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税効果会計の仕訳|一時差異の判定と回収可能性【2026年版】

決算のたびに「繰延税金資産」「法人税等調整額」という科目が出てきて、どう仕訳していいか分からず手が止まってしまう——そんな悩みを抱える経理担当者は少なくありません。会計上の利益と税務上の課税所得にズレがあるのに、そのズレをどう仕訳に落とし込めばいいのか、判断基準が分からないまま決算を締めてしまうと、翌期以降の数字にも影響が残ります。

特に迷いやすいのが、「その差異は一時差異なのか、それとも税効果会計の対象外の差異(いわゆる永久差異)なのか」という入口の判定と、「繰延税金資産を計上してよいのか」という出口の判定の2つです。この2つを混同すると、本来計上すべきでない資産を貸借対照表に載せてしまったり、逆に計上できるはずの資産を見送ってしまったりします。

この記事では、企業会計基準委員会が公表している適用指針と、中小企業の会計に関する指針(令和7年〈2025年〉9月19日修正版)の条文を確認しながら、①一時差異かどうかの判定 ②繰延税金資産・繰延税金負債の仕訳 ③中小企業が使う4つの例示区分による回収可能性の判定 ④毎期の見直しと取崩し ⑤貸借対照表・損益計算書での表示 を、設例つきで順番に整理します。

📌 この記事でわかること

対象読者:中小法人の経理担当者・税理士事務所の担当者|読了目安:約8分

結論:会計と税務の簿価差のうち「将来解消するもの」だけを一時差異として拾い、そのうち回収できると判断できる分だけを繰延税金資産として計上します。

  • 税効果会計の仕訳の基本(一時差異と永久差異の見分け方、将来減算一時差異・将来加算一時差異の判定)
  • 繰延税金資産・法人税等調整額を使った具体的な仕訳例(設例つき)
  • 中小企業の会計に関する指針が定める4つの例示区分による、繰延税金資産の回収可能性の判定方法
  • 前期に計上した繰延税金資産の毎期の見直し・取崩しのルールと、貸借対照表・損益計算書での表示方法
目次
ぜいむたん
あの…税効果会計って言葉は聞いたことがあるんですけど、結局何をすればいいのか分からなくて…教えていただけますか?
イザーク
ええで!税効果会計は「会計上の利益」と「税務上の課税所得」のズレを、決算書の上でうまく対応させるための仕訳やねん。順番に見ていこか!

税効果会計とは(法人税等を期間配分して税引前当期純利益と対応させる手続)

税効果会計は、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税等の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益(税引前当期純利益)と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続です(企業会計基準適用指針第28号第6項)。

中小企業の会計に関する指針でも、ほぼ同じ趣旨が示されています。「一時差異(会計上の簿価と税務上の簿価との差額)がある場合、利益を課税標準とする法人税等の額を適切に期間配分することにより、税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする手続である」とされています(中小企業の会計に関する指針第62項(1))。つまり、会計上の利益と実際に納める税金の額にズレがあっても、そのズレのうち将来解消するものについては、決算書の上で税金費用を「あるべき金額」に調整するのが税効果会計の役割です。

使う勘定科目は2つだけ(繰延税金資産・繰延税金負債/法人税等調整額)

税効果会計で新しく登場する勘定科目は、実質的に次の2種類だけです。貸借対照表側が「繰延税金資産」「繰延税金負債」、損益計算書側が「法人税等調整額」です。

税効果会計で使う勘定科目
  • 繰延税金資産・繰延税金負債:貸借対照表の科目。一時差異等に係る税金の額を計上する
  • 法人税等調整額:損益計算書の科目。繰延税金資産・負債の期首と期末の差額の増減額を計上する相手勘定

繰延税金資産又は繰延税金負債は、一時差異等に係る税金の額から、将来の会計期間において回収又は支払が見込まれない税金の額を控除して計上しなければなりません(適用指針第28号第7項)。そして、期首と期末の繰延税金資産・負債の差額の増減額は、原則として法人税等調整額を相手勘定として計上します(同第9項)。なお、その他有価証券評価差額金のように評価差額を直接純資産の部に計上する場合には、相手勘定は法人税等調整額ではなく純資産の部の科目になります。

ぜいむたん
あの…繰延税金資産って、普通の資産科目と同じように考えていいんですか?
イザーク
そこがポイントやで。繰延税金資産は「将来ちゃんと回収できる分だけ」計上せなあかんねん。この回収可能性の話は後でじっくりやろな。

計上時の仕訳(設例・法定実効税率は設例として30%を使う)

