「年金の収入は400万円以下だから確定申告はしなくていいはず」——この理解のまま毎年何もせず、受け取れるはずの還付を取り逃している年金受給者は少なくありません。実はこの「400万円ルール」、正しくは国税庁タックスアンサーNo.1600が定める「確定申告不要制度」のことで、条件を満たせば所得税の確定申告をしなくてよいという制度にすぎません。「申告しなくていい」と「申告しない方が得」はイコールではなく、医療費控除などを使えば還付を受けられる可能性があるケースも多くあります。本記事では400万円ルールの3条件から、住民税申告との違い、還付申告で得をするケース、2026年(令和8年度)税制改正の影響まで、公認会計士試験合格者が一次情報に基づいて整理します。
📌 この記事でわかること
読了時間の目安:約6分
対象:年金収入400万円以下の受給者とそのご家族
- 確定申告不要制度(400万円ルール)の3条件と、そもそもの制度趣旨
- 所得税は不要でも「住民税の申告」が必要になるケースがある理由
- 申告不要でも「還付申告」をした方が得になりやすい典型パターン
- 2026年(令和8年度)税制改正で源泉徴収の対象外ラインがどう変わるか
- 還付申告の始め方(必要書類・e-Tax・5年以内の期限)
ぜいむたん


年金受給者の「確定申告不要制度(400万円ルール)」とは
公的年金等(国民年金・厚生年金・厚生年金基金・企業年金など)を受け取っている方は、原則として所得税の確定申告が必要です。ただし一定の条件を満たす方については、前述の国税庁タックスアンサーNo.1600「公的年金等の課税関係」に定める「公的年金等に係る確定申告不要制度」により、所得税の確定申告をしなくてよいとされています。これがいわゆる「400万円ルール」です。






裏を返せば、この制度は「申告する必要がない人の事務負担を減らすための特例」であって、「年金受給者は税金を払わなくてよい」という意味ではありません。年金からはあらかじめ所得税が源泉徴収されており、確定申告不要制度を使う場合はその源泉徴収された税額で精算が完了したものとして扱われます。次の章で、具体的にどのような条件を満たせば申告が不要になるのかを確認していきましょう。
確定申告が不要になる3つの条件
国税庁 確定申告書等作成コーナーのFAQ「公的年金等に係る申告不要制度について」によると、次の3つの条件をすべて満たす場合に限り、その年分の所得税の確定申告が不要となります。






条件① 収入金額
公的年金等の収入金額の合計が400万円以下であること。複数の年金(国民年金+厚生年金+企業年金など)を受給している場合はすべて合算して判定します。
条件② 源泉徴収
その公的年金等の全部が源泉徴収の対象となっていること。源泉徴収の対象外の年金収入(一部の企業年金や海外年金等)が1円でも混じっていると、この制度は使えません。
条件③ 年金以外の所得
公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下であること。給与収入・不動産収入・一時的な副収入なども含めて判定する必要があります。
この3条件をすべて満たす方は、所得税及び復興特別所得税の確定申告をしなくても差し支えありません。逆にいえば、年金収入が400万円以下であっても、②の源泉徴収の条件を満たさない年金がある場合や、③の年金以外の所得が20万円を超える場合は、確定申告が必要になる点に注意してください。
複数の年金を受給している場合の合算の考え方
国民年金と厚生年金を両方受け取っている、企業年金や個人年金保険(税制適格特約付き)も受け取っている——といったケースでは、それぞれの年金を別々に判定するのではなく、公的年金等に該当するものはすべて合算した金額で400万円以下かどうかを判定します。年金の種類ごとに源泉徴収の有無が異なる場合もあるため、複数の年金を受給している方は源泉徴収票を年金の支払者ごとに確認しておきましょう。
【注意】所得税が不要でも「住民税の申告」が必要なケースがある






実務上は、公的年金等の支払者(日本年金機構など)から市区町村へ「公的年金等支払報告書」が提出されるため、年金収入だけであれば住民税申告をしなくても課税額が把握されるケースが多いとされています。ただし、追加で控除を受けたい場合や、後述する2026年度の制度変更で対象が広がるケースもあるため、迷ったらお住まいの市区町村の窓口に確認するのが確実です。
申告不要でも「申告した方が得」なケース(還付申告)






