「パソコンや事務机を買ったけど、少額減価償却資産の特例で全額経費にすべき?それとも一括償却資産で3年に分けるべき?」——どちらも“少額の資産をまとめて処理できる”制度なので、名前が似ていて混同しがちです。しかし実はこの2つ、取得価額20万円未満の資産では「一括償却資産」を選んだ方がトータルの税負担が安くなるケースが多いという、あまり知られていない差があります。この記事では、国税庁・財務省の一次情報をもとに、2026年度税制改正(40万円への引き上げ)を踏まえた制度の違いと、実務での使い分けを整理します。
📌 この記事でわかること
- 少額減価償却資産の特例と一括償却資産、それぞれの対象範囲・償却方法の違い
- 20万円未満の資産は「一括償却資産」の方が有利になりやすい理由(償却資産税との関係)
- 建物や貸付用資産が対象外になる正確な根拠
- 2026年度税制改正(30万円→40万円への引き上げ)のポイント
ぜいむたん


一括償却資産と少額減価償却資産の特例、まず何が違う?
2つの制度を並べて比較
まず結論から整理すると、2つの制度の違いは次の4点に集約されます。
少額減価償却資産の特例 vs 一括償却資産
少額減価償却資産の特例:40万円未満(2026年4月〜、改正前は30万円未満)
一括償却資産:20万円未満
少額減価償却資産の特例:取得年に全額を即時償却
一括償却資産:3年間で均等償却(月割り計算不要)
少額減価償却資産の特例:合計300万円まで(超過分は通常の減価償却)
一括償却資産:上限なし
少額減価償却資産の特例:課税対象に含まれる
一括償却資産:課税対象外
なぜこの2つが混同されやすいのか
どちらも「取得価額が一定額未満の減価償却資産を、通常の法定耐用年数によらずまとめて処理できる」という点は共通しています。そのため会計ソフトの入力画面でも隣り合って表示されることが多く、「安い資産はとりあえずどちらかに入れておけばいい」と誤解されがちです。しかし、取得価額が20万円未満の資産については両方の制度を選択でき、その選び方次第でトータルの税負担が変わってくる点は見落とされやすいポイントです。
少額減価償却資産の特例とは?40万円未満・即時償却のメリットと2026年度改正






対象者要件——青色申告の中小事業者等
少額減価償却資産の特例(租税特別措置法28条の2)は、青色申告書を提出する中小事業者等が対象です。常時使用する従業員数が500人以下であることが要件で、令和8年度改正では「常時使用する従業員数が400人を超える法人」が対象から除外されました(出典:国税庁 No.5408)。個人事業主・中小法人のいずれも対象ですが、事業規模の要件は毎年見直される可能性があるため、適用時は最新情報を確認しましょう。
2026年度改正のポイント——30万円→40万円・期限延長
令和8年度税制改正の大綱(財務省)により、2026年4月1日以後に取得した資産から、対象となる取得価額の上限が30万円未満から40万円未満に引き上げられました。年間の合計限度額300万円は据え置きです。適用期限も令和8年3月31日までだったものが令和11年3月31日まで3年延長されています。これにより、これまで通常の減価償却が必要だった30万円台の設備投資(複合機、ノートPC、什器など)も即時償却の対象になりました。
適用を受けた資産は「償却資産税」の対象になる
少額減価償却資産の特例を使って即時償却した資産は、所得税・法人税の計算上は経費になりますが、市区町村に申告する固定資産税(償却資産税)の課税対象からは外れません。翌年1月1日時点で保有している場合、原則として償却資産の申告対象に含める必要があります。「経費にしたから税金の話は終わり」ではない点に注意してください。
一括償却資産とは?20万円未満・3年均等償却の仕組み
対象資産と償却方法——月割り計算が不要なシンプルさ
一括償却資産(所得税法施行令139条・法人税法施行令133条の2)は、取得価額が20万円未満の減価償却資産を、その事業年度ごとにまとめて3年間で均等に必要経費(損金)に算入できる制度です。通常の減価償却のように「事業供用月からの月割り計算」が不要で、年度の途中で取得しても1年目から3分の1ずつ均等に費用化できる点がシンプルです。青色申告・白色申告を問わず利用できます。
一括償却資産は償却資産税の対象外
一括償却資産として処理した資産は、地方税法上「償却資産」の定義から除外されているため、固定資産税(償却資産税)の課税対象になりません(出典:マネーフォワード クラウド会計 解説記事、各市区町村の固定資産税(償却資産)申告の手引き)。少額減価償却資産の特例との最大の違いがここです。






