- 役員貸付金に利息を設定しなければならない理由がわからない
- 適正な利率はどのように決めればいいのか知りたい
- エクセルで効率的に役員貸付金の利息計算をする方法を知りたい
- 税務調査で指摘されないための対策方法を知りたい
会社経営者の方が経営資金として会社からお金を借りる「役員貸付金」。この取引は税務上の重要な注意点があります。特に利息計算を適切に行わないと、税務調査で指摘を受けるリスクが高まります。
この記事では、役員貸付金の基本から適正な利息の計算方法、エクセルでの効率的な計算・管理方法まで、税務調査に対応できる実務ポイントを解説します。特にエクセルを使った具体的な計算手法に重点を置いて説明していきます。




役員貸付金の基本と税務上の重要ポイント
役員貸付金とは
役員貸付金とは、会社が役員(主に社長や取締役)に対して資金を貸し付けることを意味します。これは会社の資金を一時的に役員が使用する形態です。
ただし、会社は営利目的の組織であるため、役員に対しても適切な利息を設定する必要があります。無利息や低金利での貸し付けは、会社が得るべき利益を逸失することになり、税務上の問題となります。
税務上問題となるケース
役員貸付金で特に注意すべき税務上の問題点は以下の3つです:
- 利息未設定:無利息での貸付は会社の利益を損なうため、その分が役員賞与とみなされる
- 適正利率未満:特例基準割合(2024年:0.9%)よりも低い利率での貸付も同様に問題視される
- 返済計画なし:返済予定のない貸付は実質的な役員賞与と判断されるリスクがある






役員貸付金は税務調査でよく指摘される項目の一つです。特に金額が大きい場合や長期間返済されていない場合は要注意。適切な利息設定と返済計画の文書化が重要です。





役員貸付金の適正な利息率と計算方法
適正な利率の設定基準
役員貸付金の利率(認定利息率)は、主に以下の基準で決定します:
- 会社が他から借り入れて貸し付けた場合:その借入金の利率(国税庁の指針では、役員に金銭を貸し付けた場合の利息相当額は、会社が他から借り入れて貸し付けた場合はその借入金の利率を適用します)
- 上記以外の場合:貸付を行った日の属する年の「特例基準割合」
2024年の特例基準割合は0.9%となっています。この特例基準割合は、「各年の前々年の10月から前年の9月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合として、各年の前年の12月15日までに財務大臣が告示する割合に、年1%の割合を加算した割合」として算出され、毎年更新される可能性があります。
利息計算の基本式
役員貸付金の利息計算の基本式は以下の通りです
元本(貸付金残高)の計算方法には、以下の4つの代表的なアプローチがあります:
計算方法 | 計算式 | 適用場面 |
---|---|---|
期末残高方式 | 期末の貸付金残高に利率をかける | 残高が逓減傾向の場合 |
期首期末平均方式 | (期首残高+期末残高)÷2に利率をかける | 一般的な場面 |
月次平均方式 | 各月末残高の平均値に利率をかける | 残高の変動が大きい場合 |
日割計算方式 | 日々の残高を追跡して計算 | 頻繁な入出金がある場合 |
実務上は、期首期末平均方式や月次平均方式が多く採用されています。






エクセルでの役員貸付金利息計算の実践法
エクセルで使用する基本計算式
エクセルで役員貸付金の利息を効率的に計算するための基本的な計算式を紹介します。これらの関数を使いこなすことで、正確な計算と管理が可能になります。
項目 | エクセル計算式 | 説明 |
---|---|---|
純貸付金額 | =MAX(貸付金残高-借入金残高,0) | 常にプラスまたはゼロの値を返す |
平均残高 | =(貸付金期首残高+貸付金期末残高-借入金期首残高-借入金期末残高)/2 | 貸付金と借入金の差額の平均を計算 |
月間利息 | =平均残高*0.9%*12/365 | 月割り計算 |
MAX関数を活用した利息計算の効率化
役員貸付金と役員借入金の両方がある場合、純額に対して利息計算を行うのが一般的です。このとき、MAX関数を使うと計算が格段に効率化されます。
MAX関数を使った役員貸付金の純額計算
この数式を使うと、貸付金が借入金よりも少ない(マイナスになる)場合でも自動的に0が返されるため、余計な条件分岐が不要になります。
例: 貸付金1,000,000円、借入金1,500,000円の場合
=MAX(1000000-1500000, 0) → =MAX(-500000, 0) → 0円
この方法を使えば、複雑なIF関数を使わなくても、自動的に「貸付金>借入金」の場合のみ利息計算が行われるようになります。期首と期末の平均残高を計算する場合も同様に活用できます:
平均純貸付残高 = (MAX(期首貸付金-期首借入金, 0) + MAX(期末貸付金-期末借入金, 0)) / 2
エクセル表の基本構成例と活用法
役員貸付金の利息計算用のエクセルテンプレートは、以下のような構成が効果的です。このテンプレートを応用して、毎月の利息を自動計算できるようにしましょう。
役員貸付金利息計算表(エクセルテンプレート)
月 | 貸付金期首残高 | 貸付金期末残高 | 借入金期首残高 | 借入金期末残高 | 平均残高 | 利息(0.9%) |
---|---|---|---|---|---|---|
1月 | 2,434,999 | 2,730,431 | 1,233,886 | 1,727,473 | 1,102,036 | 842 |
2月 | 2,730,431 | 3,180,431 | 1,727,473 | 2,887,436 | 647,977 | 495 |
合計 | 1,337 |
※平均残高列のエクセル数式: =((B2+C2)-(D2+E2))/2
※利息列のエクセル数式: =F2*0.9%/12
※合計行のエクセル数式: =SUM(G2:G10)
利息の仕訳処理
役員貸付金の利息発生時の仕訳は以下のように行います:
(借方)未収収益 | 8,625円 | (貸方)受取利息 | 8,625円 |
期末に未収利息を計上し、入金があった時点で以下の仕訳を行います:
(借方)現金預金 | 8,625円 | (貸方)未収収益 | 8,625円 |






