事業所得) | 無し(または給与所得のみ) |






税務調査対策:外注費否認を防ぐために準備すべき書類









組織図・職制図
外注を発注元の指揮命令系統下に載せないように組織図を作成しましょう。被雇用者(給与所得者)は雇用者たる事業者に従属し指揮・監督を受けますが、請負者(外注、事業所得者)は独立した事業者であり、作業の結果に対してのみ責任を負い、原則として発注元の指揮・監督は受けません。
組織図では、外注先を社内の指揮命令系統の外に配置するのが重要です。もし社内の部門の中に外注先を入れてしまうと、指揮命令関係があるように見えてしまいます。
適切な請求書の確保
請求書は外注費を証明する最も重要な書類です。以下の点に注意して請求書を確保・保管しましょう。
NG表現を避ける
以下のような給与と疑われる表現は使用しないようにしましょう。
- 「日当」「残業」「早出」「人工」
- 「○○○○円/時」「○○○○円/日」「人月」
- 「超過手当」などの文言表示
時間単価や日単価だと雇用関係を疑われます。代わりに「○○工事一式」とか「○○業務委託料」といった完成した仕事への対価という書き方にするべきです。
現場名を明記する
請求書には具体的な業務内容や現場名を明記しましょう。「○○現場における基礎工事一式」のように特定の業務を請け負ったことを明確にします。
金額計算の基準を記入する
外注契約書等を備えていない場合は、金額計算の基準を記入することで請負契約の実態を示します。例えば「一トンあたり〇円」「施工面積〇平方メートルあたり〇円」など、出来高に応じた計算基準を記載します。
屋号をつける
外注先には個人名だけでなく屋号をつけてもらい、横判・丸印等を作成してもらいましょう。「(屋号〜) 代表 (氏名) 印」のように記載することで、個人事業主であることを明確にします。
領収書・受領書
支払いの証拠となる領収書や受領書は、外注先が発行したものを保管します。銀行振込の場合は振込控えも重要な証拠となります。領収書には屋号と氏名、押印があることが望ましいです。
注文請書
注文請書は基本的に作成しませんが、作成する場合は収入印紙を貼付します。契約の実態を示す重要な書類となるため、内容に矛盾がないように注意しましょう。
その他(建設業関連)
建設業では「出面帳」や「社長の日記」なども重要な証拠となります。従業員と外注が出ていた現場名・回数などを別々に記録し、社員と混在しないように管理することが望ましいです。
これ、実は税務調査でよく使われる手法ですが、調査官が「いつ、どの現場に誰が行ったか」を出面帳と請求書で照合して、期ずれがないか確認します。不自然な期ずれがあると、「実際は雇用関係があったのでは?」と疑われるわけです。
実質面での外注関係を証明するポイント






経費負担の明確化
外注先は自ら材料、工具、備品などを用意し業務を行うのが原則です。従業員は会社の資材を使って作業を行います。ヘルメット、作業着、工具、名刺代、机、ロッカー費用等は別建てで請求するか、外注先が自己負担するよう明確にしましょう。
これは実務でよくある失敗ですが、外注先に会社のユニフォームを着せたり、会社の名刺を渡したりすると、それだけで「従業員と同じ扱い」と判断される可能性があるので注意が必要です。
社会保険関連
外注に対する社会保険料は一切負担しません。「一人親方」は労災保険上の労働者には該当しません。また、団体生命保険(社員であることが前提)にも加入させないようにしましょう。
確定申告の徹底
外注が確定申告をしている事実は、間接的に従業員ではないという証拠になります。常用雇用と疑われやすいような場合には、申告の有無を確認・徹底することが重要です。



税務調査での対応ポイント



調査官の確認ポイント
- 下請けの電話番号を確認して、請求書の作成者や内容の確認
- 取引が終わった人への連絡による事実確認
- 「指揮・監督」関係の有無に関する質問
- 現場での作業実態に関する具体的な質問
特に建設業、運輸業、理美容業などは外注と給与の区分けについて重点的に調査される業種です。
税務調査で一番怖いのは「ヒアリング調書」です。調査官が外注先に質問して、その回答を文書にまとめるのですが、ここで「指示を受けていた」「時間管理されていた」など雇用関係を疑われる発言があると、それが決定的な否認の根拠になるのです。






法的根拠






所得税法上の区分け
所得税法第27条と第28条では、「事業所得」と「給与所得」を以下のように区分しています。
事業所得(所得税法第27条):事業から生ずる所得をいう。
給与所得(所得税法第28条):俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。
法律の文章だけだとわかりにくいですが、実際の判断では、国税庁の通達や裁判例を参考にすることが多いです。
国税庁の判断基準
国税庁は所得税基本通達において、事業所得と給与所得の区分について以下のような判断基準を示しています。
所得税基本通達 2-8
事業所得と給与所得との区分は、次の諸点を総合勘案して判定する。
- その契約に記載された内容が請負契約的か、雇用契約的か。
- 役務の提供の内容が指揮監督下で行うものか、それとも独立して行うものか。
- まかされた仕事の危険と責任は誰が負うのか。
- 報酬額の算定方法が時間給か、出来高払いか。
- 材料や用具等の負担関係はどうなっているか。
この通達が実際の税務調査での判断基準になりま
裁判例からみる判断基準
過去の裁判例では、外注費と給与の区分けについて、以下のような判断がなされています。
裁判例 | 判断ポイント |
---|---|
東京高裁平成9年12月24日判決 | 指揮監督関係の有無、報酬の性質(労務対価か成果対価か)が重視された |
最高裁平成13年7月13日判決 | 業務の独立性、第三者代行可能性、報酬の算定方法が判断基準として示された |