除却しても残存簿価は3年間の均等償却が継続する
一括償却資産で処理した資産を途中で処分・廃棄(除却)しても、少額減価償却資産の特例のように残額を一括で経費にすることはできません。国税庁の質疑応答事例でも、除却後も当初の3年間にわたって均等償却を継続する取扱いが示されています(出典:国税庁「一括償却資産を除却した場合の取扱い」)。3年以内に処分する可能性が高い資産は、この点も踏まえて検討しましょう。
【結論】20万円未満なら一括償却資産が有利になりやすい理由






「150万円の壁」——免税点を超えている事業者ほど効果が大きい
ここで正確に理解しておきたいのが、償却資産税には課税標準額が150万円未満なら課税されない「免税点」があるという点です。つまり、事業で保有する償却資産(少額減価償却資産の特例で処理したものやパソコン・什器・機械装置など)の評価額の合計がもともと150万円に届かない小規模な個人事業主であれば、どちらの制度を選んでも償却資産税は発生しません。この論点が効いてくるのは、設備投資がある程度進み、保有資産の評価額合計が150万円を超えてくる事業者です。開業間もない方は「そういう考え方がある」という理解で十分です。
シミュレーションで比較——15万円のノートPCを購入した場合
保有する償却資産の評価額合計がすでに150万円を超えている個人事業主が、15万円のノートPCを購入したケースで考えてみます。少額減価償却資産の特例を使うと、その年に15万円全額を経費にできますが、翌年以降は毎年の償却資産税の課税標準に15万円分(減価償却に応じて逓減)が加算され続けます。一括償却資産を選ぶと、経費化は3年に分割されますが、償却資産税の課税対象からは最初から外れます。税率は標準1.4%のため金額としては大きくありませんが、資産を毎年継続的に購入する事業者ほど、この差は年々積み重なっていきます。
例外——その年に大きく利益を圧縮したいなら特例が有利なことも
- 今期の利益が大きく、その年のうちに一気に経費化して節税したい場合は少額減価償却資産の特例が有利
- 資産を1〜2年程度で処分・買い替えする可能性が高い場合も、即時償却できる特例の方が扱いやすい
- 保有資産の評価額合計が150万円未満(免税点以下)の小規模事業者は、償却資産税の差自体が発生しない
- 上記に当てはまらない「継続的に資産を保有し、償却資産税がすでに発生している」事業者は一括償却資産が有利になりやすい
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一括償却資産が使えないケース——建物・貸付用資産の除外






