- 役員報酬はどのような場合に損金算入できるの?
- 事業年度の途中で役員報酬を変更したい場合の税務上の取扱いは?
- 役員賞与や退職金の損金算入要件が知りたい
- 役員ではない親族への給与で注意すべきポイントは?
役員報酬の税務処理は税務調査の重要ポイントであり、条件を満たさないと損金不算入という厳しい制度です。本記事では、法人税法上の役員報酬の取扱いについて、定期同額給与・事前確定届出給与の実務対応から、同族会社や親族への給与の注意点まで、実務家の視点で徹底解説します。
役員報酬の適切な処理は企業会計において非常に重要です。




役員給与と使用人給与の明確な区分方法
法人が支給する給与は、受け取る側の立場により「役員給与」と「使用人給与」に大別されます。役員給与は、恣意的な支給による租税回避を防止するため、使用人給与と比べて厳しい規制が設けられています。
役員の範囲
法人税法上の「役員」には、会社法上の役員(取締役、監査役、理事、監事など)だけでなく、実質的に経営に従事している者(みなし役員)も含まれます。
会社法上の役員 | 取締役、監査役、理事、監事、清算人、会計参与など |
みなし役員 | ・法人の使用人以外の者(顧問、相談役など) ・同族会社の使用人のうち、一定の株主 |
みなし役員に該当するかどうかは、単に肩書きだけでなく、実質的に意思決定に参加しているか、役員と同等の処遇を受けているかなどの実態によって判断されます。
役員給与の3つの損金算入要件と判断基準
法人がその役員に支給する給与は、以下の3種類のいずれかに該当する場合に限り、損金算入が認められます(不相当に高額な部分を除く)。要件を満たさない場合、全額が損金不算入となるため、慎重な対応が必要です。






役員給与が損金算入されるのは、以下の3つのいずれかに該当する場合のみです:
- 定期同額給与:毎月同額の給与(基本給など)
- 事前確定届出給与:確定額を事前に税務署に届け出た給与(賞与など)
- 業績連動給与:利益指標など一定の指標に連動した給与(上場企業など限定)
定期同額給与の実務ポイント
定期同額給与とは、事業年度の各支給時期に支給する金額が同額である給与をいいます。一般的には、毎月同じ金額を支給する月例の固定給が該当します。






定期同額給与の実務対応ポイント
タイミング | 実務上の留意点 |
---|---|
事業年度開始時の設定 | ・株主総会で役員報酬総額の上限を決議 ・取締役会で個別の報酬額を決定 ・議事録を作成し保管 |
期中の減額 | ・単なる節税目的での減額は認められない ・業績悪化の客観的証拠(財務資料など)を保存 ・減額の理由と金額の合理性を説明できる資料を準備 |
臨時改定事由の対応 | ・辞令書や人事発令の証拠を保存 ・職務内容の変更を示す組織図の変更資料 ・取締役会議事録に改定理由を詳細に記載 |
実務上のミス対応 | ・振込ミスがあった場合は速やかに修正 ・誤って額面が変わった場合は理由書を作成 |
定期同額給与の改定は、原則として事業年度開始から3か月以内に行う必要があります。これを過ぎて増額改定した場合、原則として全額が損金不算入となるため、年度初めの報酬設定を慎重に行うことが重要です。
- 毎月同じ金額を支給する月例の固定給
- 事業年度開始から3か月以内に改定された場合
- 臨時改定事由(役職変更、職務内容の重大な変更等)による改定
- 業績悪化改定事由による減額改定
臨時改定事由と業績悪化改定事由
臨時改定事由の例
「臨時改定事由」とは、役員の職制上の地位や職務内容に重大な変更があり、あらかじめ定められていた役員給与の額を改定せざるを得ない事情があるかどうかにより判断されます。
- 代表者の急逝などやむを得ない事情による臨時の分掌変更
- 事業拡大や組織再編による職務内容の重大な変更
- 取締役から代表取締役への昇格など、職制上の地位の重大な変更
業績悪化改定事由
「業績悪化改定事由」とは、法人の経営状況が著しく悪化したことにより、役員給与の減額が必要となる場合をいいます。財務状況の悪化、債権者からの要請、経営改善計画の実施など、客観的に役員報酬減額の必要性が認められる状況が該当します。単なる節税目的での減額は認められません。
定期同額給与の改定パターンと税務処理
【具体例】3月決算法人の役員報酬改定パターン
改定パターン | 改定時期 | 改定内容 | 税務上の取扱い |
---|---|---|---|
通常の改定 | 6月末 (3ヶ月以内) | 月額100万円→150万円 | 全額損金算入可 (4-6月:100万円/月、7-3月:150万円/月) |
通常の増額改定 | 9月末 (3ヶ月超) | 月額100万円→150万円 | 全額損金不算入 (4-9月:100万円/月、10-3月:150万円/月) |
臨時改定事由による増額 | 8月末 | 月額100万円→150万円 (代表取締役就任) | 全額損金算入可 (4-8月:100万円/月、9-3月:150万円/月) |
業績悪化による減額 | 7月末 | 月額100万円→50万円 | 全額損金算入可 (4-7月:100万円/月、8-3月:50万円/月) |
業績悪化に至らない状況での減額 | 7月末 | 月額100万円→50万円 | 減額前の上乗せ部分(50万円/月)が損金不算入 (4-7月分は全額損金算入可) |
事前確定届出給与の実務ポイント
事前確定届出給与とは、役員の職務につき、所定の時期に確定した金額を支給する旨を「事前」に税務署長に届け出た給与をいいます。主に賞与や決算賞与が該当します。適切に届出を行うことで、役員賞与も損金算入が可能となります。
届出期限と要件
税務署長への届出期限は、原則として次のいずれか早い日までです:
- 株主総会等による決議日から1ヶ月を経過する日
- 会計期間開始日から4ヶ月を経過する日
実務上の注意点:
- 支給日が1日でもずれると否認される可能性がある(例:6月30日と届出→7月1日に支給)
- 金額が少しでも異なると否認される(例:100万円と届出→99万円または101万円を支給)
- 支給日が休日の場合、前営業日に支給するよう事前に届け出ておくべき
変更が必要な場合は、臨時改定事由や業績悪化改定事由の場合に限り認められますが、変更届出の期限も厳格です(株主総会等の決議日から1ヶ月以内等)。






