役員貸付金がある会社では、認定利息(役員に対する経済的利益)の金額を計算したところで、つい安心してしまいがちです。しかし実務でつまずくのはむしろここからです。計算した金額を、法人税申告書のどの書類の、どの欄に反映すればよいのか――この「記載箇所」の把握が抜けたまま申告してしまうケースが少なくありません。
勘定科目内訳明細書、別表四、法人事業概況説明書、そして消費税の申告区分――役員貸付金にまつわる金額は、実は複数の書類にまたがって記載する必要があります。どれか1つでも記載が漏れていたり、書類間で金額が食い違っていたりすると、税務調査で「なぜこの数字だけ整合しないのか」と着目される入り口になりかねません。
この記事では、認定利息の計算方法そのものではなく、計算した後に「どの書類の、どこに、何を書くか」を書類横断でチェックリスト化して解説します。国税庁の一次情報に基づき、記載漏れと書類間の不整合を防ぐための実務ガイドです。
この記事のポイント
📌 この記事でわかること
- 役員貸付金の認定利息を計算した後、法人税申告書のどこに記載すればよいか
- 記載箇所は主に4つ――勘定科目内訳明細書「貸付金及び受取利息の内訳書」・別表四・法人事業概況説明書・消費税の非課税売上区分
- 貸付金の受取利息が消費税では「非課税売上」になる理由と、法人税の益金算入との違い
- 各書類の金額が食い違っているとなぜ税務調査の端緒になりやすいのか、整合チェックの方法
- 前提:この記事は認定利息を「計算したあと」の記載に絞ります(利率や金額そのものの計算方法は別記事で解説しているため、本記事では扱いません)
対象読者:役員貸付金があり認定利息を計算した(またはこれから計算する)中小企業の経理担当者・経営者、および担当する税理士事務所スタッフ/前提知識:認定利息の基本的な意味がわかっていれば読み進められます/読了の目安:約7分
ぜいむたん


なぜ「計算」だけでなく「記載箇所」まで確認が必要か
役員貸付金の認定利息について解説する記事の多くは「利率の計算方法」がゴールになっています。しかし実務担当者にとって本当に必要なのは、その先――計算した金額を申告書のどこに書き写すか、という工程です。ここが抜けると、正しく計算していても申告書上は反映漏れとして扱われてしまいます。
認定利息とは何か(最低限のおさらい)
国税庁タックスアンサーNo.5202「役員等に対する経済的利益」によれば、役員等に無利息・低利で金銭を貸し付けた場合、「通常取得すべき利率により計算した利息の額と実際に徴収した利息の額との差額」が経済的利益とされます。この差額が、いわゆる「認定利息」です。定期同額給与等に該当しない場合、この経済的利益相当額は会社側の損金には算入されません。
ポイントは、この差額が会社側と役員側の両方に影響するという点です。会社側では本来受け取るべきだった利息を受取利息として益金に計上し、同額が役員に対する経済的利益(給与)として扱われます。この「会社の益金算入」と「役員給与としての扱い」は別物であり、両方が同時に生じる点を混同しないようにしましょう。認定利息の具体的な計算方法(利率の考え方)は、この記事のスコープ外のため、詳しくは認定利息の計算方法の記事をご覧ください。
計算した認定利息は、複数の書類にまたがって反映される
認定利息の金額が確定したら、それを1か所に書けば終わり、というわけではありません。法人税の申告書類の中でも性質の異なる複数の書類に、それぞれ異なる形で反映する必要があります。この「書類をまたぐ」という性質こそが、記載漏れが起きやすい根本的な理由です。






