- 建設業で簡易課税制度を選択すべきか迷っている
- インボイス制度で一人親方との取引はどう変わる?
- 経過措置期間中に何をすべきかわからない
- 簡易課税の届出タイミングを逃したくない
- 原則課税と簡易課税、どちらが得になるか知りたい
建設業界では一人親方との取引が多く、インボイス制度の影響が深刻です。




特に消費税の簡易課税制度の活用が、今後の税負担を大きく左右する可能性があります。






この記事では、建設業者が知っておくべき簡易課税制度の基本から、インボイス制度への実務対応まで、具体的な試算例と対策スケジュールをお伝えします。
建設業の簡易課税制度とは(第3種事業・みなし仕入率70%の仕組み)
建設業における簡易課税制度は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選択できる制度です。






建設業は第3種事業(みなし仕入率70%)に該当
建設業は原則として第3種事業に分類され、みなし仕入率は70%となります。これは売上にかかる消費税額の70%相当を仕入税額控除として計算できるという意味です。






建設業の事業区分と例外ケース(分かりやすく説明)
- 第3種事業(70%):普通の建設工事、お部屋の内装工事、道路工事など、よくある建設のお仕事
- 第4種事業(60%):元請け会社から材料をタダでもらって工事する場合や、足場を組んだり解体したりする工事
- 第5種事業(50%):設計図を描いたり、土地を測ったり、建設の相談に乗ったりする頭脳労働系のお仕事
実務では複数の事業区分にまたがる場合もあるため、売上の内容を正確に把握することが重要です。






簡易課税制度のメリット・デメリット(建設業で選択すべきか?)
建設業が簡易課税制度を選択する際の判断基準を詳しく解説します。
簡易課税制度の良いところ
- 事務作業がものすごく楽になる:材料を買った時の領収書を一つ一つチェックする必要がない
- インボイス制度でも安心:正式な領収書がなくても一定の割合で税金を安くしてもらえる
- 一人親方対策になる:消費税を払わない職人さんと取引しても、控除の割合が確保される
簡易課税制度の困ったところ
- 実際の材料費が多い場合は損する:本当は材料費がたくさんかかる建設業では、普通の計算方法の方が得する場合が多い
- 2年間は変更できない:一度選択すると2年間は普通の計算方法に戻せない
【重要】どちらが得か?課税方式の判断基準と試算例
建設業では外注比率と一人親方との取引割合が判断の重要な要素となります。以下の試算例で具体的に比較してみましょう。






計算方法 | 控除額計算 | 納税額 |
簡易課税(70%) | 300万円×70%=210万円 | 90万円 |
原則課税(実仕80%) | 300万円×80%=240万円 | 60万円 |
原則課税(実仕60%) | 300万円×60%=180万円 | 120万円 |
結論:実際の材料費や外注費が70%を超える場合は普通の計算方法が得
計算方法 | 控除額計算 | 納税額 |
簡易課税(70%) | 300万円×70%=210万円 | 90万円 |
普通の計算(実仕80%) | 300万円×80%=240万円 | 60万円 |
普通の計算(実仕60%) | 300万円×60%=180万円 | 120万円 |






パターン別:どちらを選ぶべきか(中学生でも分かる判断基準)
- 簡易課税が良いケース:職人さんへの外注が中心で材料費が少ない、実際の仕入が売上の70%未満
- 普通の計算が良いケース:材料費がたくさんかかる、大きな機械を買う予定がある、実際の仕入が売上の70%超
- 簡易課税を検討すべきケース:消費税を払わない職人さん(一人親方)との取引が多い、経理の手間を減らしたい
📊 簡易課税制度を選ぶべき?判断フローチャート
5,000万円以下ですか?
売上の70%未満ですか?
特に一人親方との
取引が多い場合は
絶対有利
普通の計算の方が
得になる可能性
詳しく計算必要
過去3年分のデータで試算してもらおう
一人親方への外注が多い建設業界の特性
建設業界では一人親方(個人事業主の職人)との取引が全体の相当な割合を占めるのが特徴です。
一人親方とインボイス制度の関係性
一人親方の多くは売上1,000万円以下の免税事業者であり、インボイス未登録のケースが大半です。これにより元請企業では以下の問題が発生しています。