年金からは一定の税率で所得税が源泉徴収されていますが、その計算では医療費控除・社会保険料控除・生命保険料控除・配偶者控除・扶養控除など、個々の事情に応じた控除がすべて反映されているとは限りません。こうした控除を確定申告(還付申告)で追加すれば、源泉徴収されすぎていた税金の還付を受けられる可能性があります。次のような方は、還付申告を検討する価値があるでしょう。
医療費が多くかかった年
本人・生計を一にする家族の医療費が年間10万円(または所得の5%)を超えた場合、医療費控除で還付になる可能性があります。
生命保険・地震保険に加入
生命保険料控除・地震保険料控除が年金の源泉徴収に反映されていない場合、申告することで還付につながることがあります。
ふるさと納税をした
ワンストップ特例の対象外になっている場合や条件を満たさなかった場合は、確定申告で寄附金控除を申告する必要があります。
配偶者控除・扶養控除が未反映
「扶養親族等申告書」を提出し忘れた年や家族構成に変更があった年は、控除が正しく反映されていない可能性があります。
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医療費控除
医療費控除は、本人または生計を一にする配偶者・親族のために支払った医療費が、原則として年間10万円(総所得金額等が200万円未満の方は所得金額の5%)を超えた部分について所得控除を受けられる制度です。対象になる費用の範囲や計算方法は医療費控除の確定申告のやり方【2026年版】で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
生命保険料控除
生命保険料控除は、支払った生命保険・介護医療保険・個人年金保険の保険料に応じて所得控除を受けられる制度です。年金の源泉徴収税額の計算にこれらの控除が織り込まれていない場合、確定申告で追加すれば還付につながる可能性があります。新契約・旧契約の控除額の計算式や上限額は生命保険料控除の上限と2026年の改正まとめを参照してください。
社会保険料控除
社会保険料控除は、本人または生計を一にする家族の国民健康保険料・国民年金保険料・介護保険料などを支払った場合に、その全額を所得から差し引ける制度です。年金から特別徴収(天引き)されている介護保険料・国民健康保険料は、通常すでに年金の源泉徴収税額の計算に織り込まれていますが、年金以外の口座から別途支払っている社会保険料(家族の国民健康保険料を負担しているケースなど)がある場合は、確定申告で追加する余地がないか確認しておきたいところです。
なお、こうした控除を確定申告で追加したからといって必ず還付になるとは限りません。すでに源泉徴収の段階で一定の控除(公的年金等控除・基礎控除・社会保険料控除の一部など)が織り込まれているため、実際に還付になるかどうかは源泉徴収票の記載内容と個々の控除額を照らし合わせて判断する必要があります。判断に迷う場合は税理士に相談することをおすすめします。
2026年(令和8年分)はどう変わる?基礎控除引き上げの年金受給者への影響






国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」により、2026年(令和8年)分から所得税の基礎控除が引き上げられました。この基礎控除の引き上げに伴って、日本年金機構「令和8年度税制改正による公的年金等に係る主な改正事項」(2026年6月17日付)では、年金受給者に関わる主な変更点として次のような内容が案内されています。
源泉徴収の対象外ラインが上昇
年金額が一定以下だと源泉徴収そのものが行われない基準額が、65歳以上は205万円未満→214万円未満、65歳未満は155万円未満→164万円未満へ引き上げられました。
扶養親族等の所得要件が統一
扶養控除等の対象となるための所得要件が62万円に統一されました。新たに要件を満たすようになった場合は、原則として確定申告で反映させる必要があります。
住民税申告書の提出対象が拡大
個人住民税の各種控除を受けようとする年金受給者について、扶養親族等申告書(住民税用)の提出対象が広がりました(65歳以上・3級地で年金額148万円以上が目安)。
ここで注意したいのは、確定申告不要制度そのものの基準(400万円以下・全額源泉徴収・年金以外の所得20万円以下)は変わっていないという点です。変わったのは、年金からいくら源泉徴収されるか・扶養親族等の所得要件・住民税申告書の提出対象範囲であり、400万円ルールの判定基準額自体に変更はありません。ただし源泉徴収される税額の計算が変わることで、結果として還付申告をした場合の還付額に影響が出る可能性はあります。なお、2026年分の基礎控除引き上げの全体像(個人事業主・会社員向け)は基礎控除178万円引き上げの完全シミュレーションでも解説していますので、あわせてご参照ください。
参考までに、公的年金等控除額の基本的な計算は年齢によって異なります(前述の国税庁No.1600の速算表がベースです)。公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が1,000万円以下の場合の主な区分は次のとおりです。
公的年金等控除額の目安(令和2年分以後)
| 年齢区分 | 公的年金等の収入金額 | 公的年金等控除額(目安) |
|---|---|---|
| 65歳未満 | 130万円未満 | 60万円 |
| 65歳未満 | 130万円以上410万円未満 | 収入金額×25%+27.5万円 |
| 65歳以上 | 330万円未満 | 110万円 |
| 65歳以上 | 330万円以上410万円未満 | 収入金額×25%+27.5万円 |
410万円以上の区分や、より詳細な速算表は国税庁No.1600でご確認ください。実際の控除額・還付額の試算は個々の年金額・家族構成・他の所得によって変わるため、正確な金額を知りたい場合は税理士や年金事務所への確認をおすすめします。
還付申告のやり方(e-Tax・MFで簡単に)






