- 令和6年度版の中小企業向け賃上げ促進税制の概要と計算方法
- 最大45%の税額控除を受けるための要件と活用法
- 5年間の繰越控除制度と赤字決算時の活用ポイント
- 賃上げ促進税制の計算方法がわからない
- 計算手順を具体的に知りたい
- 「補塡額」と「雇用安定助成金額」の違いがわからない
令和6年4月1日以降に開始する事業年度から適用される「賃上げ促進税制」が大きく改正されました。この制度を活用すれば、賃上げを行った中小企業は最大で45%もの税額控除を受けられます。
本記事では、制度の概要から具体的な計算方法、申請手続きまで、実務で使える情報を徹底解説します。




中小企業向け賃上げ促進税制の概要
中小企業向け賃上げ促進税制は、従業員の給与を増加させた中小企業者等に対して税額控除を行う制度です。令和6年度税制改正では制度が大幅に拡充されました。
制度の目的
この制度は、中小企業の賃上げを税制面から後押しし、労働者の所得向上を通じて経済全体の好循環を実現することを目指しています。
適用対象者
この制度を利用できるのは、次の方々です:
- 中小企業者等(資本金1億円以下の法人など)
- 青色申告書を提出する常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主






適用期間
毎年改訂があり、今回紹介する制度は、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度が対象です。
個人事業主については、令和7年から令和9年までの所得が対象となります。
税額控除の仕組み
この制度では、従業員の給与増加額に応じて段階的な税額控除を受けることができます。基本の控除率は以下の通りです:
賃上げ要件 | 控除率 |
---|---|
雇用者給与等支給額が前年度比1.5%以上増加 | 15% |
雇用者給与等支給額が前年度比2.5%以上増加 | 30% |
さらに、次の上乗せ要件を満たすことで、控除率がアップします
上乗せ要件 | 追加控除率 |
---|---|
教育訓練費が前年度比5%以上増加など | 10% |
くるみん認定・えるぼし認定(2段階目以上)等の取得 | 5% |






賃上げ要件の詳細
1. 雇用者給与等支給額1.5%増加要件
雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて1.5%以上増加している場合、控除対象雇用者給与等支給増加額の15%が税額控除の対象となります。
雇用者給与等支給額の計算方法
計算には、国内雇用者に対する給与等の支給額の総額を基準とします。
給与支給額から「補塡額」を控除し、「雇用安定助成金額」や「役務の提供の対価として支払を受ける金額」は別途調整します。
重要なのは、「補塡額」は控除されますが、「雇用安定助成金額」は控除されないという点です。






2. 雇用者給与等支給額2.5%増加要件
雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて2.5%以上増加している場合は、控除対象雇用者給与等支給増加額の30%が税額控除の対象となります。
用語解説:控除対象雇用者給与等支給増加額
控除対象雇用者給与等支給増加額とは、「適用事業年度の雇用者給与等支給額」から「前事業年度の雇用者給与等支給額」を控除した金額です。
ただし、調整雇用者給与等支給増加額が上限となるため注意が必要です。
実際の計算例を見てみましょう:
実務での計算例
ここでは実際の計算例を紹介します。以下は架空の中小企業A社の事例です。
項目 | 前事業年度 | 適用事業年度 | 計算式/結果 |
---|---|---|---|
国内雇用者給与等支給額 | 9,500万円 | 9,900万円 | – |
他から支払を受けた給与の額(補塡額) | 100万円 | 150万円 | 控除対象 |
雇用安定助成金等の額 | 50万円 | 0円 | 別途控除 |
調整後雇用者給与等支給額 | 9,350万円 | 9,750万円 | 9,900万円-150万円 |
増加率 | – | – | (9,750万円-9,350万円)÷9,350万円=4.28% |
控除対象雇用者給与等支給増加額 | – | – | 9,750万円-9,350万円=400万円 |
基本控除率 | – | – | 30%(2.5%以上増加) |
基本税額控除額 | – | – | 400万円×30%=120万円 |
計算のポイント
賃上げ促進税制の計算では、以下の情報を正確に集計することが重要です:
- 前事業年度と適用事業年度の「給与等支給額」「補塡額」「雇用安定助成金額」
- 前事業年度と適用事業年度の「教育訓練費の額」
- 事業年度の月数が異なる場合は適切に調整する
上乗せ要件の詳細
上乗せ要件①:教育訓練費増加要件
以下の2つの条件を両方満たすと、控除率が10%上乗せされます:
- 教育訓練費の額が前事業年度比で5%以上増加していること
- 教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であること






