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「ドル建ての請求書、いったいどのレートで円に直せばいいの?」——海外取引をはじめた経理担当者が、最初につまずくのがこれです。ネットで調べると「TTM」「TTB」「TTS」という3つの略語が出てきますが、どれを使うかは自分で選べること、そして選び方によって円換算額(=利益)が変わることまで書いてある記事は多くありません。
結論から言うと、法人税の取扱いでは「取引日のTTM(電信売買相場の仲値)」が原則で、継続適用を条件に、収益・資産はTTB、費用・負債はTTSを選ぶこともできます(法人税基本通達13の2-1-2)。本記事では、その根拠と、レートの入手先(無料で日次データが取れます)、そして2026年の実測レートを使った独自試算、さらにExcelで換算シートを組む手順まで、実務の順番どおりに解説します。
ぜいむたん


📌 この記事でわかること
- 外貨建取引の円換算は「取引日のTTM」が原則、継続適用を条件に収益・資産はTTB/費用・負債はTTSも選べる(法基通13の2-1-2)
- 期末換算のレートは「期末日のTTM」が原則、継続適用を条件に通貨ごとに資産=TTB/負債=TTSにできる(法基通13の2-2-5)
- レートは三菱UFJリサーチ&コンサルティングのサイトから日次TTS/TTB/TTMを無料のExcelで一括入手できる(入手方法の手順つき)
- 2026年1〜7月の実測レートで試算:レートの選び方だけで課税所得が年28万円変わるケースを検証(USD/EUR/GBPのスプレッド比較表つき)
- XLOOKUPで取引日のレートを自動で引く「為替換算・為替差損益シート」の列設計と数式をそのまま公開
- 為替差損益は消費税では不課税——課税標準は取引日のTTMで固定し、決済時の差額は調整しない(消基通10-1-7・11-4-4)
- 個人事業主は法人と扱いが違う点(期末換算がない・所基通57の3-2)
外貨建取引の換算レートは「取引日のTTM」が原則(法基通13の2-1-2)






外貨建取引の円換算のルールは、法人税法第61条の8(外貨建取引の換算)と、その解釈を示した法人税基本通達13の2-1-2(外貨建取引及び発生時換算法の円換算)に定められています。同通達は、円換算は「その取引を計上すべき日(取引日)における対顧客直物電信売相場(電信売相場)と対顧客直物電信買相場(電信買相場)の仲値(電信売買相場の仲値)による」としています。
ここでいう取引日とは、売上なら売上計上日、仕入なら仕入計上日、固定資産なら取得日です。入金日・支払日ではない点に注意してください。入金日との差額は、後述する為替差損益として処理します。
ただし「継続適用」を条件に、TTB・TTSを選ぶこともできる
同通達には、実務上きわめて重要な但書があります。継続適用を条件として、売上その他の収益または資産については取引日の電信買相場(TTB)、仕入その他の費用(原価および損失を含む)または負債については取引日の電信売相場(TTS)によることができる、というものです。
つまり、外貨建取引の換算レートは「TTM一択」ではなく、①全部TTMか、②収益・資産はTTB/費用・負債はTTSか、を選べる構造になっています。そして②は、①よりも収益が小さく・費用が大きく計上される方向に働きます。この点は本記事の「独自試算」の章で金額に落として検証します。
TTS・TTM・TTBの位置関係を図で整理する
3つの対顧客電信相場の位置関係(USD・2026年7月31日の実測値)
出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング『1990年以降の為替相場』(MUFG Bank公表の対顧客外国為替相場)2026年7月31日の米ドル建値をもとに筆者作成
覚え方はシンプルです。S=Selling(銀行が売る)=高い/B=Buying(銀行が買う)=安い。主語はいつも銀行です。ここを取り違えると、有利・不利の判断が正反対になります。
為替レートはどこから取るか——無料で日次データが取れるMURCのサイト






「主たる取引金融機関」以外のレートを使ってよい根拠
法人税基本通達13の2-1-2の(注)1は、TTS・TTB・TTMについて「原則として、その法人の主たる取引金融機関のものによる」としたうえで、「法人が、同一の方法により入手等をした合理的なものを継続して使用している場合には、これを認める」と定めています。所得税でも所得税基本通達57の3-2の(注)1に同趣旨の定めがあります。
