パソコンや車、店舗の内装工事など、事業用に高額な資産を購入すると必ず出てくるのが「減価償却」です。会計ソフトの資産登録画面で「定額法」「定率法」のどちらかを選ぶ場面があり、「違いがよく分からず、とりあえずデフォルトのまま進めてしまった」という個人事業主・経理担当者の方も多いのではないでしょうか。
実は、定額法と定率法は毎年の償却費の計算方法が違うだけで、資産を使い切るまでに経費にできる金額の合計(取得価額)は同じです。ただし、資産の種類によっては選べる方法があらかじめ決まっていたり、法定の方法と違う方法を使うには届出が必要だったりと、選ぶ前に押さえておくべき注意点もあります。
この記事では、国税庁の一次情報(No.2100「減価償却のあらまし」・No.2106「定額法と定率法による減価償却」)をもとに定額法と定率法の違いと計算方法を整理したうえで、同じ資産(取得価額100万円・耐用年数10年)で両者の年次償却額を並べた早見表と、どちらを選ぶべきかのチェックリストで判定していきます。
📌 この記事でわかること
- 減価償却の定額法と定率法の違い・計算式の基本(対象読者:事業用資産を取得した個人事業主・中小企業の経理担当者/読了の目安:約7分)
- 取得価額100万円・耐用年数10年の資産で両者の年次償却額を比べた早見表
- 「償却総額は同じ・時間価値で選ぶ」という定率法が得になる場面と定額法が向く場面
- 建物は定額法のみ・法定償却方法・届出書など、選ぶ前に押さえる制約とチェックリスト
ぜいむたん


定額法と定率法とは(基本的な違い)
定額法=取得価額×償却率で毎年同額
定額法は、資産の取得価額に一定の償却率を掛けて、毎年同じ金額を必要経費(法人は損金)にしていく方法です。国税庁 No.2106「定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)」によると、平成19年4月1日以後に取得した資産の定額法の計算式は「取得価額×定額法の償却率」で、毎年の償却費は基本的に変わりません。例えば取得価額100万円・耐用年数10年(定額法の償却率0.100)の資産であれば、毎年10万円ずつ経費になり、10年でほぼ全額を償却し終える計算です。
定率法=期首帳簿価額×償却率で初期に多く償却
一方、定率法は「その年の初め(期首)の未償却残高×定率法の償却率」で計算します。1年目は取得価額そのものに償却率を掛けるため一番償却費が大きくなり、2年目以降は残高が減るにつれて償却費も年々小さくなっていきます。ただし計算した償却費が一定の金額(償却保証額)を下回った年分からは、「改定取得価額×改定償却率」に切り替えて毎年同額を償却する仕組みになっています(国税庁 No.2106)。
減価償却そのものの仕組みや対象になる資産の考え方は、別記事「減価償却の仕組みと計算方法」で詳しく解説しています。あわせて確認しておくと理解が深まります。
- 償却保証額:取得価額×保証率で計算した下限額
- 改定取得価額:償却保証額を下回った年の期首帳簿価額
- 改定償却率:改定取得価額に掛けて毎年同額を償却するための率
- 200%定率法:平成24年4月1日以後取得の資産に適用される定率法の償却率区分