エクセルを活用した税務調査対策のためのポイント
エクセルでの利息計算における3つの注意点
- エクセルでは単利計算関数を使用し、複利計算は避ける(=元本*利率*期間)
- 適用利率セルは変数として独立させ、毎年更新しやすくする
- ROUND関数で端数処理を統一する(=ROUND(計算結果, 0)で円未満切り捨て)
役員貸付金管理用エクセルテンプレート
役員貸付金の管理を効率化するため、すぐに使えるエクセルテンプレートを用意しました。このテンプレートには以下の機能が搭載されています。
エクセルテンプレートの機能
- MAX関数を使った純貸付金額の自動計算
- 適用利率の変更に対応した柔軟な設計
- 12ヶ月分の利息を自動計算するスプレッドシート
以下のボタンからエクセルテンプレートをダウンロードできます。
※ダウンロード後はご自身の会社の状況に合わせてカスタマイズしてご利用ください。
このテンプレートはマクロを使用していないため、どのバージョンのエクセルでも安心してご利用いただけます。シート内の説明に従って必要な情報を入力するだけで、自動的に利息計算が行われる仕組みになっています。






よくある質問
- エクセルで役員貸付金の利息計算をする際のおすすめの関数は何ですか?
-
役員貸付金の利息計算では主に以下の関数を組み合わせることをおすすめします:①ROUND関数で端数処理(円未満切り捨て)②MAX関数でマイナスの排除③日割り計算にしたい場合には、DATEDIF関数で日数計算。これらを組み合わせることで、正確かつ効率的な計算が可能になります。
- 役員貸付金の残高と役員借入金の残高は会計ソフトの度の数値をもってくればいいの?
-
役員貸付金の残高は、役員貸付金の補助科目や役員借入金の補助科目の内、役員に対するものを確認しましょう。そのうち、月初の残高と月末の残高をエクセルに反映します。
- 無利息で役員に貸付を行った場合、いつ課税されるのですか?
-
無利息での役員貸付金は、本来得られるはずだった利息相当額が役員への賞与とみなされ、法人税の調査時に指摘の対象となります。また、役員個人にも所得税が課税されるため、二重の課税リスクがあります。税務調査では通常5〜7年間分が遡って調査されるため、過去の無利息貸付も問題となる可能性があります。
- 役員貸付金の返済期限はどのように設定すべきですか?
-
役員貸付金には具体的な返済期限を設けることが重要です。返済期限が設定されていない場合、税務上「返済する意思がない」と判断され、貸付金全額が役員賞与とみなされるリスクがあります。実務上は、1〜3年程度の明確な返済期限を設定し、返済計画書を作成しておくことが望ましいでしょう。
まとめ:エクセルを活用した役員貸付金の利息計算と管理
月ごとの貸付金・借入金残高を管理する基本シートを作成(SUM関数で自動集計)
MAX関数とROUND関数を組み合わせた正確な利息計算式の設定
条件付き書式とグラフ機能で残高推移と返済状況を視覚的に管理
毎月データを更新し、ファイル名に日付を入れて履歴を残す(例:役員貸付金_2025_04.xlsx)
印刷範囲とヘッダー・フッターを設定し、税務調査用に整理された資料を出力
役員貸付金の適切な管理には、エクセルの活用が欠かせません。基本的な計算式から条件付き書式、グラフ機能まで、エクセルの様々な機能を駆使することで、正確な利息計算と効率的な管理が可能になります。
最終的には、役員貸付金は期限を決めて返済するのが原則。エクセルで作成した返済計画に沿って着実に返済を進めていくことが、税務リスクを低減する最良の方法です。





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