会社の決算書を見て、貸借対照表の「役員貸付金」や「短期貸付金」の欄に、社長や役員への貸付がそのまま残っていないでしょうか。役員貸付金は違法な勘定科目ではありませんが、税務調査では真っ先にチェックされるポイントの一つです。
特に問題になりやすいのが「認定利息」の計上漏れです。無利息や低い利率で貸し付けたままにしていると、本来受け取るべき利息との差額が役員給与とみなされ、追徴課税につながることがあります。令和8年(2026年)は認定利息の適正利率の考え方も変わってきており、古い情報のまま対応していると計算を誤るおそれがあります。
この記事では、国税庁のタックスアンサーをもとに、役員貸付金が税務調査で指摘されやすいポイントを整理し、決算前・調査前にそのまま使える7項目の自己点検チェックリストにまとめました。経営者・経理担当者の方がご自身で確認できるよう、実務目線で解説します。
この記事のポイント
- 役員貸付金が税務調査で指摘されやすい理由と、調査官が確認する視点
- 認定利息の計算方法と、令和8年中の貸付における適正利率の目安(年1.3%)
- 認定利息が課税されない3つの例外条件
- 契約書・内訳明細書・使途・回収可能性まで含めた7項目の自己点検チェックリスト
対象読者:役員貸付金が残っている会社の経営者・経理担当者(簿記の専門知識は不要です)/読了の目安:約8分
ぜいむたん


役員貸付金が税務調査で「必ず見られる」理由
役員貸付金とは
役員貸付金とは、会社が代表者や役員に対して金銭を貸し付けた際に生じる勘定科目です。会社側の帳簿では貸借対照表の資産の部に計上され、将来回収されるべき「会社の財産」として扱われます。役員が会社から一時的にお金を借りたケースだけでなく、会社の資金が役員個人の支出に使われてしまい、精算されないまま貸付金として処理されるケースなど、発生の経緯はさまざまです。
なぜ税務調査で狙われるのか
役員貸付金が重点的に確認される理由は、①利息が適正に計算・計上されているか、②本当に貸付なのか実質的に役員給与ではないか、③回収の見込みがあるか、という3つの論点が同時に絡み合うためです。特に無利息・低利での貸付は、会社が本来受け取るべき利息を放棄しているとみなされ、その分が役員に対する経済的利益(給与)として課税される可能性があります。
放置するとどうなるか
認定利息の計上漏れや使途不明金の存在を指摘されると、法人税の申告漏れ(受取利息の益金算入漏れ)や、役員給与としての源泉徴収漏れとして追徴課税の対象になることがあります。金額が大きくなるほど、また貸付期間が長期化するほど、税務調査での指摘リスクは高まる傾向にあります。






役員貸付金の税務調査 自己点検チェックリスト(7つのチェックポイント)
役員貸付金について税務調査で指摘されやすいポイントを、7つのチェック項目にまとめました。決算前や税務調査の連絡を受けたタイミングで、下の表を使って自己点検してみてください。「いいえ」や「わからない」に該当する項目があれば、後述する解説を確認しながら対応を検討しましょう。
自己点検チェックリスト(7項目)
| No. | チェック項目 | 確認欄 |
|---|---|---|
| ① | 認定利息を計上しているか | □ はい □ いいえ |
| ② | 課税されない例外3つのいずれかに該当するか | □ はい □ いいえ |
| ③ | 給与課税された場合の源泉徴収の要否を検討したか | □ はい □ いいえ |
| ④ | 金銭消費貸借契約書を作成しているか | □ はい □ いいえ |
| ⑤ | 勘定科目内訳明細書に個別記載しているか | □ はい □ いいえ |
| ⑥ | 使途不明な出金を役員貸付金に紛れ込ませていないか | □ はい □ いいえ |
| ⑦ | 貸付金が長期・多額化して回収可能性が問われないか | □ はい □ いいえ |
よくある失敗・税務調査での指摘事例3選
- 社長への貸付を無利息のまま数年放置し、認定利息(例:貸付残高500万円×年0.9%=年4.5万円前後)の計上漏れが毎年積み上がっていた
- 契約書も返済実績もないまま、使途不明の出金が役員貸付金に紛れ込み、貸付ではなく役員賞与(会社側は損金不算入+源泉徴収漏れ)と認定されるリスクを抱えていた
- 「役員への貸付は少額だから」と勘定科目内訳明細書への個別記載を省略し、役員・株主・関係会社は50万円未満でも個別記載という記載要領上の取扱いに反していた