【チェックリスト】法人税申告書・消費税での記載箇所は4つ
認定利息を計算した後の実務フローを、反映する順番で整理すると次のようになります。
通常取得すべき利率と実際に徴収した利率の差額から、期中の認定利息の額を確定します。利率の考え方は本記事のスコープ外のため、計算記事で確認してください。
「貸付金及び受取利息の内訳書」に、貸付先(役員名)・期末現在高・期中の受取利息額・利率を記載します。
認定利息相当額を、受取利息の計上漏れとして益金に加算します。区分(留保・社外流出)の細部は個別事情によるため手引き等で確認します。
法人事業概況説明書の貸付金の状況欄、および消費税申告での非課税売上区分と、内訳書・別表四の金額が一致しているかを確認します。
このSTEPを書類ごとに一覧化したのが、下のチェックリストです。
役員貸付金の申告書記載箇所チェックリスト
貸付先(役員名)・期末現在高・期中の受取利息額・利率を記載。勘定科目内訳明細書の一部として法人税申告書に添付する。
認定利息(受取利息の計上漏れ)を益金として加算。区分や別表五(一)への連動は事案により異なる。
代表者・役員等への貸付金の状況を記載する欄がある。内訳書の期末現在高と整合させる。
貸付金の受取利息(認定利息含む)は非課税売上。課税売上割合の計算上、分母に算入する。
① 勘定科目内訳明細書「貸付金及び受取利息の内訳書」
役員貸付金は「貸付金及び受取利息の内訳書」に記載します。貸付先の名称(役員名)、期末現在高、期中の受取利息額、適用した利率を書き込む欄があり、税務調査の際に最初に着目されやすい書類のひとつです。書き方の詳細は勘定科目内訳明細書「貸付金及び受取利息の内訳書」の書き方で解説していますので、あわせて確認してください。
② 別表四――認定利息を益金算入(加算)する
別表四では、認定利息相当額を「受取利息の計上漏れ」として益金に加算します。ただし、加算する区分(留保なのか社外流出なのか)や別表五(一)への連動、役員給与認定分の損金不算入の具体的な記入方法は、貸付の経緯や役員給与の支給形態によって異なり、一律には決まりません。
別表四の具体的な記入区分や別表五(一)への連動処理は事案ごとに異なり、本記事のレベルでは断定できません。「益金算入(加算)する」という大枠を押さえたうえで、具体的な記入箇所は法人税申告書の記載の手引きや顧問税理士に必ず確認してください。
③ 法人事業概況説明書――貸付金の状況欄との整合
法人事業概況説明書には、代表者・役員等への貸付金の状況を記載する欄があります。ここに記載する貸付金残高が、内訳書の期末現在高と一致していないと、書類間の不整合として調査の端緒になり得ます。決算時にはこの2つの書類を突き合わせる習慣をつけましょう。






消費税での扱い――受取利息は非課税売上
法人税では益金に算入する認定利息ですが、消費税の扱いはまったく別の話です。ここを混同してしまう担当者が意外と多いので、切り分けて理解しておきましょう。
貸付金の利子は消費税では非課税(No.6221)
国税庁タックスアンサーNo.6221「預金や貸付金の利子など」によれば、貸付金の利子(受取利息)は消費税法上「非課税」です。したがって、会社が実際に受け取った利息はもちろん、認定利息として計上した受取利息も、消費税の区分では「非課税売上」に該当します。「課税」「課税対象」と記帳してしまわないよう注意しましょう。
課税売上割合への影響
非課税売上は、仕入税額控除の計算で使う課税売上割合の分母には含まれますが、分子には含まれません。課税売上割合が95%以上かつ課税売上高が5億円以下であれば仕入税額を全額控除できる、という一般的な取り扱いもありますが、個別の税額計算は事案によって変わるため、本記事では断定せず一般論にとどめます。
- 法人税:認定利息相当額を「益金算入(加算)」する
- 消費税:貸付金の受取利息(認定利息含む)は「非課税売上」に区分する
- 「消費税が非課税」だからといって「法人税でも課税されない」わけではない――両者は別の話






認定利息の利率・金額はどこで確認するか
この記事は「記載箇所」に焦点を当てているため、認定利息の具体的な計算方法はスコープ外としています。とはいえ、記載箇所を確認する前提として、最新の利率と金額の確認先は押さえておく必要があります。
利率は年により変動し、少額不追及の基準もある
国税庁タックスアンサーNo.2606「金銭を貸し付けたとき」によれば、無利息・低利で貸し付けた場合の差額は原則として給与課税の対象ですが、①災害や病気等で生活資金を貸した場合、②合理的な利率で貸した場合、③差額が少額(1年間の差額の合計額が一定額以下)である場合は、課税しなくてよいとされています。ここで注意したいのは、認定利率(特例基準割合をもとに定まる利率)は年によって変わる一方、少額かどうかの基準額そのものは年によって変わるわけではない、という点です。実際にどの区分に当てはまるかはその年の利率と貸付金額しだいで変わるため、本記事では具体的な数値を断定せず、最新の内容はNo.2606の原文と認定利息の計算方法の記事で確認することをおすすめします。
貸付金残高の管理はExcelテンプレートで
内訳書・事業概況説明書・別表四の金額を整合させるには、そもそも貸付金残高と返済状況を月次で正確に把握しておくことが前提になります。役員貸付金の返済管理Excelテンプレートを使えば、残高と受取利息の推移を1つの表で管理でき、決算時の突き合わせ作業がぐっと楽になります。






