「取引先が音信不通になって、もう1年以上入金がない…この売掛金、経費にしていいのかな?」フリーランス・個人事業主なら一度は直面する悩みです。結論から言うと、一定の要件を満たせば貸倒損失として必要経費にできます。ただし、「1年経ったから」だけを理由に安易に経費計上するのは危険です。税務調査では「回収の努力を尽くしたか」が厳しく問われます。この記事では、国税庁の一次情報をもとに、貸倒損失の要件と、否認されないための実務対応を整理します。
📌 この記事でわかること
- 貸倒損失として認められる3つの類型と、個人事業主が使いやすい「形式上の貸倒れ」の要件
- 「取引停止後1年経った」だけでは税務調査で否認されるリスクがある理由
- 否認されないために残しておくべき督促・回収努力の記録
- 青色申告者だけが使える「貸倒引当金」との違い
ぜいむたん


未回収の売掛金、そのまま経費にしていませんか?
貸倒損失の法的根拠——所得税法51条2項
個人事業主が事業の遂行上生じた売掛金・貸付金等の債権について、回収不能による損失が生じた場合、その損失はその損失が生じた年分の必要経費に算入できます(所得税法51条2項)。ただし、この規定は「回収できなくなったら自動的に経費になる」という単純な話ではなく、国税庁が定める一定の要件を満たして初めて認められるものです(出典:国税庁 所得税基本通達(第51条関係))。
事業所得か雑所得かで扱いが異なる場合がある
この記事で解説する「貸倒損失をその年の必要経費に算入する」という扱いは、事業所得(所得税法51条2項)を前提としています。副業収入などが雑所得に区分される場合は扱いが異なり、貸倒れによる必要経費はその年の雑所得の金額を上限として差し引かれ、赤字になっても事業所得など他の所得と損益通算はできません。これは所得税法64条1項の規定によるもので、回収不能額に対応する部分は「その所得が生じた年分の雑所得の計算上なかったものとみなす」形で処理されます。事業所得か雑所得かの区分に迷う場合は、税理士に確認しましょう。
貸倒損失として認められる3つの類型






貸倒損失として処理できる3つの類型
会社更生法・民事再生法等の法的手続きにより債権が法的に切り捨てられた場合。個人事業主の取引先ではあまり多くない類型。
債務者の資産状況・支払能力等から、全額が回収できないことが客観的に明らかになった場合。担保があれば処分後に限られる。
個人事業主が最も使う類型。継続的な取引先との取引を停止し、最後の弁済等から1年以上経過した場合。売掛債権が対象(貸付金は対象外)。
出典:国税庁 No.5320「貸倒損失として処理できる場合」(法人税向けだが、所得税基本通達51-11・51-12・51-17でも同様の考え方が示されています)
個人事業主が使いやすい「形式上の貸倒れ」——取引停止後1年以上のルール
形式上の貸倒れの5つの要件
形式上の貸倒れとして売掛債権を貸倒損失にするには、次の要件をすべて満たす必要があります。
- 継続的な取引を行っていた債務者であること(単発・1回限りの取引先は対象外)
- 対象が売掛債権であること(貸付金・未収入金など性質の異なる債権は原則対象外)
- 債務者の資産状況・支払能力等が悪化したことによる取引停止であること
- 取引停止の時、または最後の弁済の時のうち最も遅い時から1年以上経過していること
- 売掛債権の額から備忘価額(1円)を控除した残額を損金経理していること
「1回だけ仕事をした相手が支払ってくれない」というケースは、継続的取引ではないため形式上の貸倒れの対象になりません。この場合は②の「事実上の貸倒れ」(全額回収不能が客観的に明らかであること)の要件を満たすかどうかで検討することになります。
「取引停止」と「最後の弁済」、遅い方から数える
1年のカウントの起点は「取引を停止した時」と「最後に一部でも支払いを受けた時」のうち、いずれか遅い方です。たとえば取引自体は昨年停止していても、その後に一部入金があった場合は、その入金日が起点になります。起点の管理を誤ると、まだ1年経過していないのに貸倒処理してしまうミスにつながるため、入金履歴を正確に記録しておくことが重要です。
【結論】「1年経ったから経費」は危険——回収努力が伴わないと否認される






実務では「単に回収できていない」だけでは貸倒処理しないのが一般的
形式上の貸倒れの要件(取引停止後1年以上)は、あくまで最低限の形式基準です。税務調査では、要件を数字上満たしているかどうかだけでなく、「本当に取引先の資力が悪化していて回収が困難だったのか」「督促などの回収努力を行ったうえでの結果か」が実質的に審査されます。督促も内容証明もせず、単に入金が止まったまま1年放置しただけの債権を機械的に貸倒処理すると、税務調査で否認され、追徴課税(過少申告加算税・延滞税)が発生するリスクがあります。実務上は、回収努力を尽くしたことを証跡で示せる場合に限って貸倒処理を行うのが一般的です(出典:HT税理士法人「貸倒損失の要件とは?」)。
- 督促・催告を一切せず、入金がないまま1年放置しただけで処理
- 取引先の資力悪化を裏付ける情報(廃業・連絡不通の経緯など)を記録していない
- 入金履歴・請求書送付履歴が残っておらず、起点となる日付を証明できない
- 単発の取引先(継続取引でない)を形式上の貸倒れとして処理してしまう
否認されないためにやるべきこと——督促・記録の残し方






