「商店街の負担金を払ったら、今期は全額経費にできないと経理から言われた」「事務所を借りるときに払った権利金、どう処理すればいいの?」——このように、支出した費用がすぐには経費にならず「繰延資産」として資産計上を求められて戸惑った経験はないでしょうか。
繰延資産は「資産」という名前が付いていますが、実態は将来の複数年度にわたって経費になる支出を一時的に資産として計上しているだけのものです。厄介なのは、種類によって償却期間の考え方がまったく違うこと、そして20万円未満であれば実は支出した期に全額を経費にできる特例が用意されていることです。この判定を誤ると、決算書の数字がずれるだけでなく、税務調査で償却限度額の計算根拠を聞かれたときに答えられず、不安な思いをすることになります。
この記事では、国税庁の法人税基本通達と法人税法施行令の条文に基づいて、繰延資産の償却期間を種類別に整理した早見表、20万円ルールの正しい判定単位、実際の計算例と仕訳までを、実務でつまずきやすいポイントとあわせて解説します。
📌 この記事でわかること
- 繰延資産には「いつでも好きな額を償却できるグループ」と「償却期間が決まっているグループ」の2つがあること
- 税務上の繰延資産(負担金・権利金・加入金など)の償却期間を種類別に引ける早見表
- 20万円未満なら支出した期に全額を損金にできること、その判定単位が支出の種類ごとに違うこと
- 「耐用年数の7/10」型の年数の出し方と、1年未満の端数は切り捨てること
- 償却をいつから始めるか、対象がなくなったら残りをどう処理するか
対象読者:個人事業主・フリーランス、法人の経理担当者・経営者/読了の目安:約9分
ぜいむたん


繰延資産とは——支出した期に全額は費用にならない支出
繰延資産とは、すでに代金を支払い終えている(対価の支払いが完了している、または支払義務が確定している)にもかかわらず、その支出の効果が1年以上先まで及ぶために、支出した期に全額を費用として計上せず、いったん資産に計上して数年かけて費用化していく支出のことです。会社計算規則74条1項は、貸借対照表の資産の部を「流動資産」「固定資産」「繰延資産」の3区分に分けると定めており(「繰延資産」は同項3号)、繰延資産は流動資産・固定資産と並ぶ独立した区分として扱われます。
「経費にならない」のではなく「その期に一括では経費にならない」だけ
繰延資産と聞くと「経費にできない支出」だと誤解しがちですが、正確には「支出した期に一括では経費にできず、決められた年数で少しずつ経費にしていく支出」です。最終的には全額が経費(損金)になります。焦って「経費が減った」と考える必要はありません。
繰延税金資産(税効果会計)とは全くの別物
名前が似ている「繰延税金資産」は、税効果会計で将来の税負担を軽減する効果を資産計上するものであり、本記事で扱う繰延資産(創立費・開業費・権利金・負担金など)とは全く別の概念です。混同すると経理処理を誤るため、明確に区別してください。






繰延資産は2つのグループに分かれる(ここを外すと全部間違える)
法人税法施行令14条1項は、繰延資産を1号から6号までの6区分で定義しています。このうち1〜5号と6号とでは、償却のルールがまったく異なります。この違いを理解しないまま「繰延資産だから5年で償却」のように一律に考えてしまうと、償却限度額を誤って計算してしまいます。
グループ1=創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費(令14条1項1〜5号)は任意償却
創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費の5つは、法人税法施行令64条1項1号により「繰延資産の額(既に償却して損金算入された額を控除した金額)」が償却限度額とされています。つまり、未償却残高の範囲内であれば、いつ・いくら償却するかは会社の自由です。これを実務上「任意償却」と呼びます。
グループ2=公共的施設等の負担金・権利金・加入金など(令14条1項6号)は償却期間が決まった均等償却
一方、公共的施設・共同的施設の負担金、資産の賃借のための権利金、ノウハウの頭金、広告宣伝用資産の贈与費用、同業者団体の加入金などは、令14条1項6号イ〜ホに該当する繰延資産です。こちらは令64条1項2号により「繰延資産の額を支出の効果の及ぶ期間の月数で除して、当該事業年度の月数を乗じた金額」が償却限度額とされ、決められた期間で月割の均等償却をしなければなりません。
20万円未満の少額特例(令134条)が使えるのはグループ2だけ
後述する「20万円未満なら支出時に全額損金にできる」という特例(法人税法施行令134条)は、令64条1項2号に掲げる繰延資産、つまりグループ2にしか適用されません。グループ1(創立費・開業費など)はもともと任意償却で自由に経費化できるため、この特例の対象外です。
固定資産を取得するために借り入れた借入金の利子は、たとえその固定資産の使用開始前の期間に対応するものであっても、法人税法施行令14条1項各号に規定する繰延資産には該当しません(法基通8-1-2注)。「取得のために支払った費用だから繰延資産だろう」と思い込んで資産計上しないよう注意してください。