したがって、メガバンクが公表する対顧客相場を、毎期同じ入手方法で継続して使っているのであれば、実務上その使用は認められる余地があります。ここで実務家が定番として使っているのが、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「1990年以降の為替相場」です。MUFG Bank公表の対顧客外国為替相場が、1990年からの日次データとして無料で公開されています。
年間の日次レートをExcelで一括ダウンロードする手順
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの為替相場サイトにアクセスします。カレンダー形式で当月・前月・前々月が表示され、日付をクリックするとその日の全通貨のTTS・TTB・TTMが表示されます。
ページ下部にある年選択のプルダウンで対象年(例:2026年)を選ぶと、その年の日次データがExcelファイル(.xls)でダウンロードできます。1日ずつメモする必要はありません。
ダウンロードしたファイルには、日次データのシートと、月ごとの高値・安値・平均のシートが含まれています。通貨ごとにTTS・TTB・TTMの3列が横に並ぶ構成です。月中平均のシートは、後述する「1月以内の一定期間の平均相場」を使う場合にそのまま使えます。
ダウンロードしたファイルは、その事業年度の決算資料と一緒に保存しておきます。「どの相場を、どこから、どの方法で入手して継続使用しているか」を説明できる状態にしておくことが、継続適用の裏づけになります。
税理士法人での実務でも、外貨取引のある関与先には決算時にこの年間ファイルを保存してもらい、換算根拠を毎期そろえる運用をとることが少なくありません。調査の場で「なぜこのレートなのか」を口頭で説明するより、同じ出所のデータが毎期そろっているほうがはるかに話が早いからです。
土日・祝日など「その日にレートがない」ときの扱い
取引日が休日でレートが存在しないことは頻繁に起こります。この場合、法人税基本通達13の2-1-2の(注)3は「当該日に為替相場がない場合には、同日前の最も近い日の為替相場による」と定めています。つまり、直前の営業日のレートを使います(翌営業日ではありません)。所得税基本通達57の3-2の(注)3も同じ内容です。
【独自試算】レートの選び方で円換算額はいくら変わるか(2026年実測データ)






通貨ごとのスプレッド比較(2026年7月31日の実測値)
まず前提として、TTMからTTB・TTSがどれだけ離れているか(片道の手数料幅)は通貨によって大きく異なります。以下は、MUFG Bank公表の2026年7月31日の対顧客相場から筆者が算出した実測値です。
| 通貨 | TTS | TTM | TTB | 片道幅(TTM−TTB) | 1万通貨あたりの差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 米ドル USD | 161.72 | 160.72 | 159.72 | 1.00円 | 10,000円 |
| ユーロ EUR | 186.62 | 185.12 | 183.62 | 1.50円 | 15,000円 |
| 英ポンド GBP | 220.33 | 216.33 | 212.33 | 4.00円 | 40,000円 |
| カナダドル CAD | 116.27 | 114.67 | 113.07 | 1.60円 | 16,000円 |
| スイスフラン CHF | 200.18 | 199.28 | 198.38 | 0.90円 | 9,000円 |
出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング『1990年以降の為替相場』掲載のMUFG Bank対顧客相場(2026年7月31日)をもとに筆者が算出
米ドルは片道1.00円ですが、英ポンドは4.00円。同じ「TTMかTTBか」の選択でも、ポンド建て取引の多い会社では影響が4倍になります。ユーロ建て・カナダドル建ての取引が中心の会社も、米ドル感覚でいると見積りを誤ります。
2026年1〜7月の実測レートで、年間の差額を試算する
次に、実際の期間損益への影響を試算します。前提は以下のとおりです(数値は筆者による試算であり、個別の税額を保証するものではありません)。
- 2026年7月決算の法人(1月〜7月の7か月分で試算)
- 毎月末に 30,000ドルの輸出売上 を計上