同じ資産で比べる:定額法と定率法の償却費 早見表
言葉で説明されてもイメージしづらいので、同じ資産で実際に計算して比べてみましょう。ここでは取得価額100万円・耐用年数10年(定額法の償却率0.100、定率法の償却率0.200・改定償却率0.250・保証率0.06552)の資産を例に、10年間の年次償却費と期末帳簿価額を並べています。なお、ここで使っている償却率・改定償却率・保証率は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表第十(耐用年数10年)の値です。実際に適用する率は、資産の耐用年数と取得時期に応じて同省令の別表で必ず確認してください。
その年の初めの未償却残高に、耐用年数ごとに定められた定率法の償却率を掛けて、その年の償却費を仮に計算します。
仮計算した償却費が、取得価額×保証率で計算した「償却保証額」を上回っているかを確認します。上回っていればその金額をそのまま使います。
償却保証額を下回った年からは、その年の期首帳簿価額(改定取得価額)×改定償却率で計算し、以後は毎年同じ金額を1円になるまで償却します。
| 年 | 定額法 償却費 | 定額法 期末帳簿価額 | 定率法 償却費 | 定率法 期末帳簿価額 |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 100,000円 | 900,000円 | 200,000円 | 800,000円 |
| 2年目 | 100,000円 | 800,000円 | 160,000円 | 640,000円 |
| 3年目 | 100,000円 | 700,000円 | 128,000円 | 512,000円 |
| 4年目 | 100,000円 | 600,000円 | 102,400円 | 409,600円 |
| 5年目 | 100,000円 | 500,000円 | 81,920円 | 327,680円 |
| 6年目 | 100,000円 | 400,000円 | 65,536円 | 262,144円 |
| 7年目 | 100,000円 | 300,000円 | 65,536円(改定償却率) | 196,608円 |
| 8年目 | 100,000円 | 200,000円 | 65,536円(改定償却率) | 131,072円 |
| 9年目 | 100,000円 | 100,000円 | 65,536円(改定償却率) | 65,536円 |
| 10年目 | 99,999円 | 1円 | 65,535円 | 1円 |
累計償却額を5年目までで比べると、定額法は50万円(10万円×5年)であるのに対し、定率法は取得価額100万円から期末帳簿価額32万7,680円を差し引いた67万2,320円です。定率法のほうが5年間で17万2,320円多く経費にできる、つまりそれだけ早く税負担を抑えられるということになります。ただし7年目以降は改定償却率により毎年6万5,536円ずつの均等償却に切り替わり、定額法の毎年10万円を下回る点にも注目してください。






どちらが得か——「総額は同じ・時間価値で選ぶ」
償却総額は取得価額が上限で同じ
定額法でも定率法でも、その資産について経費にできる金額の合計は取得価額(実務上は残存簿価1円を残した金額)が上限で、両者に差はありません。つまり「定率法を選べば税金がトータルで安くなる」というのは正確ではなく、税率が一定であれば10年間で納める税額の合計はどちらの方法でも基本的に変わらない、という点は誤解しないようにしましょう。
定率法は早期償却でキャッシュ回収が早い/定額法は利益計画が立てやすい
差が出るのは「いつ経費になるか」というタイミングです。定率法は初年度に多く償却できるため、資産を取得した年の利益を圧縮でき、資金繰りを優先したい場面では有利に働きやすくなります。ただし取得年の利益が小さければ償却費を使い切れないこともあり、常に定率法が有利とは限りません。一方、定額法は毎年一定額なので、複数年にわたる利益計画や損益の見通しを立てやすいというメリットがあります。開業直後で資金繰りを優先したいなら定率法、毎年の利益を安定させて金融機関への説明をしやすくしたいなら定額法、というように目的に応じて選ぶのが現実的です。






選ぶ前に押さえる制約:建物は定額法のみ・法定償却方法・届出
建物・建物附属設備・構築物は定額法のみ
実は、すべての資産で定額法と定率法を自由に選べるわけではありません。国税庁 No.2100「減価償却のあらまし」によると、建物(平成10年4月1日以後取得分)は「旧定額法または定額法」のみ、建物附属設備・構築物(平成28年4月1日以後取得分)も定額法のみとされていて、これらの資産には定率法を選ぶこと自体ができません。なお建物のうち平成19年3月31日以前に取得したものは旧定額法、平成19年4月1日以後に取得したものは定額法になります。パソコンや車両、機械装置など、それ以外の多くの資産は定額法・定率法のいずれかを選べます。
建物・建物附属設備・構築物を会計ソフトで登録するときに、誤って「定率法」を選んでしまうケースが実務上よくあります。資産の種類が上記に当てはまる場合は、必ず定額法で登録しましょう。
法定償却方法と、法定以外を選ぶ場合の届出書・提出
償却方法を何も届け出ていない場合に自動的に適用される方法を「法定償却方法」といい、所得税(個人事業主)の法定償却方法は原則として定額法です。法人の場合は器具備品や機械装置などは定率法が法定償却方法になる一方、建物やソフトウェアなど定額法しか選べない資産もあります。個人事業主が定率法を使いたい、法人が定額法を使いたいなど、法定と異なる方法を選定する場合は「減価償却資産の償却方法の届出書」を提出する必要があります(国税庁 A1-18「減価償却資産の償却方法の届出手続」)。届出はe-Taxまたは書面で行い、提出期限や具体的な手続きは資産の取得時期によって異なるため、詳細は国税庁のページで確認するか、顧問税理士に相談することをおすすめします。
選ぶ前に押さえる3つの制約
定額法のみ選択可能(平成19年3月31日以前取得の建物は旧定額法)。定率法は選べません。
原則として定額法。届出をしなければ自動的にこの方法が適用されます。
「減価償却資産の償却方法の届出書」の提出が必要です。