督促状・内容証明郵便で催告の記録を残す
取引先への督促は、メール・電話だけでなく、書面(督促状)や内容証明郵便で行い、記録を残しておくことが望ましいです。内容証明郵便は「いつ・誰が・誰に・どんな内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれるため、税務調査で「回収努力をした証拠」として有力です。
取引先の資力悪化を示す客観的な情報を残す
取引先が廃業した、連絡が取れなくなった、他の取引先からも同様の未払いが報告されている——といった情報は、事業者間のやり取りの記録(メール・チャット)やインターネット上の公開情報(廃業届の提出、法人の閉鎖登記等)とあわせて保存しておきましょう。「なぜ回収不能と判断したのか」を後から説明できることが重要です。
記帳のタイミング——回収不能が明らかになった年に処理する
貸倒損失は、要件を満たした年分の必要経費として計上する必要があります。複数年分の未回収債権をまとめて後からまとめて処理すると、それぞれ「その年に本当に貸倒れの事実が生じていたのか」を問われることがあります。回収不能と判断できる事実が生じた年ごとに、都度処理するのが基本です。
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貸倒引当金との違い——個人事業主にも使える制度がある
貸倒損失と貸倒引当金は別の制度
貸倒損失は「実際に回収不能となった債権」を経費にする制度です。一方、貸倒引当金は「将来回収できなくなるかもしれない」というリスクに備えて、あらかじめ一定額を必要経費として見積計上する制度で、所得税法52条に規定があります。両者は別物であり、貸倒引当金を計上したからといって、実際の貸倒損失の要件が緩和されるわけではありません。
青色申告の個人事業主が使える「一括評価による貸倒引当金」
青色申告書を提出する個人事業主(事業所得を生ずべき事業を営む方)は、期末に保有する売掛金・受取手形などの金銭債権の合計額に対して、法定繰入率5.5%(主たる事業が金融業の場合は3.3%)を乗じた金額を、貸倒引当金として必要経費に算入できます(一括評価による貸倒引当金、出典:マネーフォワード クラウド確定申告 解説記事)。白色申告や雑所得(副業等)の場合はこの制度を使えないため、青色申告の大きなメリットの一つといえます。
実際の仕訳と確定申告書の書き方
貸倒損失の仕訳例
形式上の貸倒れの要件を満たし、備忘価額1円を残して貸倒処理する場合の仕訳は、借方「貸倒損失(経費科目)」・貸方「売掛金」で、売掛債権の額から1円を控除した残額を計上します。青色申告決算書では「貸倒金」の科目で経費に算入し、いつ・どの取引先に対する債権を貸倒処理したかが分かるよう、取引先名・金額・貸倒れと判断した理由をメモとして残しておきましょう。
督促状・内容証明・メールでの催告履歴があるかを確認。なければ、貸倒処理の前にまず督促を行いましょう。
継続取引・売掛債権・資力悪化・取引停止後1年以上経過・備忘価額の控除、の5点をチェックします。
取引先名・金額・判断理由をメモとして残し、税務調査に備えます。
よくある質問(FAQ)
- 1回だけ取引した相手が支払ってくれません。貸倒損失にできますか?
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「形式上の貸倒れ」(取引停止後1年以上)の対象は継続的な取引があった相手に限られるため、単発取引の場合はこの類型では処理できません。この場合は「事実上の貸倒れ」(債務者の資産状況・支払能力からみて全額回収不能であることが客観的に明らかな場合)の要件を満たすかどうかを検討することになります。督促や調査を尽くしても回収の見込みがまったくないことを示す資料を残しておきましょう。
- 督促状を送っていない場合、貸倒処理は絶対にできませんか?
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「絶対にできない」とまでは言えませんが、税務調査で否認されるリスクが大きく高まります。形式上の貸倒れの法的な要件自体には「督促の実施」は明記されていませんが、実務上は税務調査官が回収努力の有無を重視して判断するため、督促の記録がないと「本当に回収不能だったのか」を疑われやすくなります。可能な限り督促・催告の記録を残してから貸倒処理することをおすすめします。
- 白色申告でも貸倒引当金は使えますか?
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一括評価による貸倒引当金(法定繰入率5.5%)は、青色申告書を提出する個人事業主限定の制度です。白色申告では使えません。ただし、実際に生じた貸倒損失(貸倒引当金ではなく貸倒れそのもの)は、青色・白色を問わず要件を満たせば必要経費に算入できます。
- 友人に個人的に貸したお金が返ってきません。これも貸倒損失にできますか?
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できません。貸倒損失として必要経費に算入できるのは、あくまで事業の遂行上生じた売掛金・貸付金等の債権に限られます(所得税法51条2項)。事業と関係のない個人的な貸し借り(家事上の債権)は、貸倒損失の対象外です。
まとめ——貸倒処理は「1年」より「回収努力の記録」がカギ






未回収の売掛金は、継続取引・取引停止後1年以上経過などの要件を満たせば貸倒損失として必要経費にできます。ただし「1年経ったから」という理由だけで機械的に処理するのではなく、督促状・内容証明などの回収努力の記録を残したうえで判断することが、税務調査で否認されないための最大のポイントです。以下のステップで確認しておきましょう。
単発取引の場合は形式上の貸倒れの対象外。事実上の貸倒れの要件で検討します。
安易に「1年経ったから」で処理せず、回収を試みた証跡を必ず残しましょう。
いずれか遅い方から起算。一部入金があった場合はその日が起点になります。
取引先名・金額・判断理由をメモに残し、青色申告決算書に反映させます。



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