- 毎月末に 10,000ドルの海外仕入 を計上
- 換算レートは各月末営業日のMUFG Bank対顧客相場(USD)を使用
| 計上月(月末営業日) | TTM | TTB(収益・資産用) | TTS(費用・負債用) |
|---|---|---|---|
| 2026年1月30日 | 153.66 | 152.66 | 154.66 |
| 2026年2月27日 | 155.81 | 154.81 | 156.81 |
| 2026年3月31日 | 159.88 | 158.88 | 160.88 |
| 2026年4月30日 | 160.39 | 159.39 | 161.39 |
| 2026年5月29日 | 159.39 | 158.39 | 160.39 |
| 2026年6月30日 | 162.39 | 161.39 | 163.39 |
| 2026年7月31日 | 160.72 | 159.72 | 161.72 |
| 7か月合計 | 1,112.24 | 1,105.24 | 1,119.24 |
出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング『1990年以降の為替相場』掲載のMUFG Bank対顧客相場(米ドル・2026年各月末営業日)を筆者が集計
この実測レートで円換算すると、次のようになります。
| 項目 | ①全部TTM(原則) | ②収益TTB/費用TTS | 差額 |
|---|---|---|---|
| 売上(30,000ドル×7か月=210,000ドル) | 33,367,200円 | 33,157,200円 | ▲210,000円 |
| 仕入(10,000ドル×7か月=70,000ドル) | 11,122,400円 | 11,192,400円 | +70,000円 |
| 所得への影響 | — | — | 280,000円の減少 |
上記は執筆者が実測レートに基づき自ら計算した試算値です。
7か月で28万円の所得差。仮に実効税率を30%とすれば、約8.4万円のキャッシュフローの違いになります。取引量が10倍なら280万円です。
重要:これは「永久に税金が減る」話ではなく「期ズレ」である
⚠️ ここを誤解すると危険です
TTBで売上を計上すると、同じレートで売掛金も計上されます。その売掛金が決済されたとき、実際の入金円貨との差は為替差益として課税されます。つまり②の選択でトータルの課税所得が永久に減るわけではなく、多くの場合は認識のタイミングがずれる(課税の繰延べ)効果として現れます。「レートを選べば節税できる」という説明は不正確です。
それでも②を選ぶ実務上のメリットは残ります。決算期をまたぐ取引が多い会社では課税が翌期以降にずれるため資金繰り上の効果があり、また「収益はTTB・費用はTTS」と決めておくことで担当者ごとの判断ブレがなくなるという運用上の効果もあります。いずれにせよ、有利・不利は自社の取引パターン(決済までの期間、輸出入のバランス、通貨)によって変わるため、採用前に顧問税理士へ相談することをおすすめします。
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期末時換算法と発生時換算法——法定の換算方法
法人が事業年度末に保有する外貨建資産等(外貨建債権債務・外貨建有価証券・外貨預金・外国通貨)は、法人税法第61条の9により、区分ごとに換算方法が定められています。大きく分けると次の2つです。
どちらを適用するかは資産の区分ごとに法定されていますが、届出をすることで選定できる区分もあります。その手続が「外貨建資産等の期末換算方法等の届出書」(国税庁 C1-45)です。提出期限は、その外貨建取引を行った日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで。届出をしなかった場合は法定換算方法が適用されます。海外取引を始めた最初の期に検討しておくべき届出であり、後から「やっぱり変えたい」となると変更承認申請(C1-46)が必要になります。
期末レートも「TTMが原則・継続適用でTTB/TTSを選べる」(法基通13の2-2-5)
法人税基本通達13の2-2-5(期末時換算法-事業年度終了の時における為替相場)は、期末時換算法により円換算を行う場合の為替相場は「事業年度終了の日の電信売買相場の仲値(TTM)による」とし、ただし書で「継続適用を条件として、外国通貨の種類の異なるごとに当該外国通貨に係る外貨建資産等の全てについて、外貨建ての資産については電信買相場(TTB)により、外貨建ての負債については電信売相場(TTS)によることができる」と定めています。