還付申告の手順は、大きく分けて次の3ステップです。特別な準備は不要で、書類さえそろえば1日で完了することも珍しくありません。
還付申告に必要な書類チェックリスト
- 公的年金等の源泉徴収票(年金の支払者ごとに全通)
- マイナンバーカード(e-Tax利用時)
- 医療費控除を使う場合:医療費の領収書またはマイナポータル連携データ
- 生命保険料控除・地震保険料控除の証明書(該当する場合)
- 国民健康保険料・国民年金保険料などの納付証明書(該当する場合)
- 還付金の振込先口座がわかるもの
年金の支払者(日本年金機構等)から届く「公的年金等の源泉徴収票」、医療費控除を使う場合は医療費の領収書やマイナポータル連携データ、生命保険料控除証明書、国民健康保険料・国民年金保険料の納付証明書など、申告したい控除に応じた書類を集めます。マイナンバーカードも用意しておきましょう。
国税庁の確定申告書等作成コーナー、またはマネーフォワード クラウド確定申告のようなソフトを使い、源泉徴収票の金額と各種控除額を画面の案内に沿って入力します。ソフトを使えば、還付になるかどうかをその場で試算できるため、申告するかどうかの判断もしやすくなります。
マイナンバーカードとスマートフォンがあれば、税務署に行かずにe-Taxで申告書を送信できます。スマホでのe-Taxのやり方はe-Tax(電子申告)をスマホで行う完全ガイドで詳しく解説しています。e-Taxの利用が難しい場合は、印刷して税務署へ郵送・持参する方法もあります。
還付申告には確定申告期間(原則2月16日〜3月15日)の縛りがなく、対象年分の翌年1月1日から5年間提出できます。「去年の分を申告し忘れていた」という場合も、5年以内であればさかのぼって還付申告が可能です。過去の源泉徴収票が手元にない場合は、年金事務所や日本年金機構に再発行を依頼できます。
よくある質問(FAQ)
- 年金の収入が400万円を超えたら、必ず確定申告が必要になりますか?
-
はい、公的年金等の収入金額の合計が400万円を超える場合は、確定申告不要制度の対象外となり、原則として確定申告が必要です。複数の年金を受給している場合は、すべての年金収入を合算して400万円を超えるかどうかを判定します。判定に迷う場合は税理士に確認することをおすすめします。
- 「年金以外の所得20万円以下」には、フリマアプリの売上や一時的な副収入も含まれますか?
-
所得の種類や金額によって判定が変わるため一概にはいえませんが、給与所得・不動産所得・事業所得・雑所得など、公的年金等に係る雑所得以外の所得はこの20万円の判定に含まれる可能性があります。フリマアプリの売上でも、生活用動産の売却など非課税とされるものを除き、継続的・営利目的の販売であれば所得として扱われることがあります。個々の状況によって扱いが異なるため、判断に迷う場合は税務署や税理士に確認してください。
- 還付申告はいつまで遡ってできますか?
-
還付申告は、対象となる年分の翌年1月1日から5年間提出できます。確定申告不要制度を使って申告してこなかった年についても、この5年の期間内であれば還付申告が可能です。ただし、5年を過ぎると原則として還付を受けられなくなるため、心当たりのある方は早めに確認することをおすすめします。
- 確定申告不要制度を使う場合、住民税の申告は別途必要ですか?
-
ケースによります。所得税の確定申告不要制度と住民税の申告要否は別の制度であり、公的年金等の支払者から市区町村へ提出される「公的年金等支払報告書」により年金収入は把握されるのが一般的ですが、追加の控除を反映させたい場合など住民税の申告が必要になることがあります。詳しくはお住まいの市区町村の窓口に確認するのが確実です。



まとめ:400万円ルールは「申告しなくていい」であって「申告しない方が得」ではない
公的年金等の収入金額合計400万円以下、その全部が源泉徴収の対象、年金以外の所得20万円以下——この3つをすべて満たして初めて確定申告不要制度の対象になる。
所得税の申告が不要でも、住民税の申告が必要になるケースがある。追加の控除を反映したい場合は市区町村の窓口に確認する。
医療費が多くかかった年、保険料や寄附金控除・配偶者控除等が反映されていない年は、還付申告をした方が得になる可能性がある。
令和8年度税制改正で源泉徴収の対象外となる年金額のラインは上がったが、400万円ルールの判定基準そのものは変わっていない。還付申告はe-Taxやマネーフォワード クラウド確定申告で完結できる。
確定申告不要制度(400万円ルール)は、年金受給者の事務負担を減らすための特例であり、申告する権利まで奪うものではありません。医療費控除や保険料控除、配偶者控除・扶養控除などが年金の源泉徴収に反映されていない場合は、還付申告によって税金が戻ってくる可能性があります。ご自身やご家族の状況が還付申告に該当しそうか、まずは源泉徴収票を手元に用意して確認してみることをおすすめします。個別の判断が難しい場合は、税理士にご相談ください。
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源泉徴収票の内容を入力するだけで、還付になるかどうかを自動計算。医療費控除・社会保険料控除・生命保険料控除にも対応し、e-Taxでの提出まで完結できます。ご家族の確定申告代行にもおすすめです。
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