役員貸付金の基本と利息計算の重要性
- 役員貸付金に利息が必要な理由と法的根拠
- 税務調査で指摘されないための適正利率
- 月別残高に基づく正確な利息計算方法
- 役員貸付金と役員借入金の相殺処理の方法
- 実務で使える計算例と仕訳例
中小企業では、会社の資金を役員が一時的に使用し、それを役員貸付金として処理するケースが多く見られます。この処理自体は問題ありませんが、適切な利息を設定していないと、税務調査で思わぬトラブルに発展することがあります。




この記事では、役員貸付金の正しい利息計算の方法と、計算を怠った場合のリスクについて解説します。実務で即活用できる計算例も交えながら説明していきます。
役員貸付金に利息が必要な理由とリスク






利息を取らないとどうなるのか?
- 役員報酬とみなされるリスク:利息がない場合、貸付金自体が役員報酬と判断され、源泉所得税の納付漏れや不納付加算税が発生
- 贈与とみなされるリスク:利息相当額が役員への贈与と判断され、法人税の損金不算入項目となる可能性
- 同族会社の行為計算否認:税務署が不当な税額減少と判断し、更正処分の対象となる可能性
特に税務調査では、役員への貸付金が長期間にわたる場合や金額が大きい場合に注目されやすくなります。適切な利息計算を行うことで、これらのリスクを回避することができます。






法的根拠と適正利率
国税庁の公式見解では、無利息貸付は経済的利益の供与とみなされます。
「法人が役員に対して金銭を無償で貸し付けた場合には、その法人は、通常、金銭の貸付けに係る利息に相当する経済的利益が役員に供与されたものとして取り扱われます。」
- 根拠法令: 所得税法第36条、法人税法第34条(経済的利益の供与に関する規定)
- 適用対象者: 法人の役員(使用人兼務役員も含む)
- 計算時期: 毎月末または貸付・返済時(月次計算が望ましい)
- 勘定科目: 「受取利息」として計上
役員貸付金利息の正しい計算方法






基本的な計算式と考え方
役員貸付金利息の基本計算式
月ごとの利息 = 月末貸付金残高 × 年利率(0.9%) ÷ 12ヶ月
年間利息合計 = 各月の利息の合計
初心者向け解説:月割計算の重要性
貸付金は月によって金額が変動することが一般的です。年末残高だけで計算すると、実際よりも多く(または少なく)利息を計上することになり、税務上不適切となります。月ごとの残高を基に計算することで、実態に即した適正な利息となります。






役員貸付金と役員借入金の相殺処理
- 月末時点の役員貸付金残高を確認
- 月末時点の役員借入金残高を確認
- 両者を相殺(貸付金−借入金)
- 相殺後の純額がプラスの場合のみ、利息を計算(マイナスの場合は計算不要)
これにより、実質的な貸付額に対してのみ利息が発生するため、より公正な処理となります。
実践!役員貸付金利息の計算例






月 | 役員貸付金残高 | 役員借入金残高 | 相殺後残高 | 月間利息(0.9%÷12) |
---|---|---|---|---|
4月 | 1,000,000円 | 300,000円 | 700,000円 | 525円 |
5月 | 1,200,000円 | 300,000円 | 900,000円 | 675円 |
6月 | 1,500,000円 | 500,000円 | 1,000,000円 | 750円 |
7月 | 1,300,000円 | 500,000円 | 800,000円 | 600円 |
8月 | 1,300,000円 | 700,000円 | 600,000円 | 450円 |
9月 | 1,500,000円 | 700,000円 | 800,000円 | 600円 |
10月 | 1,800,000円 | 800,000円 | 1,000,000円 | 750円 |
11月 | 2,000,000円 | 800,000円 | 1,200,000円 | 900円 |
12月 | 2,500,000円 | 1,000,000円 | 1,500,000円 | 1,125円 |
1月 | 2,300,000円 | 1,000,000円 | 1,300,000円 | 975円 |
2月 | 2,100,000円 | 1,200,000円 | 900,000円 | 675円 |
3月 | 2,000,000円 | 1,200,000円 | 800,000円 | 600円 |
合計 | – | – | – | 8,625円 |
上記の例では、1年間の利息合計は8,625円となります。これを期末に役員に請求するか、給与から天引きするなどの方法で回収します。
計算された利息は、会計上適切に仕訳処理する必要があります。