令14条1項の括弧書きにより、資産の取得価額とされるべき費用や前払費用は繰延資産から除かれます。固定資産を取得するための借入金利子も繰延資産には該当しません(法基通8-1-2注)。ここに該当すれば、繰延資産ではなく別のルールで処理します。
当たれば任意償却グループ(令64条1項1号)です。未償却残高の範囲内でいつでも好きな額を償却でき、20万円ルールの出番はありません。
当たらなければ、その支出は繰延資産にはならず支出時の費用(損金)です。当たる場合は次のステップに進みます。
20万円未満なら、支出する日の属する事業年度に損金経理することで全額損金にできます(令134条)。20万円以上なら、次章の早見表の償却期間で月割の均等償却をします。
税務上の繰延資産(グループ2)に当たるのはどんな支出か
法人税法施行令14条1項6号は、グループ2の繰延資産をイ〜ホの5区分で定義しています。共通する要件は「支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶこと」です。それぞれの区分に、実務でよく出会う支出の例を挙げます。
- イ 公共的施設・共同的施設の設置又は改良のために支出する費用
自己の必要で道路・堤防などの施設を設置・改良する費用(法基通8-1-3)、所属する協会・組合・商店街等の共同施設の建設・改良に対する負担金(法基通8-1-4)。 - ロ 資産を賃借し又は使用するために支出する権利金・立退料等
建物を賃借するために支払う権利金・立退料(法基通8-1-5(1))、電子計算機その他の機器の賃借に伴う引取運賃・据付費等(法基通8-1-5(2))。 - ハ 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
ノウハウの設定契約に際して支払う一時金・頭金(法基通8-1-6)。 - ニ 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
特約店に看板・ネオンサイン・陳列棚・自動車などを贈与した場合の取得価額相当額(法基通8-1-8)。 - ホ イ〜ニ以外の自己が便益を受けるために支出する費用
スキー場のゲレンデ整備費用(法基通8-1-9)、出版権の設定の対価(法基通8-1-10)、同業者団体等の加入金(法基通8-1-11)、職業運動選手等の契約金等(法基通8-1-12)。