チェック①〜③ 認定利息の計上漏れを防ぐポイント
①認定利息を計上しているか
会社が役員に対して無利息または低い利率で金銭を貸し付けている場合、適正な利率で計算した利息と実際に受け取っている利息との差額は、役員に対する経済的利益とみなされ、給与として課税される可能性があります(国税庁タックスアンサーNo.2606「金銭を貸し付けたとき」)。この差額のことを実務上「認定利息」と呼びます。会社側の会計処理としては、認定利息相当額を受取利息(収益)として益金に算入する必要が生じる点に注意してください。
認定利息は「実際に入金されていなくても」税務上は収益として認識される点に注意が必要です。無利息のまま何年も据え置くと、認定利息の計上漏れが毎年蓄積していくことになります。
認定利息の年別適正利率 早見表
認定利息を計算する際の「適正な利率」は、貸付を行った年によって異なります。会社が金融機関などから借り入れて役員に貸し付けている場合はその借入金の利率を、それ以外の場合は貸付日の属する年の所定利率を用います。近年の推移を年別に整理すると以下の通りです。
認定利息の年別適正利率 早見表
年1.0%(国税庁タックスアンサーNo.2606記載)
年0.9%(国税庁タックスアンサーNo.2606記載)
年1.3%が目安。適用年の国税庁公表値で必ず確認してください。
令和8年中の適正利率は、財務大臣が前年に告示する「平均貸付割合」に一定の割合を上乗せして毎年見直される特例基準割合の考え方にもとづくもので、本記事の年1.3%はあくまで目安です。この利率は年ごとに変動するため、実際に計算する際は、貸付を行う年の国税庁公表値(タックスアンサーNo.2606の最新版)を必ず確認してください。
役員貸付金がいつ発生したか(貸付を実行した年)を確認し、上の早見表で該当する適正利率をチェックします。
「貸付元本×適正利率」で、会社が本来受け取るべき利息額を計算します。
実際に受け取っている利息額との差額を算出し、益金算入・給与認定の要否を検討します。
②課税されない例外3つに該当するか
無利息・低利貸付であっても、以下の3つのいずれかに該当する場合は、認定利息の課税対象から除外されます。順番や条件を自己判断で変えず、国税庁の基準どおりに確認しましょう。
①災害・病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった場合の貸付
→ 該当すれば課税なし
②会社の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定めた場合
→ 定めた利率で計算すれば課税なし
③差額が1年間で5,000円以下の場合
→ 少額として課税なし
適正利率との差額を役員給与として認定利息を計上し、あわせて源泉徴収の要否を検討します。
③給与課税された場合の源泉徴収の要否を検討したか
例外に該当せず認定利息相当額が役員給与として扱われる場合、その経済的利益は役員の給与所得に含まれ、原則として源泉徴収の対象となります。実際に徴収すべき具体的な税額は、源泉徴収税額表やその役員の他の給与額によって異なるため、断定的な計算はできません。判断に迷う場合は税理士など専門家に相談することをおすすめします。






チェック④〜⑤ 契約書・勘定科目内訳明細書の記載を確認する
④金銭消費貸借契約書を作成しているか
役員貸付金について金銭消費貸借契約書を必ず作成しなければならないという法律上の義務があるわけではありません。しかし契約書がないと、税務調査の際に「本当に貸付なのか、実質的には役員賞与ではないか」と疑われやすくなります。貸付日・貸付金額・返済期限・返済方法・利率などを明記した契約書を整え、実際に返済実績(入金記録)を残しておくことで、貸付金であることの説明がしやすくなります。
なぜ貸付が発生したのか、いつ・いくら貸したのかを確認し、記録として整理します。
貸付日・返済期限・返済方法・利率を明記した金銭消費貸借契約書を作成します。
契約どおりに返済し、入金記録を残すことで貸付金であることの説明がしやすくなります。
契約書のひな形や返済スケジュールの管理には、当ブログの役員貸付金Excelテンプレートの記事も参考にしてください。認定利息の具体的な計算例は、認定利息の計算の記事で詳しく解説しています。
⑤勘定科目内訳明細書に個別記載しているか
法人税申告書に添付する「貸付金及び受取利息の内訳書」では、貸付先ごとの期末現在高が原則50万円以上のものを個別に記載し、50万円未満はまとめて記載する取扱いが基本です。ただし、貸付の相手先が役員・株主・関係会社である場合は、期末現在高が50万円未満であっても個別に記載するのが記載要領上の取扱いとされています。役員貸付金は金額の大小にかかわらず個別記載が必要になるケースが多いと考えておくと安全です。
金額基準や様式の欄名は、様式改訂によって変更される可能性があります。申告書を提出する前に、国税庁が公表している最新の様式・記載要領を必ず確認してください(国税庁e-Tax「勘定科目内訳明細書の記載内容の簡素化」)。