取引日の換算(13の2-1-2)と同じ構造ですが、期末の場合は「通貨の種類ごとに、その通貨の外貨建資産等の全てについて」という縛りが付いている点が違います。ドル建て売掛金だけTTB・ドル建て前渡金はTTM、といったつまみ食いはできません。
金額イメージを持っておきましょう。期末(2026年7月31日)に200,000ドルの売掛金がある場合、TTM(160.72円)なら32,144,000円、TTB(159.72円)なら31,944,000円で、差は20万円です。
「1月以内の平均値」も使える——月末の急変動に振り回されないために
同通達の(注)1は、期末日のTTM・TTB・TTSについて、継続適用を条件として「当該事業年度終了の日を含む1月以内の一定期間におけるそれぞれの平均値」によることができるとしています。さらに(注)2では、期末日の相場が異常に高騰または下落しているためその相場によることが適当でないと認められる場合にも、この平均値を使用できるとしています。
この規定は実際に効きます。今回のデータでも、2026年7月の月中平均TTMは162.60円、月末TTMは160.72円で、1.88円の開きがありました。月末の1日だけが偶然大きく振れた年度末に、その1日の数字で全ての外貨建資産を評価してよいのか——という問題に、通達はあらかじめ答えを用意しているわけです。MURCのファイルには月中平均のシートが含まれているので、平均値方式を採用する場合もデータ入手で困ることはありません。
為替相場が「著しく変動」したときの特例(おおむね15%)
発生時換算法を採用している外貨建資産等でも、為替相場が著しく変動した場合には期末時の相場で換算できる特例があります(法人税法施行令第122条の3)。法人税基本通達13の2-2-10は、その判定基準として「おおむね15%に相当する割合以上」という数値基準を示しています。急激な円安・円高が進んだ年度には、この特例の適用可否を検討する余地があります。
為替差損益は消費税では「不課税」——課税標準は取引日のTTMで固定






国税庁のタックスアンサーNo.6325 外貨建取引の取扱いによれば、外貨建取引に係る資産の譲渡等の対価の額は、原則として売上げや仕入れとして計上する日の電信売買相場の仲値により換算した円換算額が課税標準となります(消費税法基本通達10-1-7、11-4-4)。そして為替差損益は、資産の譲渡等の対価の額または課税仕入れに係る支払対価の額に当たりません。
実務上のポイントを整理すると次のとおりです。
- 消費税の課税標準は取引日のレートで固定——決済日のレートで計算し直す必要はありません
- 為替差損益の税区分は「不課税」——課税売上割合の計算にも影響しません
- 会計ソフトの初期設定に注意——為替差益・為替差損の勘定科目に誤って課税区分が設定されていると、申告額がずれます
3つ目は監査法人・税理士法人での実務でも定番の指摘事項です。決算前に一度、為替差損益の勘定科目の税区分設定を確認しておくことをおすすめします。なお、輸出取引そのものの消費税の扱い(輸出免税か不課税か)は別論点です。この点は海外クライアントへの請求書、消費税はどう書く?輸出免税・不課税の違いとインボイス番号が不要な理由で詳しく解説しています。
Excelで「為替換算・為替差損益シート」を作る(列設計と数式)






シート構成(2枚だけ)
複雑なマクロは不要です。次の2シートで完結します。
| シート名 | 内容 | 作り方 |
|---|---|---|
| rate | A列=日付、B列=TTS、C列=TTB、D列=TTM(通貨ごとにファイルを分けるか、列を追加) | MURCからダウンロードした年間ファイルの日次シートを値貼り付け。休日の空白行は削除しておくと扱いやすい |
| 取引明細 | 取引日・区分(収益/費用/資産/負債)・外貨額・適用レート・円換算額・決済日・決済円貨額・為替差損益 | 下記の数式を入れる。区分に応じて自動でTTB/TTSを引かせるのがポイント |
そのまま使える数式
取引明細シートのA列に取引日、B列に区分(「収益」「資産」「費用」「負債」のいずれか)、C列に外貨額を入れる前提です。
【D列】適用レート(区分に応じてTTB/TTSを自動選択・TTM原則なら第3引数だけ使う)
=IFERROR(
IF(OR($B2="収益",$B2="資産"),
XLOOKUP($A2,rate!$A:$A,rate!$C:$C,,0,-1),