償却期間 早見表——種類別に何年で割るか
法人税基本通達8-2-3は、グループ2の繰延資産の償却期間を種類ごとに定めています。実務で遭遇する頻度が高い順に、代表的な12区分を早見表にまとめました。
税務上の繰延資産 償却期間 早見表
該当条項:法基通8-1-5(1)/8-2-3 表〈令14①六ロ〉細目(3)
償却期間:5年
注意点:賃借期間が5年未満で更新時に再び権利金の支払いを要することが明らかな場合はその賃借期間。転売可能な借家権は残存耐用年数の7/10、建設費の大部分に相当する権利金は建物の耐用年数の7/10と別扱い。
該当条項:法基通8-1-11/8-2-3 表〈令14①六ホ〉
償却期間:5年
注意点:構成員の地位を譲渡できる場合や出資の性質を持つ加入金は、譲渡・脱退するまで損金算入できない(8-1-11注)。
該当条項:法基通8-1-4/8-2-3 表〈令14①六イ〉細目(2)
償却期間:5年
注意点:対象施設の耐用年数が5年未満のときはその耐用年数を使う。
該当条項:法基通8-1-3/8-2-3 表〈令14①六イ〉細目(1)(2)
償却期間:専ら自己使用=耐用年数×7/10/それ以外=耐用年数×4/10
注意点:1年未満の端数は切り捨て(8-2-3注2)。
該当条項:法基通8-1-5(2)/8-2-3 表〈令14①六ロ〉
償却期間:機器の耐用年数×7/10
注意点:その年数が契約による賃借期間を超えるときは、賃借期間が上限になる。
該当条項:法基通8-1-8/8-2-3 表〈令14①六ニ〉
償却期間:資産の耐用年数×7/10
注意点:計算した年数が5年を超えるときは5年が上限。
該当条項:法基通8-1-6/8-2-3 表〈令14①六ハ〉
償却期間:5年
注意点:頭金の全部または一部を使用料に充当する定めがある場合、または頭金を支払うことで一定期間は使用料を支払わない定めがある場合は、その部分は繰延資産ではなく前払費用として処理できる(8-1-6ただし書)。設定契約の有効期間が5年未満で、更新時に再び一時金・頭金の支払いを要することが明らかなときは、償却期間はその有効期間の年数になる。
該当条項:法基通8-1-10/8-2-3 表〈令14①六ホ〉
償却期間:設定契約に定める存続期間(定めがなければ3年)
該当条項:法基通8-1-12/8-2-3 表〈令14①六ホ〉
償却期間:契約期間(定めがなければ3年)
注意点:セールスマン・ホステス等の引抜料・仕度金は支出時に損金算入できる(8-1-12注)。
該当条項:法基通8-1-9/8-2-3 表〈令14①六ホ〉
償却期間:12年
注意点:既存ゲレンデの毎シーズンの傾斜変更・ブッシュ除去等は支出時損金にできる(8-1-9注1)。
該当条項:法基通8-2-5(8-2-3 によらない特例)
償却期間:6年
注意点:都市計画法等に基づく受益者負担金に限定される特例。
該当条項:法基通8-2-4(8-2-3 によらない特例)
償却期間:原則の年数が10年を超える場合は10年
注意点:当分の間の特例措置。
「耐用年数の7/10」の計算と1年未満の端数切捨て
早見表の④〜⑥のように「耐用年数×7/10」「耐用年数×4/10」といった計算式で償却期間を求める区分があります。この計算で1年未満の端数が生じたときは切り捨てます(法基通8-2-3注2)。たとえば耐用年数15年の施設を専ら自己使用する場合、15×7/10=10.5年ですが、端数を切り捨てて10年が償却期間になります。
原則の考え方——固定資産を利用するためのものは耐用年数、契約に基づくものは契約期間が基礎
法基通8-2-1では、償却期間の基礎となる「支出の効果の及ぶ期間」は、固定資産を利用するために支出した繰延資産であればその固定資産の耐用年数、一定の契約をするに当たり支出した繰延資産であればその契約期間を基礎として適正に見積もる、とされています。早見表にない支出に出会った場合も、この原則に立ち返って考えると判断しやすくなります。
耐用年数が改正されたら償却期間も改訂する
固定資産の耐用年数を基礎として償却期間を計算している場合、その後に耐用年数が改正されたときは、改正後の事業年度以降の償却期間は改正後の耐用年数を基礎に算定し直します(法基通8-2-2)。長期間償却を続けている繰延資産がある場合は、耐用年数表の改正動向にも注意してください。






20万円未満なら支出した期に全額損金にできる(令134条)
法人税法施行令134条は、グループ2の繰延資産のうち、支出する金額が20万円未満であるものについて、支出する日の属する事業年度に損金経理をしたときは、その全額を当該事業年度の損金の額に算入できると定めています。早見表の年数で月割償却する必要がなく、事務負担が大きく軽減されます。
判定単位は支出の種類ごとに違う(8-3-8)
この20万円未満の判定は「1回の請求書ごと」ではありません。法基通8-3-8は、判定単位を支出の区分ごとに次のとおり定めています。
- 6号イ(公共的施設等の負担金)=一の設置計画又は改良計画につき支出する金額
- 6号ロ・ハ(権利金・ノウハウの頭金等)=契約ごとに支出する金額
- 6号ニ(広告宣伝用資産の贈与)=その資産の1個又は1組ごとに支出する金額
2回以上に分けて支出する場合・請求書を分けても金額は分かれない
同一の計画・契約・資産に対して2回以上に分割して支出する場合は、その支出時において見積もられる支出金額の合計額で20万円未満かどうかを判定します。つまり「20万円を超えそうな権利金を19万円と1万円に分けて請求してもらう」といった対応をしても、合計額で判定されるため意味がありません。
✅ 20万円ルール適用前チェックリスト
- その支出は令14条1項6号イ〜ホ(グループ2)に該当するか
- 判定単位(計画ごと/契約ごと/資産1個または1組ごと)で金額を集計したか
- 分割支出の場合、支出時点で見積もられる合計額で判定したか
- 自社の経理方式(税抜・税込)に従って20万円未満かを確認したか
- 支出する日の属する事業年度に損金経理をしたか