- 支給日が近づいたら経理担当者にリマインドメールを送る
- 支給日の1週間前に経理処理の準備を始める
- 支給日が休日の場合は届出時点で前営業日とする
- 給与システムに事前確定届出給与の支給スケジュールを登録
- 届出書のコピーを経理部門に保管し、随時確認できるようにする



ちなみに、定期同額を減らして事前確定を増やすと社会保険料の節税になるで。


業績連動給与の特徴と要件
業績連動給与とは、会社の業績(利益指標や株価など)に連動して支給される給与で、一定の要件を満たすものをいいます。この制度は上場企業や非同族会社との間に完全支配関係のある同族会社が主な対象で、実務上ほとんど利用されていません。
業績連動給与の主な要件
透明性と開示要件が厳しく、以下のような要件を全て満たす必要があります。
- 客観的な指標:算定方法が客観的かつ有価証券報告書に記載される指標に基づくこと
- 適時の決定:会計期間開始後3か月以内に報酬委員会等で決定されていること
- 情報開示:その内容が有価証券報告書等で開示されていること
- 対象法人:上場会社等または非同族会社との間に完全支配関係のある同族会社であること
多くの中小企業にとって、業績連動給与の要件を満たすことは困難であり、中小企業オーナーへの役員報酬としては定期同額給与や事前確定届出給与が一般的です。
同族会社における役員給与と親族への給与の注意点
同族会社の場合、役員給与および親族への給与について特に注意すべき点があります。税務調査においても重点的にチェックされる項目です。






役員給与に関する注意点
- 業績連動給与の制限:業績連動給与は、原則として同族会社には適用されません(非同族会社との間に完全支配関係がある場合を除く)
- 厳格な判断基準:同族会社の場合、役員給与の「不相当に高額」の判断がより厳格に行われる傾向があります
- 経済的利益の監視:役員への貸付金や個人的費用の負担など、金銭以外の経済的利益についても厳格にチェックされます
- 報酬額の適正性:同業他社と比較して不相当に高額な役員報酬は否認される可能性が高いです
役員ではない親族への給与に関する注意点
同族会社において、役員ではない親族(配偶者、子供など)を従業員として雇用し給与を支給する場合、特に注意が必要です。
- 実質的な勤務実態:実際に勤務しているか、業務内容や勤務時間が給与額に見合っているかがチェックされます
- 給与水準の妥当性:同様の職務を行う他の従業員と比較して、不相当に高額な給与でないことが重要です
- 客観的な証拠:タイムカード、業務日報、成果物など、実際に勤務していることを示す客観的な証拠を保存しておく必要があります
- 給与の支払方法:給与は銀行振込で支払い、現金支給は避けるべきです
実務上の安全策:役員の親族に支払う給与は、役員と同様「毎月同額」に設定するのが最も安全です。