チェック⑥〜⑦ 使途不明金と回収可能性をチェックする
⑥使途不明な出金を役員貸付金に紛れ込ませていないか
会社の通帳から出金されたものの、使途が明確でない支出を「仮払金」や「役員貸付金」として一時的に処理しているケースがあります。税務調査では、こうした使途不明の出金について説明を求められ、業務との関連性を説明できない場合には役員に対する賞与と認定されることがあります。役員賞与と認定されると、損金不算入となるだけでなく、源泉徴収漏れとして追徴の対象になるおそれもあります。
⑦貸付金が長期・多額化して回収可能性が問われないか
役員貸付金の残高が年々増え続け、返済の実態がほとんどないような状態が続くと、税務調査で「実質的に回収する意思のない貸付ではないか」と回収可能性を問われることがあります。貸付金額が大きい場合は、役員報酬の見直しによる返済原資の確保や、退職金との相殺、他の資産との整理など、早めに解消方法を検討しておくことが望ましいでしょう。






よくある質問(FAQ)
- 役員貸付金に利息を付けていません。税務調査で必ず指摘されますか?
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会社が役員に無利息または低い利率で貸し付けている場合、適正な利率で計算した利息と実際に受け取った利息との差額(認定利息)が役員給与として課税される論点が生じます(国税庁タックスアンサーNo.2606)。ただし、①災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった場合の貸付、②会社の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定めた場合、③差額が1年間で5,000円以下の場合は課税されない例外があります。適正な利率は貸付を行った年によって異なり、令和4〜令和7年中の貸付は年0.9%、令和8年中の貸付は年1.3%が目安ですが、年により見直されるため適用年の国税庁公表値を確認してください。判断に迷う場合は税理士に相談することをおすすめします。
- 役員貸付金に契約書は必要ですか?作っていないと問題になりますか?
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金銭消費貸借契約書は法律上必ず必要というわけではありませんが、契約書がないと「本当に貸付なのか(実質は役員賞与ではないか)」を税務調査で疑われやすくなります。貸付日・金額・返済条件・利率などを記した金銭消費貸借契約書を整えておくと、貸付金であることの説明がしやすくなります。あわせて実際の返済(入金)実績を残しておくことも有効です。契約書のひな形や返済管理は、当ブログの役員貸付金Excelテンプレートの記事も参考にしてください。
- 役員貸付金は勘定科目内訳明細書に少額でも書かないといけませんか?
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貸付金及び受取利息の内訳書では、貸付先ごとの期末現在高が原則50万円以上のものを個別に記載し、50万円未満はまとめて記載するのが原則ですが、相手先が役員・株主・関係会社の場合は期末現在高が50万円未満でも個別に記載するのが記載要領上の取扱いです。役員貸付金は金額の大小にかかわらず個別記載が必要と考えておくのが安全です。金額基準や様式は改訂されることがあるため、提出前に国税庁の最新の様式・記載要領を確認してください。
役員貸付金 税務調査まとめ:7つのチェックで指摘を防ぐ






いつ、いくら、どんな経緯で貸付が発生したのかを確認します。
令和8年中の貸付は年1.3%が目安(要最新確認)。適正利率との差額が計上されているか確認します。
課税されない例外に該当しないか、金銭消費貸借契約書が整備されているかを確認します。
役員・株主・関係会社への貸付は少額でも個別記載が必要な場合がある点を確認します。
使途不明の出金がないか、長期・多額化していないかを確認し、解消計画を検討します。



参考・情報源
本記事は以下の一次情報をもとに作成しています。最新の取扱いについては、必ず国税庁の公表情報をご確認ください。
- 国税庁 タックスアンサー No.2606「金銭を貸し付けたとき」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2606.htm
- 国税庁 e-Tax「勘定科目内訳明細書の記載内容の簡素化」:https://www.e-tax.nta.go.jp/toiawase/qa/gimuka/22.htm
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