償却額の計算例を数字で確かめる
実際に月割均等償却の金額がどう計算されるか、4つのケースで確認しましょう。償却限度額は「繰延資産の額÷償却期間の月数×当該事業年度の月数(支出日の属する事業年度は支出日から期末までの月数)」で求めます(令64条1項2号)。
- 例1:事務所の権利金600,000円(償却期間5年=60か月)
支出日から決算期末までが7か月の場合:600,000円÷60か月×7か月=70,000円が当期の償却限度額。 - 例2:商店街のアーケード負担金3,000,000円(償却期間5年=60か月)
丸々12か月の事業年度の場合:3,000,000円÷60か月×12か月=600,000円が当期の償却限度額。 - 例3:同業者団体の加入金180,000円
20万円未満のため、令134条の少額特例により支出事業年度に損金経理すれば全額(180,000円)を損金算入できる。 - 例4:自己が専ら使用する施設の負担金(施設の耐用年数15年)
専ら自己使用の場合:15年×7/10=10.5年→端数切捨てで10年。専用でない場合:15年×4/10=6年。






仕訳と勘定科目の実務での書き方
繰延資産は「支出時(資産計上)」と「決算時(償却)」の2つのタイミングで仕訳を切ります。例1の権利金600,000円を例に見てみましょう。
支出時(資産計上)
借方:長期前払費用 600,000円/貸方:現金預金 600,000円
決算時(償却)
借方:長期前払費用償却 70,000円/貸方:長期前払費用 70,000円
「長期前払費用」勘定で処理する実務が多い
会計ソフトの勘定科目一覧に「繰延資産」という科目がない場合、実務では「長期前払費用」や「権利金」といった勘定科目で処理することが多くあります。ここで押さえておきたいのは、勘定科目名と税法上の区分は別物だという点です。「長期前払費用」という科目名で処理していても、その中身が令14条1項各号に該当するかどうかで税務上の取扱いが決まります。
償却費以外の科目で損金経理していても「償却費」に含まれる(8-3-2)
法基通8-3-2により、繰延資産となるべき費用の全部または一部を、償却費以外の科目(例:支払手数料、雑費など)で損金経理していたとしても、その金額は法人税法32条1項の「償却費として損金経理をした金額」に含まれます。科目名ではなく、その支出の実態で判断してください。
償却限度額は費目ごと・償却期間ごとに計算する(8-3-7)
複数の繰延資産を抱えている場合、償却限度額は費目の異なるごとに、かつ償却期間の異なるごとに区分して計算します。法基通8-2-3の表の区分ごとに継続して計算している場合は、それが認められます。エクセルなどで償却資産ごとの一覧管理表を作っておくと、決算時の計算漏れを防げます。



いつから償却を始め、途中でどうなるか
繰延資産の償却は、支出した日の属する事業年度から機械的に始まるとは限りません。開始時期や、対象がなくなった場合の取扱いも決まっています。
固定資産の建設等に着手していないときは着手時から(8-3-5)
繰延資産となるべき費用が固定資産を利用するためのものであり、かつその固定資産の建設等にまだ着手されていないときは、その固定資産の建設等に着手した時から償却を開始します。負担金を先に支払っても、対象の施設工事が始まっていなければ、償却はまだスタートしません。
対象が滅失・解約になったら未償却残額を損金算入(8-3-6)
繰延資産の対象となった固定資産や契約について、滅失や解約等があった場合は、その事業年度に未償却残額の全額を損金の額に算入できます。たとえば賃借していた建物の権利金を償却している途中で賃貸借契約を解約した場合、その期の未償却残高は残さずに損金にできます。
令14条1項6号の繰延資産の支払を分割払いにする場合、たとえ総額が確定していても、その総額を未払金に計上して一括で償却することはできません(法基通8-3-3)。ただし、分割して支払う期間がおおむね3年以内の短期間である場合はこの限りではありません。長期の分割払いは要注意です。
長期分割の負担金は3要件を満たせば支出時損金にできる(8-3-4)
公共的施設・共同的施設の負担金で、①償却期間に相当する期間以上にわたり分割徴収され、②分割徴収額がおおむね均等額であり、③徴収がおおむね施設の工事の着工後に開始される、というすべての要件を満たすときは、支出した金額をその支出をした日の属する事業年度の損金の額に算入できます。