ここでは設例として法定実効税率を30%とし、金額もすべて設例の数字とします(実際の税率の算式は後述します)。

設例A:将来減算一時差異(賞与引当金)500,000円が生じた場合
繰延税金資産 = 500,000円 × 30% = 150,000円

借方金額貸方金額
繰延税金資産150,000円法人税等調整額150,000円

設例B:将来加算一時差異200,000円が生じた場合
繰延税金負債 = 200,000円 × 30% = 60,000円

借方金額貸方金額
法人税等調整額60,000円繰延税金負債60,000円
STEP
その差異が一時差異かどうかを判定する

会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額に差があるかを確認します。差があれば一時差異です。簿価差がなくても、税務上の繰越欠損金があれば一時差異と同様に扱うため対象に含めます。どちらにも当たらなければ税効果会計の対象外(永久差異)です。

STEP
将来減算か将来加算かを判定する

その差異が解消するときに、課税所得を減らす方向か、増やす方向かを判定します。

STEP
回収可能性を確認して金額を計上する

繰延税金資産については回収可能性を確認したうえで、法定実効税率を乗じた金額を、法人税等調整額を相手勘定として計上します。

注意事項

仕訳を作るときは、借方合計と貸方合計が必ず一致しているかを確認してください。また、上記の30%はあくまで設例の数値です。自社に適用される法定実効税率は、後述する算式で計算する必要があります。

【判定フロー】その差異は将来減算か、将来加算か、そもそも一時差異でないか

一時差異の定義(会計上の簿価と税務上の簿価の差額)

「一時差異」とは、連結貸借対照表及び個別貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と、課税所得計算上の資産及び負債の金額との差額をいいます(適用指針第28号第4項(3))。会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額に差があれば一時差異です。なお、税務上の繰越欠損金は簿価差を生じませんが、一時差異と同様に取り扱われるため(中小企業の会計に関する指針第62項(2))、判定にあたっては簿価差と繰越欠損金の両方を見ます。

ここで間違えやすいのが、交際費の損金不算入額のような「永久差異」です。会計上は費用として計上しても、税務上は将来にわたって永久に損金算入されない差異は、この一時差異の定義に当てはまらないため、税効果会計の対象にはなりません。

解消時に課税所得を減らすか増やすかで向きが決まる

一時差異と判定できたら、次にその差異が解消するときに課税所得を減額する効果を持つか、増額する効果を持つかを判定します。将来減算一時差異とは、財務諸表上の一時差異のうち、当該一時差異が解消する時にその期の課税所得を減額する効果を持つものをいい、将来加算一時差異とは、解消する時にその期の課税所得を増額する効果を持つものをいいます(適用指針第28号第4項(4)①②)。

STEP 1 会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額に差があるか

差がなく、繰越欠損金もない(例:交際費の損金不算入額)

→ 一時差異に該当しない(永久差異、税効果会計の対象外)

差はないが、税務上の繰越欠損金がある

→ 一時差異そのものではないが、一時差異と同様に取り扱う(中小企業の会計に関する指針第62項(2))。STEP2の将来減算/将来加算の判定には進まず、将来の課税所得と相殺できる見込みの範囲で繰延税金資産の対象とする

差がある

→ 一時差異に該当する。STEP2へ

▼
STEP 2 解消時に課税所得を減らす方向か、増やす方向か

減らす方向(例:賞与引当金・未払事業税・損金不算入の減損損失)

→ 将来減算一時差異(繰延税金資産)

増やす方向(例:圧縮記帳・その他有価証券評価差額金の評価差益)

→ 将来加算一時差異(繰延税金負債)

ぜいむたん
あの…交際費の否認額も繰延税金資産の対象になるんですか?
イザーク
ならへんで。あれは将来も解消せえへん永久差異やから、そもそも一時差異とちゃうねん。ここを混同するとえらい目に遭うで。

ケース別 一時差異の早見表

中小企業の会計に関する指針第62項(2)は、将来減算一時差異の例として「未払事業税、賞与引当金、損金不算入の減損損失等」を、将来加算一時差異の例として「その他利益剰余金において処理される圧縮記帳や純資産の部に直接計上されるその他有価証券評価差額金(評価差益)等」を挙げています。また、将来の課税所得と相殺可能な繰越欠損金についても、一時差異と同様に取り扱うとされています。

代表的な一時差異のケース別分類

賞与引当金(将来減算)

会計上は見積りで費用計上するが、税務上は賞与引当金の繰入額は損金算入されず、実際に支給した事業年度で損金になる。

未払事業税(将来減算)

会計上は当期の費用として計上するが、税務上は翌期に申告書を提出した事業年度で損金算入される(法人税基本通達9-5-1)。

損金不算入の減損損失(将来減算)

会計上は減損損失として費用計上するが、税務上は資産の帳簿価額が減額されない。固定資産の簿価差異の代表例。

圧縮記帳(将来加算)

その他利益剰余金において処理される圧縮記帳は、将来加算一時差異の例として挙げられている。

その他有価証券評価差額金・評価差益(将来加算)