よくある質問(FAQ)
- 外注費として認められる契約書の書き方は?
-
契約書では以下のポイントを明確に記載するのが重要です:
- 業務の範囲と成果物の明確化(〇〇の制作、△△の施工など)
- 業務遂行の裁量権が外注側にあることの明記
- 報酬の算定方法(出来高払いであることの明記)
- 材料・道具等の費用負担関係
- 第三者への再委託可能性(原則可能であること)
特に「業務の完成責任は外注側にある」という点と、「業務遂行の方法は外注側の裁量に委ねる」という点は必ず明記しておきましょう。
- 建設業の「一人親方」は外注として認められやすいの?
-
建設業の一人親方は特に注意が必要です。形式的には外注でも、実態面で以下のような点があると否認されやすいです:
- 会社の制服を着用している
- 会社の朝礼に参加している
- 会社の工具や車両を使用している
- 他社の現場に入ることがない(専属性が高い)
- 作業時間が会社に管理されている
一人親方としての実態を示すなら、「一人親方労災保険」への加入や、複数の取引先との契約実績があるとベターです。
- IT業界でのフリーランス契約の注意点は?
-
IT業界の外注は最近特に注目されています。以下の点に気をつけましょう:
- 作業場所は原則として外注側で確保(在宅やコワーキングスペースなど)
- 納品物や成果物を明確に定義する
- 報酬は工数(人月)ではなく、タスク完了や機能実装ごとの設定が望ましい
- 業務時間の指定や日報提出義務などを課さない
- 会社のメールアドレスや名刺を発行しない
特に気をつけたいのが、外注なのに毎日決まった時間に常駐させるパターンです。これは完全に雇用と判断される可能性が高いので注意が必要です。
- 否認された場合の対応策は?
-
まず大事なのは冷静に対応することです。以下のステップで考えましょう:
- 請負契約の実態を示す追加資料を提出する(メールでのやり取り、複数の取引先との契約実績など)
- 外注先に確認調査が入る可能性があるため、事前に状況を説明しておく
- 特に重要な証拠がある場合は、税理士などの専門家を通じて説明する
- 一部のみ否認されるケースもあるため、影響範囲を最小限に抑える交渉も検討
- 今後の対策として、契約形態や業務フローの見直しを行う
実務例では、数十人の外注先のうち、契約書や請求書が不十分だった5人だけが否認されたケースもあります。すべてが否認されるわけではないので、できるだけ証拠を集めて説明することが大切です。
- 役員の親族を外注として扱う場合の注意点は?
-
同族会社の場合、役員の親族への外注は基本的に「給与」と判断されやすいです。どうしても外注にしたい場合は、一般の外注よりもさらに厳格な証拠資料を揃える必要があります。特に業務の独立性と複数取引先の存在を示せるかがポイントです。
会計士ワンポイントアドバイス



請求書は毎月少しずつ変化させる
毎月まったく同じ金額、同じ内容の請求書は固定給と疑われやすいです。業務内容や金額に多少の変動があることで、出来高払いの実態をアピールできます。
これ、実は調査官がよく見るポイントなのですが、毎月ピッタリ同じ金額の請求書が続くと「これは実質給与だろう」と思われやすいのです。少しでも金額や内容に変化をつけるといいでしょう。
外注先との打ち合わせ記録を残す
業務の依頼や成果物の確認に関するメールやチャットのやり取りを日付付きで保存しておくことで、請負契約の実態を示す補強証拠になります。
消費税の10%課税を明示する
外注費の請求書には、金額とは別に消費税額を明記してもらいましょう。これは「課税取引」であることを示す重要な証拠になります。
これ意外と見落としがちですが、外注費なら消費税が別途かかるはずです。請求書にキッチリ「消費税10%」と書いてもらうことで、給与じゃなく事業所得の取引だということをアピールできます。
外注先の事業実態を確認する
外注先が他の取引先とも契約しているか、確定申告をきちんと行っているかなどを定期的に確認しておくと安心です。必要に応じて事業実態を示す証拠を提出してもらうことも検討しましょう。
特に「うちだけでしか仕事してません」という外注先は要注意です。税務調査では「専属性が高い=雇用関係がある」と判断される可能性が高いのです。
仕事の結果に対する責任関係を明確に
業務上のミスや納期遅延に対する責任、瑕疵担保責任などを契約書に明記しましょう。請負契約では「仕事の結果に対する責任」が外注側にあることが重要なポイントです。
瑕疵担保責任とは「完成した仕事に欠陥があった場合の責任」のことです。例えば建物に不具合があった場合に修復する責任とか、プログラムにバグがあった場合に修正する責任などです。これが外注側にあるのが請負契約の特徴です。
まとめ:外注費と給与の区分けポイント
外注費と給与の区分けは、税務上非常に重要な問題です。否認されると消費税、源泉所得税、社会保険料など多方面で大きな追徴課税リスクがあります。適切な対策を講じて、税務リスクを回避しましょう。
請負契約の実態を反映した契約書を作成し、業務の独立性を明確にする
請求書には給与と疑われる表現を避け、必ず屋号と印鑑を入れてもらう
報酬は固定額ではなく出来高払いとし、金額に変動をつける
業務に必要な工具や備品は原則として外注側の負担とする
指揮命令関係がなく、業務遂行方法は外注側の裁量に委ねる
外注先には確定申告の実施と、他の取引先との契約も推奨する
打ち合わせ記録や成果物の確認記録など補強証拠を残しておく
外注費と給与の区分けは形式だけでなく実態が重要です。日々の業務フローや指示の出し方、報酬支払いの方法など、総合的に請負契約としての実態を整えることが、税務リスク回避の鍵となります。不安な点がある場合は、早めに国税庁のタックスアンサーを確認するか、国税庁の税務相談センターへ問い合わせることをお勧めします。



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