記載箇所ごとの整合チェック早見表
4つの書類に記載した金額は、それぞれ独立しているのではなく、相互に整合している必要があります。どの数字とどの数字を突き合わせればよいのか、早見表で確認しましょう。
整合チェック早見表
別表四の益金加算額と一致しているか。内訳書だけ書いて別表四で加算し忘れるケースが多い。
事業概況説明書の貸付金の状況欄と一致しているか。返済があった場合は最新残高に更新されているか。
非課税売上として消費税申告に反映されているか。「課税」で処理していないか。
認定利息のうち役員給与として扱われる部分が、給与関連の処理と整合しているか。
もし整合していない箇所を見つけた場合は、次のステップで対応を検討します。
内訳書・別表四・事業概況説明書・消費税区分のうち、どこで数字がズレているのかを突き合わせて特定します。
貸付金残高や適用利率の入力ミスなど、原因を洗い出して正しい金額を再計算します。
既に提出済みの申告書に誤りがあった場合は、修正申告の要否を検討します。金額や影響範囲によって対応が異なります。
別表四の区分や修正申告の要否は個別事情によって判断が分かれるため、自己判断せず専門家に確認しましょう。






役員貸付金の申告書記載でよくある失敗3選
実際の申告実務で起こりやすい失敗を3つ紹介します。自社の申告書と照らし合わせてチェックしてみてください。
- 失敗1:少額だから大丈夫、と自己判断で計算・記載自体を省略してしまう――少額不追及の基準は、あくまで一定の要件を満たした場合の取り扱いです。基準に該当するかどうかを確認せず「少額そうだから」と省略すると、要件を満たしていなかった場合に計上漏れとして指摘されます。
- 失敗2:内訳書には書いたが、別表四での益金算入(加算)を忘れる――たとえば、役員への貸付金残高が800万円あり、本来計上すべき認定利息の計上をまるごと失念していたケースを考えてみましょう。適用すべき利率は年によって異なるため断定できませんが、例として計算した場合、受取利息として計上すべき金額が生じ、この金額を会社側で益金に算入し忘れ、同時に役員側でも給与としての経済的利益の認定漏れになっていた、というパターンです。内訳書に書いた金額と別表四の加算額は必ずセットで確認しましょう。
- 失敗3:事業概況説明書の貸付金残高と、内訳書の金額が食い違ったまま提出してしまう――期中に一部返済があったのに、片方の書類だけ古い残高のまま更新し忘れるケースです。決算の締めのタイミングで両方の書類を並べて突き合わせる習慣をつけましょう。
上記3つ以外にも、受取利息を消費税の「課税売上」として処理してしまう区分ミスも見られます。貸付金の利子は消費税では非課税売上に該当するため、区分を誤らないよう注意してください。
そもそも役員貸付金自体を減らしていきたい場合は、役員貸付金の解消方法5パターン比較もあわせて参考にしてください。記載漏れのリスクを根本から減らす選択肢になります。






よくある質問(FAQ)
- 認定利息が少額でも記載は必要ですか?
-
少額不追及の基準に該当するかどうかを確認したうえで判断する必要があります。国税庁タックスアンサーNo.2606では、1年間の利息相当額が一定額以下である場合など、一定の要件を満たすときは課税しなくてよいとされていますが、この基準に該当するかどうかは、その年の認定利率と貸付金額によって変わるため、自己判断で省略せず、最新の内容を確認してから記載の要否を判断してください。
- 役員から実際に利息を受け取っている場合の記載はどうなりますか?
-
実際に利息を受け取っている場合でも、その利率が通常取得すべき利率に満たなければ、差額部分について認定利息の考え方が適用されます。内訳書には実際に徴収した利息額と利率を記載し、差額が生じていればその金額を別表四で益金算入する必要がないか確認しましょう。消費税では、実際に受け取った利息も認定される差額部分も、いずれも非課税売上として扱います。
- 記載漏れに後から気づいたらどうすればいいですか?
-
申告済みの内容に誤りがあると気づいた場合は、金額の重要性や申告期限からの経過期間によって対応が変わるため、まずは内訳書・別表四・事業概況説明書・消費税の各記載を突き合わせて漏れの範囲を確認し、修正申告の要否を含めて顧問税理士に相談してください。自己判断で放置すると、税務調査で指摘された際に不利になる可能性があります。
役員貸付金 申告書記載まとめ:4つの記載箇所を漏れなく確認しよう






最新の利率・少額基準を確認しながら、期中の認定利息額を確定させます。
「貸付金及び受取利息の内訳書」に貸付先・期末現在高・受取利息額・利率を記入します。
認定利息相当額を益金に加算します。区分の詳細は顧問税理士に確認します。
貸付金残高と消費税の非課税売上区分が、内訳書・別表四の金額と一致しているかを確認します。
別表四の区分や修正申告の要否など、個別判断が必要な部分は専門家に確認して申告を確定させます。



参考・情報源
- 国税庁タックスアンサー No.5202「役員等に対する経済的利益」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5202.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2606「金銭を貸し付けたとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2606.htm
- 国税庁タックスアンサー No.6221「預金や貸付金の利子など」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6221.htm
- 国税庁 e-Tax「勘定科目内訳明細書の標準フォーム等(令和6年3月1日以後終了事業年度分)」https://www.e-tax.nta.go.jp/hojin/gimuka/csv_jyoho2_meisai_20240325a.htm
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