- どのような報酬に源泉徴収義務があるのか知りたい
- 報酬への源泉徴収を怠った場合のリスクは?
- 報酬への源泉徴収が必要なケースと不要なケースの違いは?
- 源泉徴収義務のグレーゾーンにどう対応すべき?
事業者が支払う報酬に対する源泉徴収義務は、多くの中小企業や個人事業主にとって頭を悩ませる税務問題です。報酬への源泉徴収を怠ると最大20.42%の税率で追徴課税を受けるリスクがあります。過去には源泉徴収義務を怠ったことで636万円が課税された事例や、535万円が課税された事例があります。
どの報酬に源泉徴収義務があるのか、どうすれば源泉徴収義務を適切に果たせるのか――この記事では報酬支払いに関する源泉徴収義務の全体像から実務手続き、最新の制度変更(2025年5月時点)までを網羅し、あなたの会社を税務リスクから守るための必須知識をまとめました。
報酬支払いにおける源泉徴収義務の基本
法人・個人を問わず、事業者が一定の報酬を個人に支払う場合には源泉徴収義務が発生します。この源泉徴収義務を怠ると、本来徴収すべき税額に加えて不納付加算税(10%)と延滞税(年2.4%〜8.7%)が課されます。(※)




特に個人事業主への報酬支払いは注意が必要です。法人への報酬支払いは原則として源泉徴収義務はありませんが、個人事業主への報酬支払いは10.21%(100万円超の部分は20.42%)の源泉徴収義務があります。この源泉徴収義務を怠ると、会社が全額負担する可能性があります。
源泉徴収義務が発生する報酬の種類と具体例
事業者が個人に支払う報酬のうち、源泉徴収義務が発生するのは国税庁の規定するものに限られます。源泉徴収義務があるかどうかは、報酬の性質によって判断されます。
源泉徴収義務が発生する主な報酬
- 原稿料・講演料に関する報酬:
著作権使用料、デザイン料、写真撮影料、イラスト作成料など
- 専門家への報酬:
弁護士、税理士、公認会計士、司法書士、建築士などへの報酬
- 芸能人やモデルへの報酬:
出演料、モデル料など
実務では上記のうち1と2が源泉徴収義務のある報酬の大部分を占めます。3の芸能人への報酬は一般的な中小企業では発生頻度が低いでしょう。






源泉徴収が不要な報酬の具体例
- 商品の対価(物品販売代金)
- 修理代・メンテナンス費用
- 運送料・配送料
- 広告掲載料
- 清掃料
- 印刷代
- 翻訳料(著作権の譲渡を伴わない場合)
同じようなサービスでも源泉徴収義務の有無が異なる場合があります。例えばWebデザインは源泉徴収義務の対象ですが、Webサイト制作は対象外とされています。判断に迷う場合は税務署に確認するか、安全策として源泉徴収を行うことをお勧めします。
具体的な報酬の区分については国税庁の報酬・料金等に関するページに記載されており、ここに該当する報酬への支払いのみが源泉徴収義務の対象となります。
源泉徴収義務のグレーゾーン対応:安全策の取り方
法的に源泉徴収義務がない場合でも、以下のケースでは任意で源泉徴収することで将来の税務リスク回避につながります。
個人事業主と法人の区別が不明確な場合の源泉徴収義務
- 法人番号の有無:法人には必ず13桁の法人番号が付与されています
- 会社印の確認:法人は会社実印・代表者印を使用します
- 銀行口座の名義:法人口座か個人口座かを確認
- 請求書の表記:「株式会社」などの法人格を示す表記があるか
- 直接確認:不明な場合は取引先に直接確認するのが最も確実






特に屋号を使用している個人事業主が法人として誤認されるケースが多く、真庭市での事例では報酬への源泉徴収義務を怠ったとして追徴課税の対象となりました。
任意団体への報酬支払いと源泉徴収義務
- 法人格の有無確認:登記簿謄本の有無や法人番号の確認
- 法人税納税義務:法人税を納める義務がある団体かを確認
- 代表者の存在:代表者個人との関係性を確認
- 安全策:不明な場合は個人への報酬支払いとして源泉徴収を行う



任意団体(法人格のない団体)への報酬支払いは、判断が難しいで!法人税を納める義務がある団体かどうかを確認するのが確実や。
報酬の性質が曖昧な場合の源泉徴収義務
- 名目と実態の確認:謝礼、研究費、日当など名目に関わらず実態を重視
- 複合サービスの分解:複数の役務提供が混在する場合は内容を分解して判断
- 専門的知識の要素:専門的知識・技術を必要とする役務かどうか
- 著作権との関連:著作権の譲渡・使用許諾を伴うかどうか
- 安全策の実施:判断に迷う場合は源泉徴収を行っておく
報酬の名目(謝礼、研究費、日当など)と実態が異なる可能性がある場合や、複数の役務提供が混在しているケースでは、源泉徴収義務を果たしておくべきです。受け取り側は確定申告で精算できるため、支払側のリスクを抑えられます。
個人事業主から源泉徴収を依頼された場合