利息計上時(決算時):
利息入金時:
または、給与から天引きする場合:


税務調査対策と実務上の注意点






税務調査でよくある指摘事項
- 適正利率の適用:特例基準割合(現在0.9%)未満の利率を適用していないか
- 月次計算の正確性:年末残高だけで計算していないか
- 相殺処理の妥当性:役員貸付金と借入金の相殺が適切に行われているか
- 利息の実際の回収:計上した利息が実際に回収されているか
- 長期未回収の貸付金:実質的に返済の意思がない貸付金がないか






実務上の対応策
- 貸付金契約書の作成:金額、期間、利率、返済方法を明記した書面を作成
- 月次の残高管理表作成:Excel等で月次の貸付金・借入金残高を記録
- 実際の利息回収:計算した利息を実際に回収し、証憑を保存
- 返済計画の作成:長期にわたる貸付金は返済計画を策定
役員貸付金の利息対策の手順
役員貸付金の税務対策では、以下の手順に従って処理を行います。初めての方は特に契約書の作成と証憑の保存に注意してください。






金額、期間、利率、返済方法を明記した契約書を作成し、役員と会社双方で保管します。
役員貸付金と役員借入金の残高を月次で記録し、管理表を作成します。
月次残高に基づき、年0.9%÷12の利率で利息を計算します。
決算時に未収収益と受取利息で仕訳を計上します。
現金での回収または給与からの天引きにより、実際に利息を回収します。
契約書、計算書、入金証明などの証憑を保存します。
特に貸付金契約書の作成と利息の実際の回収については、税務調査で重点的に確認されるポイントです。書面での取り決めと実際の金銭の動きを証明できるようにしておきましょう。不明点がある場合は、税理士に相談することをおすすめします。
ワンポイントアドバイス






具体的には、役員貸付金が長期間(3年以上)返済されないケースでは、税務調査でより厳しくチェックされます。計画的な返済スケジュールを立て、定期的に返済実績を作ることが重要です。また、利息の計算と回収を忘れずに行いましょう。この点は私のクライアントさんもよく注意されていますね。
税務調査では、不自然な貸付金に対して特に注意が向けられます。特に貸付金額が大きい場合や長期間返済がない場合は、正当な事業目的があるかどうかの説明を求められることが多いです。
- 利率は毎年同じですか?変わることもあるんですか?
-
特例基準割合は毎年見直される可能性があります。これは前年の11月30日を経過する時における日本銀行法第15条第1項第1号の規定により定められる商業手形の基準割引率に年1%を加算した割合を基に決定されます。
- 貸付金の金額が少額の場合も利息の計算は必要ですか?
-
基本的にはどんな金額でも利息を計算するのが安全です。ただ、実務上は短期間かつ少額(例えば10万円未満で1か月以内)の貸付については、利息計算を省略しても問題にならないケースが多いです。ただし、これは明確な基準があるわけではなく、税務調査官の判断によるところもあるので、安全を期すなら利息計算をしておくことをお勧めします。
- 役員貸付金を返済する予定がない場合はどうすればいいですか?
-
返済予定のない役員貸付金は、税務上非常にリスクが高いです。実質的に給与や賞与とみなされる可能性が高くなります。このような場合は、正式に臨時株主総会などで役員賞与として計上し直すか、きちんとした返済計画を立てて実行することをお勧めします。放置すると税務調査で大きな問題になる可能性が高いですよ。
まとめ:適切な役員貸付金の管理方法
役員貸付金の利息計算は、税務上のリスクを避けるために非常に重要です。正しい計算方法と処理手順を守ることで、税務調査でも安心して対応できます。
- 適正利率(現在0.9%)で利息を計算する
- 月次の残高に基づいて計算する(年末残高だけでは不適切)
- 役員貸付金と役員借入金は相殺して純額で計算する
- 貸付金契約書を作成し、条件を明確にする
- 計算した利息は実際に回収する
- 証憑類を適切に保管し、税務調査に備える






役員貸付金に関して他にも疑問点がある場合は、コメント欄でお気軽にご質問ください。また、貴社の状況に合わせた具体的なアドバイスが必要な場合は、税理士への個別相談をお勧めします。



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