役員退職給与の取扱い
役員退職給与は、業績連動給与に該当しないものであれば、不相当に高額な部分を除き、損金算入が認められます。
退職給与の相当額の判断基準
「不相当に高額」かどうかは以下の点から判断されます。
- 役員の業務従事期間
- 退職の事情
- 同業他社の役員退職給与の支給状況
退職金の相当額の目安としては、以下の計算式がよく用いられます。
功績倍率は通常、役職や貢献度によって0.5〜3程度が一般的とされています。
ただし、同族会社の場合、功績倍率の査定が厳しくなる傾向があるため、客観的な資料(同業他社の事例、業界団体の調査結果など)で合理性を説明できるようにしておくことが重要です。






経済的利益の取扱い
法人が役員等に対して金銭以外の経済的利益(社宅の無償提供、無利息貸付、個人的費用の負担など)を供与した場合も役員給与として取り扱われ、定期同額給与等の要件を満たさないと全額損金不算入となります。
経済的利益の具体例と対応
- 社宅の無償提供:適正な家賃相当額から役員負担分を差し引いた金額が経済的利益となります
- 無利息貸付:適正な利息相当額が経済的利益となります
- 個人的費用の負担:役員個人の費用を会社が負担した場合、その全額が経済的利益となります
- 資産の低額譲渡:適正な時価と譲渡価額の差額が経済的利益となります
これらの経済的利益は役員給与として取り扱われるため、定期同額給与等の要件を満たさないと全額損金不算入となります。また、役員個人の所得税の課税対象にもなるため、源泉徴収等の適切な処理が必要です。






役員給与に関するよくある質問
- 役員報酬を期中で増額する方法はありますか?
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原則として、事業年度開始から3ヶ月以内の改定であれば可能です。3ヶ月経過後は「臨時改定事由」がある場合に限り増額が認められます。臨時改定事由には、役員の職制上の地位の変更や職務内容の重大な変更が該当します。単なる業績向上や役員の貢献度増加だけでは、臨時改定事由にはなりません。
- 役員賞与は全額損金不算入になるのですか?
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役員賞与は原則として損金不算入ですが、事前確定届出給与または業績連動給与の要件を満たせば損金算入が可能です。事前確定届出給与の場合、支給時期と金額を事前に税務署に届け出る必要があります。届出期限や支給条件を厳守することが重要です。
- 税務調査で役員給与について何をチェックされますか?
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役員給与に関する税務調査では、主に以下の点がチェックされます:①定期同額給与の要件(特に期中の改定有無)、②事前確定届出給与の届出内容と実際の支給内容の一致、③個人的費用、役員への貸付金④同族会社における親族役員への給与の妥当性。特に同族会社の場合、役員報酬が「不相当に高額」でないか厳しくチェックされます。
- 法人と役員間の金銭貸借はどのような点に注意すべきですか?
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役員から法人への貸付金(役員貸付金)の場合、適正な利息を支払わないと、過大な利息相当額が隠れた役員給与と判断されるリスクがあります。また、法人から役員への貸付金(役員借入金)の場合は、適正な利息を徴収しないと、利息相当額が役員への経済的利益と判断され、役員給与として損金不算入となる可能性があります。
役員報酬の税務処理について、さらに詳しい情報が知りたい方は、関連記事もご覧ください。





まとめ:役員給与の損金算入のポイント
定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかに該当するか確認
定期同額給与の改定は原則として事業年度開始から3ヶ月以内に実施
臨時改定事由がある場合は、期中の改定でも損金算入可能に
業績悪化時の減額は認められるが、増額は認められない
不相当に高額な部分は損金不算入となるため、同業他社との比較などで金額の妥当性を確保
役員の親族への給与は、勤務実態と金額の合理性を客観的に説明できるようにする
役員報酬の税務処理は複雑ですが、ルールを理解し適切に対応することで、思わぬ税負担を防ぐことができます。特に同族会社の場合は、より慎重な対応が求められます。この記事の内容を参考に、適切な役員報酬の設計と処理を行いましょう。



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