今までは消費税を払わない職人さんと取引しても、元請け会社は全額税金を安くしてもらえていました。
でも今は、正式な領収書がない分は税金を安くしてもらえなくなったので、元請け会社の負担が増えています。
この問題を解決する一つの方法が、簡易課税制度の活用です。
重要:インボイス登録した会社も簡易課税制度は一緒に使えるんです。
「インボイス登録したから簡易課税は選択できない」という勘違いがありますが、条件を満たせば両方使えます。
元請け企業ができる対応
- 取引条件の見直し:消費税分を工事代金から差し引く交渉をする
- 課税事業者への移行促進:重要な職人さんには消費税を払う事業者になってもらうよう依頼
- 簡易課税制度の検討:消費税を払わない職人さんと取引しても一定の控除を確保
ただし、取引条件の見直しを行う際は独占禁止法や下請法との関係に注意が必要です。公正な取引関係を保つことが重要です。






インボイス制度の経過措置:現状とこれから(控除80%→50%→0%へ)
2023年10月に開始したインボイス制度では、免税事業者との取引に対して段階的な経過措置が設けられています。






経過措置のスケジュールと対応策
期間 | 控除割合 | 実務への影響 | 対応策 |
2023年10月~2026年9月 | 80% | 現在の期間・負担は限定的 | 取引先との交渉準備 |
2026年10月~2029年9月 | 50% | 負担が本格化 | 取引条件見直し実行 |
2029年10月以降 | 0% | 全額控除不可 | 課税事業者移行完了 |
年間1,000万円を一人親方に外注している場合(消費税100万円)
- 現在(~2026年9月):80万円まで控除可能→負担増20万円
- 2026年10月~:50万円まで控除可能→負担増50万円
- 2029年10月~:控除不可(0円)→負担増100万円
6年間で段階的に年100万円の負担増となる計算






経過措置終了後は免税事業者との取引で一切控除できなくなるため、建設業界への影響は深刻です。
簡易課税制度なら今後も70%控除を確保できる
しかし、ここで重要なのが簡易課税制度の大きなメリットです。簡易課税制度を選択していれば、免税事業者との取引であっても常に70%の控除が確保されます。






簡易課税制度適用時の控除比較(同じ条件で計算)
計算方法 | 2025年 | 2027年 | 2030年 |
普通の計算 | 80万円控除 | 50万円控除 | 0円控除 |
簡易課税(70%) | 70万円控除 | 70万円控除 | 70万円控除 |






簡易課税制度の免税事業者対策効果
- 経過措置の影響を受けない:2029年以降も70%控除が継続
- 一人親方の登録状況に左右されない:インボイス未登録でも一定の控除を確保
- 取引条件の見直し圧力が軽減:税務上の不利益が少ないため、無理な価格交渉をする必要が減る
- 事務負担の軽減:個々の取引先のインボイス対応状況を細かく管理する必要がない
⏰ インボイス制度の経過措置タイムライン
🟢 第1段階:80%控除期間
一人親方(免税事業者)との取引でも80%まで税金を安くしてもらえる期間です。 まだ負担は軽微ですが、準備期間として活用しましょう。
80%控除
70%控除
🟡 第2段階:50%控除期間
控除が半分に減少!税負担が本格的に増加します。 この期間に取引条件の見直しや対策を実行する必要があります。
50%控除
70%控除
🔴 最終段階:0%控除
一人親方との取引では全く税金を安くしてもらえなくなります。 建設業界にとって最も厳しい期間の到来です。
0%控除
70%控除
簡易課税制度なら、どの期間でも安定して70%控除!
一人親方との取引が多い建設業には最適解かも
簡易課税制度選択の手続きとタイミング
簡易課税制度を利用するためには、適切な時期に届出書を提出する必要があります。