償却方法の選び方 判定チェックリスト
ここまでの内容を踏まえて、実際にどちらの方法を選ぶべきかをチェックリスト形式で確認しましょう。YES/NOで自分の資産を当てはめてみてください。
はい
→ 定額法のみ選択可能。ここで判定終了です。
いいえ
→ STEP2へ進んでください。
早期償却を優先するなら定率法、利益の安定を優先するなら定額法を検討しましょう。個人事業主の法定は定額法、法人は資産により異なるため、法定と異なる方法を選ぶ場合は「減価償却資産の償却方法の届出書」を忘れずに提出してください。
※取得日が平成19年3月31日以前の資産は、この判定ではなく旧定額法・旧定率法の対象になります。まず取得日を確認してください。






よくある間違い
定額法・定率法の選択でつまずきやすいポイントを整理しました。申告前・記帳前に必ず確認しておきましょう。
- 「定率法にすれば節税になる」と誤解する
定率法は早く多く償却できるだけで、償却できる総額(節税の総額)は定額法と同じです。総額が増えるわけではありません。 - 建物や建物附属設備を定率法で登録してしまう
平成10年4月1日以後取得の建物、平成28年4月1日以後取得の建物附属設備・構築物は定額法しか選べません。会計ソフトの資産区分を必ず確認しましょう。 - 平成19年3月31日以前取得の資産に、現行の定額法・定率法の計算式を当てはめる
この時期に取得した資産は「旧定額法」「旧定率法」(国税庁 No.2105)という別の計算式(取得価額×90%を掛けるなど)を使います。取得時期を必ず確認しましょう。 - 少額の資産まで減価償却で処理しようとする
取得価額10万円未満、20万円未満(一括償却資産)、30万円未満(中小企業者等の少額減価償却資産の特例)の資産は、減価償却によらず処理できる別制度があります。詳しくは別記事「一括償却資産と少額減価償却資産の特例」をご覧ください。






よくある質問(FAQ)
- 定額法と定率法ではどちらが節税になりますか?
-
トータルの節税額は基本的に変わりません。償却できる総額はどちらも取得価額(残存簿価1円まで)が上限で同じだからです。違うのは経費になるタイミングだけで、詳しくは本文の「どちらが得か——「総額は同じ・時間価値で選ぶ」」をご覧ください。
- 一度選んだ償却方法は変更できますか?
-
償却方法は一度選んだら未来永劫固定というわけではなく、変更したい場合は税務署へ届出などの手続きが必要になる場合があります。手続きの要件や提出時期は個別の状況によって異なるため、詳しくは国税庁のページで確認するか、顧問税理士に相談することをおすすめします。
- 建物にも定率法は使えますか?
-
使えません。国税庁 No.2100によると、建物(平成10年4月1日以後取得分)は旧定額法または定額法、建物附属設備・構築物(平成28年4月1日以後取得分)は定額法のみとされており、定率法を選ぶことはできません。会計ソフトで資産登録する際は、資産区分を建物・建物附属設備・構築物にした上で、必ず定額法になっているか確認しましょう。
減価償却の定額法と定率法まとめ:総額は同じ・制約と時間価値で選ぶ






建物・建物附属設備・構築物なら定額法のみ(平成19年3月31日以前取得の建物は旧定額法)、それ以外は定額法・定率法を選べます。
個人事業主は原則定額法、法人は資産の種類によって法定償却方法が異なります。
キャッシュを早く回収したいなら定率法、毎年の利益を安定させたいなら定額法を検討します。
「減価償却資産の償却方法の届出書」の提出が必要です(国税庁A1-18)。
会計ソフトなら償却方法ごとの償却費を自動計算でき、判断に迷う場合は税理士に確認すると安心です。



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