価格帯的に建物では事実上使えない
一括償却資産も少額減価償却資産の特例も、対象となるかどうかは資産の「種類」ではなく「取得価額」で区分されています。理屈のうえでは建物も減価償却資産の一種なので対象になり得ますが、建物の取得価額は通常数百万円〜数千万円に及ぶため、20万円未満(一括償却資産)はもちろん、40万円未満(少額減価償却資産の特例)に収まることも現実的にはまずありません。「制度が建物を除外している」のではなく、「価格帯の問題で実務上使う機会がない」というのが正確な理解です。
制度上の正式な除外規定——「貸付けの用に供した資産」
価格帯とは別に、法令上明記された除外規定もあります。所得税法施行令139条は、「主要な事業として行われるものを除く、貸付けの用に供した資産」を一括償却資産の対象から除外しています(出典:国税庁 基本通達)。令和4年度改正では、少額減価償却資産の特例についても同様の貸付資産除外規定が導入されました(出典:辻・本郷税理士法人)。これは、リース業などを主要事業としない事業者が、節税目的で少額資産を大量に他者へ貸し付けるような使い方を防ぐための規定です。通常の事業用資産(自分の業務で使う什器・PC・工具など)であれば、この除外規定は基本的に関係ありません。
どちらを選ぶ?判断フローと申告書の書き方
取得価額別の判断整理
取得価額別・選べる制度
「少額の減価償却資産」として青色・白色問わず全額即時償却が原則(本則規定)。特例の選択自体が不要。
一括償却資産・少額減価償却資産の特例どちらも選択可。償却資産税を避けたいなら一括償却資産、その年に大きく経費化したいなら特例。
一括償却資産は対象外。少額減価償却資産の特例(青色申告の中小事業者等のみ)が唯一の選択肢。
どちらも対象外。通常の減価償却(法定耐用年数に応じた償却)を行う。
青色申告決算書・明細書の記載方法
少額減価償却資産の特例を適用する場合、青色申告決算書の「減価償却費の計算」欄に対象資産を記載したうえで、適用資産の明細(取得価額・取得年月・事業供用日など)を記載した書類の添付または保存が必要です(出典:国税庁「中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例制度」明細書の添付について)。一括償却資産の場合も同様に「減価償却費の計算」欄に一括して記載し、3年間の償却スケジュールが分かるよう管理しておきます。いずれも事前の届出は不要で、確定申告時の記載のみで適用できる点は共通しています。
消費税の経理方式(税込・税抜)によって取得価額の判定基準が変わる点にも注意。免税事業者・税込経理の場合は消費税込みの金額で判定します。
保有する償却資産の評価額合計が150万円を超えている(または今後超えそうな)場合は一括償却資産、その年に大きく経費化したい場合は特例を検討します。
選択した区分(少額減価償却資産の特例/一括償却資産/通常の減価償却)をソフト上で正しく設定し、確定申告書・青色申告決算書に自動反映させます。
よくある質問(FAQ)
- 白色申告でも一括償却資産や少額減価償却資産の特例は使えますか?
-
一括償却資産(20万円未満・3年均等償却)は青色申告・白色申告どちらでも使えます。一方、少額減価償却資産の特例(40万円未満・即時償却)は青色申告書を提出する中小事業者等に限定されており、白色申告では使えません。白色申告の方が20万円未満の資産を購入した場合は、一括償却資産を選ぶことになります。
- 20万円未満の資産は必ず一括償却資産にすべきですか?
-
必ずではありません。保有する償却資産の評価額合計がすでに150万円(償却資産税の免税点)を超えている事業者であれば、償却資産税の負担を避けられる一括償却資産が有利になりやすいです。一方、その年の利益が大きく一気に経費化して節税したい場合や、免税点未満の小規模事業者は、即時償却できる少額減価償却資産の特例を選んでも差が出ません。事業の状況に応じて判断してください。
- 一括償却資産にした資産を1年で使わなくなったら、残りを一括で経費にできますか?
-
できません。一括償却資産は除却(廃棄・売却)した場合でも、当初の3年間にわたって均等償却を継続する必要があります(国税庁の質疑応答事例で明示)。少額減価償却資産の特例のように取得年に全額を経費化できるわけではないため、短期間での処分が見込まれる資産を選ぶ際は注意が必要です。
- 個人事業主でも少額減価償却資産の特例の「中小事業者等」に該当しますか?
-
青色申告書を提出しており、常時使用する従業員数が500人以下(令和8年度改正で従業員数400人を超える法人は対象除外)であれば、個人事業主・中小法人のいずれも対象になります。多くの個人事業主・フリーランスはこの要件を問題なく満たしますが、対象者要件は改正で変わることがあるため、適用時は国税庁の最新情報を確認することをおすすめします。
まとめ——20万円未満は一括償却資産、それ以上は少額減価償却資産の特例
一括償却資産(20万円未満・3年均等償却・償却資産税対象外)と少額減価償却資産の特例(40万円未満・即時償却・青色申告の中小事業者等限定・償却資産税対象)は、取得価額によって選べる制度が変わるうえに、20万円未満の重複範囲では償却資産税の有無というトータルの税負担に関わる違いがあります。以下のステップで確認しておきましょう。
10万円未満・20万円未満・40万円未満・それ以上のどこに入るかで、選べる制度が決まります。
保有資産の評価額合計が150万円(免税点)を超えているかどうかで有利不利が変わります。
価格帯的な制約と、主要事業以外の貸付用資産の除外規定を踏まえて判断します。
選んだ制度に応じて固定資産台帳・明細書を整え、青色申告決算書に正しく反映させましょう。



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