任意の源泉徴収対応のポイント
- 法的根拠の説明:本来源泉徴収義務がない旨を説明
- 資金繰りへの影響:源泉徴収によるキャッシュフローへの影響を説明
- 税務上の違い:個人事業主は確定申告で経費控除した後に課税されることを説明
- 書面での確認:任意での源泉徴収を行う場合は書面で合意を残す
法的に源泉徴収義務のない報酬でも、個人事業主から依頼があれば源泉徴収して納付することは可能です。ただし、源泉徴収されると報酬を受けた時点で税金が差し引かれるため、個人事業主の資金繰りという観点からは一般的に不利になります。
報酬への源泉徴収義務の実務上の納付手続き
納付方法の種類
- 窓口納付:
所得税徴収高計算書を記入し、税務署や金融機関の窓口で納付
- 電子納税(e-Tax):
インターネットで電子申告・納税
- キャッシュレス納付:
クレジットカードやスマホ決済で納付(決済手数料がかかる)
報酬から源泉徴収した所得税は、原則として報酬等を支払った月の翌月10日までに納付します。e-Taxを利用する場合は以下の手順で進めます。
e-Taxでの納付手順
- e-Tax利用開始手続き:
e-Tax利用開始届出書を提出して利用者識別番号を取得
- 徴収高計算書の作成・送信:
e-Taxソフト(WEB版)で所得税徴収高計算書を作成し送信
- 納付方法の選択:
ダイレクト納付、インターネットバンキング、クレジットカード、QRコード納付のいずれかで納付
中小企業向けの納期の特例制度






納期の特例制度のメリットと申請方法
- 対象事業者:給与の支給人員が常時10人未満の中小企業
- 納付期限:
1月〜6月分:7月10日までにまとめて納付
7月〜12月分:翌年1月20日までにまとめて納付
- 申請方法:「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出
- 承認通知:申請書提出月の翌月末日までに却下通知がなければ自動的に承認
- 適用範囲:報酬への源泉徴収分も含めて適用される
申請方法は簡単で、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出するだけです。申請書提出月の翌月末日までに却下通知がなければ自動的に承認されます。
源泉徴収義務に関する記録管理と保存義務
源泉徴収簿は7年間の保存義務があります。記録すべき主な情報は
源泉徴収簿に記録すべき情報
- 基本情報:
支払先の住所、氏名、個人番号(マイナンバー)など
- 報酬情報:
支払日、支払金額、源泉徴収税額、支払い方法
- 報酬の内容:
どのような役務の対価か、契約内容
- 関連書類:
契約書、請求書、領収書などの証憑類



わざわざ源泉徴収簿を作らんでも、会計ソフトで記録して証憑を残しておけばOKやで!!
- 源泉徴収義務のある報酬を誤って全額支払ってしまった場合、どうすればよいですか?
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報酬を誤って全額支払ってしまった場合でも、源泉徴収義務は会社側にあります。速やかに以下の対応を取りましょう:①受給者に源泉徴収税額の返還を依頼する、②それが難しい場合は会社が立て替えて納付する、③「源泉所得税の納付書」を作成して納付する。期限を過ぎると延滞税や不納付加算税がかかるため、早急な対応が必要です。
- フリーランスへの支払いが「業務委託費」となっている場合も源泉徴収義務は発生しますか?
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「業務委託費」という名称だけでは源泉徴収義務の有無は判断できません。実際の業務内容が重要です。例えば、原稿執筆やデザイン制作、コンサルティングなどの専門的な役務提供であれば、名称にかかわらず源泉徴収義務があります。一方、単純な作業の対価や物品の販売代金であれば源泉徴収義務はありません。判断に迷う場合は、税務署に確認するか、安全策として源泉徴収を行うことをお勧めします。
あわせて読みたい【税務調査対策】外注費と給与の区分け完全ガイド この記事でわかること 外注費と給与の区分けに関する税務上の考え方がわかる 外注費が否認されるリスクとその影響額が具体的にわかる 形式面・実質面から見た外注費の判… - 個人事業主が「源泉徴収不要」と言ってきた場合は、源泉徴収義務を無視してもよいですか?
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いいえ、源泉徴収義務が法律で定められている報酬の場合(国税庁のページに該当する場合)、支払先の意向に関わらず源泉徴収する義務があります。「源泉徴収不要」との申し出があっても、法令に基づき源泉徴収義務を果たさなければなりません。源泉徴収しなかった場合、後日の税務調査で指摘を受け、会社が本来徴収すべき税額に加えて延滞税や不納付加算税を負担することになります。支払先に対しては、源泉徴収義務が法的義務であることを丁寧に説明しましょう。
まとめ:報酬支払いにおける源泉徴収義務対応ポイント
法人番号の確認、振込先口座の名義確認などで、取引先が法人か個人事業主かを判別し、源泉徴収義務の有無を判断します。
報酬の性質が曖昧な場合や、取引先の法人・個人の区別が不明確な場合は、源泉徴収義務を果たしておくことでリスクを回避できます。
源泉徴収簿をはじめとする関連書類は7年間保存する義務があります。個人情報の取り扱いにも注意しましょう。
個人事業主との取引や国際取引においては、源泉徴収義務の要否や税率について特に注意が必要です。適切な源泉徴収義務の履行は、税務リスクを回避するだけでなく、取引先との信頼関係構築にも寄与します。



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