教育訓練費には主に以下のような費用が含まれます:
- 研修施設やセミナールームの賃借料
- 教育訓練のための外部委託費
- 従業員を外部研修や講習会に参加させる費用
- 資格取得・技能習得の費用補助
実務での教育訓練費抽出方法
多くの企業では教育訓練費を単独の勘定科目として管理していないため、以下の勘定科目から教育訓練に関する支出を抽出する必要があります:
- 「採用教育費」教育訓練に関する部分
- 「研修費」の全額または一部
- 「福利厚生費」から社員研修や資格取得支援に関する費用
抽出する際は内容を確認し、教育訓練の目的で支出された費用かどうかを判断することが重要です。
項目 | 前事業年度 | 適用事業年度 | 計算式/結果 |
---|---|---|---|
教育訓練費の額 | 80万円 | 95万円 | – |
増加率 | – | – | (95万円-80万円)÷80万円=18.75% |
雇用者給与等支給額に占める割合 | – | – | 95万円÷9,900万円=0.96%(0.05%以上) |
要件判定 | – | – | 適用可(5%以上増加) |
上乗せ控除率 | – | – | 10% |
上乗せ税額控除額 | – | – | 400万円×10%=40万円 |
合計税額控除額 | – | – | 120万円+40万円=160万円 |
上乗せ要件②:子育て両立・女性活躍支援要件
厚生労働省が認定する「くるみん認定」や「えるぼし認定(2段階目以上)」を取得していると、控除率が5%上乗せされます。






繰越控除措置(令和6年度からの新設)
令和6年度税制改正では、新たに繰越控除措置が導入されました。これにより、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額について、最長5年間の繰越しが可能になりました。






項目 | 令和6年度 | 令和7年度 | 令和8年度 |
---|---|---|---|
法人税額 | 0円(赤字) | 200万円 | 300万円 |
控除可能額 | 160万円 | 残り160万円 | 残り40万円 |
当期控除額 | 0円 | 120万円(※) | 40万円 |
繰越残額 | 160万円 | 40万円 | 0円 |
繰越控除の重要ポイント
未控除額が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に「繰越税額控除限度超過額の明細書」を必ず添付してください。この明細書の提出がないと、未控除額は繰り越せません。
申請手続きと必要書類
賃上げ促進税制を利用するためには、確定申告時に必要書類を提出する必要があります。
- 確定申告書
- 控除対象雇用者給与等支給増加額の計算明細書
- 控除を受ける金額の明細書
- 適用額明細書(法人のみ)
繰越控除制度を利用する場合は、繰越税額控除限度超過額の明細書も必要です。
計算上の注意点
賃上げ促進税制を適用する際は、以下の点に注意が必要です。
決算期変更時の調整方法
前事業年度と適用事業年度で月数が異なる場合は、雇用者給与等支給額の調整が必要です。
例えば
- 前事業年度が12か月で適用事業年度が6か月の場合:前事業年度の雇用者給与等支給額×6/12
- 前事業年度が6か月で適用事業年度が12か月の場合:前事業年度の雇用者給与等支給額×12/6






まとめ:賃上げ促進税制の活用ポイント
中小企業向け賃上げ促進税制は、従業員の給与を増やすことで税負担を軽減できる大変有利な制度です。
令和6年度から導入された繰越控除措置により、さらに使い勝手が向上しました。
- 雇用者給与等支給額を前年度比で1.5%以上(または2.5%以上)増加させる
- 教育訓練費増加などの上乗せ要件を満たすと最大45%の税額控除が可能
- 赤字決算の場合でも繰越控除措置により最大5年間控除を繰り越せる
- 確定申告時に必要書類を漏れなく提出する



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