XLOOKUP($A2,rate!$A:$A,rate!$B:$B,,0,-1)),
"レート未取得")
【E列】円換算額
=ROUND($C2*$D2,0)
【H列】為替差損益(F列=決済日、G列=実際の入金/支払円貨額)
=IF($F2="","",$G2-$E2)
ポイントはXLOOKUPの第5引数に「-1」(完全一致、なければ次に小さい項目)を指定することです。これにより、取引日が土日祝でrateシートに存在しない場合でも、自動的に直前の営業日のレートが返ります。前掲のとおり法人税基本通達13の2-1-2(注)3が「同日前の最も近い日の為替相場による」としているため、この挙動が通達の考え方と一致します。逆に「1」(次に大きい項目=翌営業日)を指定すると通達と食い違うので注意してください。
TTM原則で運用する場合は、D列の数式をXLOOKUPでrateシートのD列(TTM)を引くだけの1行に簡略化できます。いったん決めた方式は期中で変えないこと——これが「継続適用」の実質です。シートの1行目に「当社は収益・資産=TTB、費用・負債=TTSを継続適用」といった方針をメモしておくと、担当者が替わっても運用が崩れません。
月次平均レートで運用する場合
取引件数が多い会社では、日次レートを1件ずつ引くより、前月の平均相場を当月の全取引に適用するほうが実務負担は軽くなります。法人税基本通達13の2-1-2の(注)2は、継続適用を条件として「取引日の属する月の前月または前週の平均相場のように1月以内の一定期間における電信売買相場の仲値、電信買相場または電信売相場の平均値」も使用できるとしています。同(注)2は、前月末日・前週末日・当月初日・当週初日の相場を使うことも認めています。
MURCのファイルには月ごとの平均値シートが含まれているため、この方式なら参照テーブルは年12行で済みます。経理の工数を最優先するなら有力な選択肢です。
個人事業主(所得税)の場合はどう違うか






所得税でも、外貨建取引の換算は所得税法第57条の3に規定があり、所得税基本通達57の3-2が円換算は取引日のTTMによるとしています。ここまでは法人と同じです。
違いの1つ目は、TTB・TTSの選択が認められる範囲です。同通達のただし書は、「不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務に係るこれらの所得の金額の計算においては、継続適用を条件として」収入・資産はTTB、経費・負債はTTSによることができる、としています。つまり事業に係る所得計算の場面に限定されており、たとえば譲渡所得の計算などでは同じようには使えません。
2つ目は、法人税法第61条の9のような期末換算(期末時換算法)の規定が所得税にはないことです。そのため個人事業主は、原則として年末に外貨建ての売掛金や外貨預金を洗い替える処理は行わず、為替差損益は決済時に認識することになります。なお、国外で業務を行う個人が外貨表示で損益計算書を作成している場合の年末レート一括換算の特例(所基通57の3-6)など、別途の定めがある場面もあります。
実務で間違いやすい5つのポイント






- インターバンクレートを使ってしまう:ニュースやFXアプリの「1ドル=◯円」は銀行間相場です。税務で使うのは対顧客電信相場(TTS・TTB・TTM)です。
- 入金日のレートで売上を計上してしまう:売上は取引日(売上計上日)のレートで換算します。入金日との差額は為替差損益であって、売上の修正ではありません。
- 収益はTTB・費用もTTBのように混在させる:継続適用の特例は「収益・資産=TTB/費用・負債=TTS」がセットです。有利なほうだけをつまみ食いする運用は特例の前提を欠きます。
- 期末換算で通貨をまたいで方式を変える:法基通13の2-2-5のただし書は「外国通貨の種類の異なるごとに、その通貨に係る外貨建資産等の全てについて」と定めています。ドルはTTB、ユーロはTTM、という運用はできません。
- 為替差損益の税区分を「課税」にしたまま申告する:為替差損益は消費税では不課税です。会計ソフトの科目設定を確認してください。
とくに3番目と4番目は、「継続適用」という言葉の意味を軽く見ていると起こります。継続適用とは「毎期同じルールで処理し続けること」であり、期ごとに有利なほうへ乗り換えることを認める規定ではありません。合理的な理由なく方針を変更した場合、その処理が認められない可能性があります。
よくある質問(FAQ)
- TTMとTTB、どちらを使うほうが会社にとって有利ですか?