繰延資産にしなくてよいもの・よくある失敗とミス
実務では「本来は繰延資産にしなくてよいものを資産計上してしまう」「逆に資産計上すべきものを見落とす」といった失敗がよく起こります。国税庁の通達で明示されている代表的なパターンを整理しました。
- 失敗①:簡易な公共施設の負担金まで繰延資産にしてしまう
街路の簡易舗装・街灯・がんぎ等、主として一般公衆の便益に供される簡易な施設の負担金は、繰延資産にせず支出日の属する事業年度の損金の額に算入できます(法基通8-1-13)。 - 失敗②:建物賃借の仲介手数料まで権利金と一緒に資産計上してしまう
建物の賃借に際して支払った仲介手数料は、支払った日の属する事業年度の損金の額に算入できます(法基通8-1-5注)。権利金と混同して長期償却してしまわないよう注意してください。 - 失敗③:固定資産取得のための借入金利子を繰延資産にしてしまう
固定資産を取得するための借入金利子は、使用開始前の期間に対応するものであっても繰延資産には該当しません(法基通8-1-2注)。 - 失敗④:譲渡・出資性のある加入金を通常どおり5年で償却してしまう
構成員としての地位を他に譲渡できる場合の加入金や、出資の性質を有する加入金は、その地位を譲渡するか脱退するまで損金の額に算入できません(法基通8-1-11注)。5年均等償却の対象外です。 - 失敗⑤:ノウハウの頭金を全額繰延資産にしてしまう
頭金のうち使用料に充当する旨の定めがある部分は、繰延資産ではなく前払費用として処理できます(法基通8-1-6ただし書)。 - 失敗⑥:共同的施設の負担金を全額そのまま資産計上してしまう
共同的施設の相当部分が貸室に供される等、協会等の本来の用以外に使われている場合、その部分に対応する負担金は繰延資産ではなく寄附金になります(法基通8-1-4)。



個人事業主の場合はどう違うか
個人事業主の繰延資産は、所得税法施行令7条1項に規定されています。法人と個人とでは、そもそも区分の数が違います。所得税法施行令7条1項では「開業費」「開発費」、そして法人税法施行令14条1項6号に相当する区分(公共的施設の負担金・権利金・立退料など)の3区分しかなく、創立費・株式交付費・社債等発行費は個人事業主には存在しません。これらは法人の設立や株式・社債の発行に固有の費用であるため、個人事業主には当てはまらないからです。
個人の開業費は、不動産所得・事業所得・山林所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出した費用が対象です(所得税法施行令7条1項1号)。ただし償却の仕組みは法人と同じ書き方ではありません。所得税法施行令137条1項1号は60か月の均等償却を原則として定めており、そのうえで同条3項が、確定申告書に記載した金額まで必要経費に算入できると定めています。この3項があるために、結果として法人の任意償却と同じように「いつ・いくら落とすか」を選べる運用になります。「はじめから自由」ではなく「原則は60か月均等・申告書への記載で調整する」と理解しておくと、根拠を聞かれたときに答えられます。権利金・負担金など6号相当の区分(所得税法施行令7条1項3号)は、法人と同じ早見表の償却期間で償却します。20万円未満の少額特例も使えますが、根拠条文は法人の令134条ではなく所得税法施行令139条の2です。139条の2は「必要経費に算入する」と定めており、法人の令134条のような「損金経理をしたとき」という要件を置いていません。つまり個人は20万円未満なら選択の余地なく全額がその年の必要経費になります。前述の20万円ルールのチェックリストは法人向けに書いているため、個人事業主の方は「損金経理をしたか」の行は読み飛ばしてください。
開業費の任意償却の具体的な使い方、減価償却との関係、20万円未満の資産をまとめて処理する一括償却資産との違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。
- 開業費の償却は何年目にすべき?任意償却シミュレーターで税額比較
- 【2026年版】減価償却の仕組みと計算方法|個人事業主・法人の節税に活用する完全ガイド
- 【2026年版】一括償却資産と少額減価償却資産の特例はどう違う?20万円未満は一括償却が得な理由