届出の期限と手続き(中学生でも分かる説明)
- 提出期限:使いたい年度が始まる前日まで
- 提出書類:消費税簡易課税制度選択届出書(難しい名前ですが、税務署でもらえます)
- 提出先:管轄の税務署(会社の住所を担当している税務署)
- 注意点:2年間は変更不可(一度決めたら2年間は変えられません)
例えば、4月1日~翌3月31日事業年度の法人の場合、適用したい期の開始日前日である3月31日までに届出が必要です。
届出を出すタイミングを逃すと適用が1年遅れるため、要件を満たすなら早めに検討・準備することが重要です。簡易課税の届出関連は税理士でもよく間違える事例のため、注意が必要です。


【実践編】今から実行すべき対策スケジュール
インボイス制度開始後の経過措置期間を有効活用するため、時系列で整理した対策スケジュールをご紹介します。






2025年(今年)にやるべきこと
緊急度高:現状把握(今すぐやること)
- 一人親方・免税事業者との取引実態調査(お金の額・重要度を数字で整理)
- 簡易課税vs普通の計算の比較(過去3年分の数字で確認)
- 重要な職人さんへのインボイス登録状況確認(正式な領収書を出せるかチェック)
- 簡易課税選択届出書の提出(得だと判断した場合)
2026年~2029年の中期対策
段階的な取引条件見直し(計画的な対応)
- 2026年3月まで:免税事業者の職人さんに消費税を払う事業者になってもらう働きかけ完了
- 2026年10月:控除50%期間開始→取引価格の段階的調整実施
- 2029年3月まで:新しい取引先開拓・既存関係の最終調整
- 最優先:自社の計算方式決定(2025年中に決める)
- 高優先:重要な職人さんとの話し合い(2025年~2026年前半)
- 中優先:新しい取引先の確保(2026年~2028年)






専門家への相談と継続的な情報収集
消費税は制度改正が多く複雑なため、専門家への相談をお勧めします。特にインボイス対応や簡易課税選択で迷う場合、専門家のアドバイスで最適解を導けます。






- 建設業で簡易課税を選択する判断基準は?
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材料費が少なく外注費(特に一人親方)の割合が高い場合は簡易課税が有利になりやすいです。具体的には売上に占める材料費や外注費の割合が70%未満であれば簡易課税を検討する価値があります。ただし、2年間は変更できないため、慎重な計算が必要です。
- インボイス制度で一人親方との取引はどう対応すべき?
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まず重要な職人さんには消費税を払う事業者になってもらうよう促し、必要に応じて消費税分の報酬見直しを検討します。また、自社が簡易課税を選択することで控除できない分による負担を軽減することも可能です。経過措置期間を活用して段階的に対応することが重要です。
- 簡易課税の届出はいつまでに出せばいい?
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適用したい事業年度の開始日前日までです。法人の場合、事業年度開始日の前日が期限となります。期限を過ぎると1年間適用が遅れるため注意が必要です。2025年4月から適用したい3月決算法人は、2025年3月31日までに提出が必要です。
- インボイス登録事業者になったら簡易課税は選択できない?
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これは誤解です。インボイス登録事業者も基準期間の課税売上高が5,000万円以下であれば簡易課税制度を選択可能です。むしろインボイス制度下では、免税事業者との取引リスクを軽減するため簡易課税を検討する事業者が増えています。
まとめ:建設業の消費税対策と今後の対応ポイント
インボイス未登録の外注先一覧を作成し、年間取引額と重要度を数字で整理して今後の対応方針を決める
過去3年分のデータで簡易課税(70%)と普通の計算の納税額を比較し、2年間変更できないことを前提に最適な方式を選択する
簡易課税を選択する場合は期限内に届出書を提出し、2年間変更できないことを前提とした経営計画を立てる
2029年の経過措置終了までのスケジュールに沿って、一人親方への登録促進や取引条件の段階的見直しを計画的に実施する
最も重要なのは現状把握と早期の方針決定です。2025年中に自社の取引実態を数字で整理し、最適な課税方式を選択することで、今後6年間の税負担を大きく左右することができます。








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