-
収益・資産にTTB、費用・負債にTTSを使うと、その期の課税所得は小さくなる方向に働きます。ただし売掛金の決済時に為替差益として認識されるため、多くの場合はトータルの税額が減るのではなく認識時期がずれる(課税の繰延べ)効果です。取引パターンによって結論が変わるため、採用前に顧問税理士へご相談ください。
- 為替レートは自社のメインバンクのものでなければいけませんか?
-
法人税基本通達13の2-1-2の(注)1は、原則として主たる取引金融機関のものによるとしつつ、同一の方法により入手した合理的なものを継続して使用している場合はこれを認めるとしています。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが公開するMUFG Bankの対顧客相場は、日次データを継続的に同じ方法で入手できるため、実務でよく利用されています。
- 取引日が土曜日でレートがありません。どうすればよいですか?
-
法人税基本通達13の2-1-2の(注)3により、その日に為替相場がない場合は「同日前の最も近い日の為替相場」、すなわち直前の営業日のレートを使用します。翌営業日ではない点に注意してください。所得税基本通達57の3-2の(注)3も同じ内容です。
- 為替差損益に消費税はかかりますか?
-
かかりません。国税庁タックスアンサーNo.6325のとおり、為替差損益は資産の譲渡等の対価の額または課税仕入れに係る支払対価の額に当たらないため、消費税では不課税として扱われます。消費税の課税標準は取引日の電信売買相場の仲値で算定し、決済時のレート差による調整は行いません。
- 毎日レートを引くのが大変です。月ごとの平均レートで処理できますか?
-
法人税基本通達13の2-1-2の(注)2は、継続適用を条件として、前月または前週の平均相場のように1月以内の一定期間における平均値を使用できるとしています。前月末日・前週末日・当月初日・当週初日の相場を使うことも認められています。取引件数の多い会社では実務負担を大きく減らせます。
まとめ:決算前にこの順番で確認する
取引日の換算を「全部TTM」でいくのか、「収益・資産=TTB/費用・負債=TTS」でいくのかを決め、経理規程やシートの先頭に明記します。継続適用が前提です。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングのサイトから対象年のExcelをダウンロードし、決算資料と一緒に保管します。土日は直前営業日のレートを使います。
外貨建債権債務・外貨預金・外国通貨について、期末時換算法か発生時換算法かを確認します。届出の要否(国税庁C1-45)もあわせて検討します。
期末日のTTM(または継続適用による通貨ごとの資産TTB/負債TTS、あるいは1月以内の平均値)で換算し、差額を為替差損益に計上します。
為替差益・為替差損の勘定科目が「不課税」で設定されているかを、申告前に必ず確認します。
外貨建取引の換算は、「原則はTTM、ただし継続適用を条件に選択の余地がある」という構造さえ理解すれば、あとはレートの入手と運用の固定化の問題に落ちます。選べるからこそ、選んだ理由と方針を記録に残しておくこと——それが、数年後の税務調査で最も効く準備です。



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