よくある質問(FAQ)
- 権利金を払いましたが契約期間が10年です。償却期間は10年ですか?
-
必ずしもそうとは限りません。法人税基本通達8-2-3 表〈令14①六ロ〉は、建物の権利金等を3つの細目に分けています。細目(1)は建物の新築に際して所有者へ支払った権利金等で、金額が賃借部分の建設費の大部分に相当し、実際上その建物の存続期間中賃借できる状況にあるもの=「その建物の耐用年数の7/10」。細目(2)は契約や慣習によって明渡し時に借家権として転売できることになっているもの=「賃借後の見積残存耐用年数の7/10」。この2つのどちらにも当たらない通常の権利金が細目(3)=原則5年です。ただし契約による賃借期間が5年未満で、更新時に再び権利金の支払いを要するときは、その賃借期間が償却期間になります。「契約期間=償却期間」と決めつけず、契約書で権利金の性質(建設費の大部分に相当するか、借家権として転売できるか)を先に確認してください。
- 20万円未満かどうかは、税込みと税抜きのどちらで判定しますか?
-
自社が採用している経理処理方式(税抜経理か税込経理か)に従って判定します。税抜経理を採用していれば消費税額を除いた金額で、税込経理を採用していれば消費税込みの金額で20万円未満かどうかを見ます。判定結果が変わる可能性があるため、自社の経理方式を確認した上で一貫した方式で判定し、境界に近い金額の場合は税理士に確認することをおすすめします。
- 繰延資産は毎期必ず償却しなければいけませんか?
-
グループによって答えが異なります。創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費(令14条1項1〜5号)は任意償却なので、償却するかどうか、いくら償却するかは会社の判断に委ねられており、ある期にまったく償却しなくても税務上問題ありません。一方、権利金や負担金など令14条1項6号に該当するものは、法基通8-2-3の償却期間に基づいて月割で均等償却するのが原則で、償却限度額の範囲内で損金経理した金額が損金になります。
- 開業費を何年もあとから償却しても問題ありませんか?
-
問題ありません。開業費は令14条1項2号の繰延資産で、令64条1項1号の任意償却グループに含まれるため、いつ・いくら償却するかは自由です。支出から数年間まったく償却せず、業績が良い期にまとめて償却することも税務上は可能です。ただし個人事業主の場合は所得税法施行令7条1項に基づく取扱いになるため、法人とは条文の根拠が異なる点に注意してください。
- 「長期前払費用」で処理していますが、税務上の繰延資産と同じものですか?
-
勘定科目名と税法上の区分は別物です。「長期前払費用」は会計実務でよく使われる勘定科目名にすぎず、その中身が法人税法施行令14条1項各号の繰延資産に該当するかどうかは別途判定が必要です。逆に、償却費以外の科目で損金経理していても、その金額は法人税法上「償却費として損金経理をした金額」に含まれます(法基通8-3-2)。勘定科目の名称にかかわらず、支出の性質で繰延資産かどうかを判断してください。
より詳しい条文は国税庁の一次情報で確認できます。法人税基本通達 第8章第1節(繰延資産の意義及び範囲等)、第2節(繰延資産の償却期間)、第3節(償却費の計算)、法人税法施行令(e-Gov法令検索)をご参照ください。
繰延資産の償却期間まとめ:2つのグループを見分ければ迷わない






令14条1項の括弧書きで除外されるものや、固定資産取得のための借入金利子(8-1-2注)は繰延資産にはなりません。
創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債等発行費はグループ1(任意償却)。権利金・負担金・加入金等はグループ2(均等償却)です。
計画ごと・契約ごと・資産1個または1組ごとに金額を集計し、20万円未満なら支出事業年度に全額損金経理できます(令134条)。
該当する区分の償却期間を早見表で確認し、繰延資産の額÷償却期間の月数×当該事業年度の月数で償却限度額を計算します。
支出時に資産計上し、決算時に償却限度額の範囲内で償却費を計上します。勘定科目名にかかわらず、支出の実態で繰延資産かどうかを判断してください。



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