純資産の部に直接計上される評価差益は、将来加算一時差異の例として挙げられている。

繰越欠損金(一時差異と同様に取扱う)

将来の課税所得と相殺可能な繰越欠損金は、一時差異と同様に取り扱われる。繰越控除の計算方法は関連記事を参照。

賞与引当金と混同しやすいのが、決算賞与(未払賞与)です。支給額の通知などの3要件を満たした未払賞与は当期の損金になるため一時差異は生じませんが、見積りで計上する賞与引当金は損金不算入のため将来減算一時差異になります。決算賞与を当期の損金にする3要件と通知書のひな形は、決算賞与は損金になる?未払計上3要件の判定ツールと通知書ひな形【2026年版】で解説しています。除却・一括償却資産の仕訳は固定資産の除却の仕訳|有姿除却と一括償却資産の注意点【2026年版】を、繰越欠損金の控除限度額の計算は別表七(一)の書き方と記入例|繰越欠損金の控除限度額の計算【2026年版】をあわせてご確認ください。繰越控除そのものの制度概要は、国税庁のタックスアンサーNo.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除で確認できます。

ぜいむたん
あの…期をまたぐ費用や収益の整理って、経過勘定と似てる気がするんですけど…
イザーク
ええ着眼点やで!どっちも「期間対応」の考え方が根っこにあるねん。経過勘定の処理は【2026年版】経過勘定の仕訳完全ガイド|前払費用・未払費用・前受収益・未収収益の処理と決算整理で確認しといてな。

法定実効税率の算式(分子と分母に何を置くか)

繰延税金資産・負債の金額は、一時差異の金額に法定実効税率を乗じて計算します。ここで注意が必要なのが、算式が置かれている場所が変わったという点です。2026年7月7日に公表された改正後の適用指針第28号第4項(11)は、法定実効税率を「課税対象利益に対する法令上規定された税率に基づく税負担の比率をいう」と定義するだけで、具体的な算式を含んでいません。同項に置かれていた「具体的な税金の名称を使用した算式」が削除されたためです(同適用指針 第74-3項)。ただし、この改正は原則として2028年4月1日以後に開始する事業年度の期首から適用され、公表日以後に開始する事業年度から早期適用もできる、という扱いです。早期適用しない会社にとっては、当面は算式を含む2025年改正版が適用される版です。

もう一つ見落とせないのが防衛特別法人税です。2026年4月1日以後に開始する事業年度からは、法定実効税率を「地方法人税率と同様に防衛特別法人税率を考慮して算定する」とされました(企業会計基準委員会「実務対応報告第48号 防衛特別法人税の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」(2026年2月27日) 第9項・第18項)。改正後の算式を示した企業会計基準委員会 補足文書「我が国における課税対象利益を基礎とする税金及び税効果会計における税率に関する取扱いについて」(2026年7月7日)の第9項も、分子に防衛特別法人税率を含めています。グループ通算制度を適用しない場合の算式は次のとおりです。分子・分母の両方に特別法人事業税率の項が入る点にも注意してください。条文の現行版は企業会計基準委員会「企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針」で確認できます。

法定実効税率の算式(防衛特別法人税率を含む・補足文書 第9項)

分子:法人税率 ×(1 + 地方法人税率 + 防衛特別法人税率 + 住民税率)+ 事業税率 + 事業税率(標準税率)× 特別法人事業税率
分母:1 + 事業税率 + 事業税率(標準税率)× 特別法人事業税率

※防衛特別法人税の計算では法人税額から基礎控除額500万円を差し引きますが、この算式ではその控除を考慮しません(補足文書 第9項(注))。2026年3月31日以前に開始した事業年度の決算でも、2026年4月1日以後に開始する事業年度に解消が見込まれる一時差異等については、防衛特別法人税率を含めた上記の算式で計算します(企業会計基準委員会 補足文書(2025年2月20日) 第11項・第13項)。繰延税金資産・負債に使う税率は、決算日時点で成立している税法の、差異が解消する年度の税率だからです。

注意事項

法人税率・地方法人税率・防衛特別法人税率・住民税率・事業税率・特別法人事業税率は、事業年度や資本金の規模等によって異なります。具体的な税率をこの記事で断定することはできませんので、必ず自社に適用される税率を上記の算式に当てはめて計算してください。本記事の設例では、計算のイメージをつかみやすいように、便宜的に30%という数値を使っています。

ぜいむたん
あの…法定実効税率って、法人税の申告書に書いてある税率をそのまま使えばいいんですか?
イザーク
そう単純ちゃうねん。法人税率だけやなくて、地方法人税率・防衛特別法人税率・住民税率・事業税率・特別法人事業税率を全部合わせて計算する算式になってるから、上の式にちゃんと当てはめなあかんで。

その繰延税金資産、計上してよいか——中小企業は4つの例示区分で判定する

繰延税金資産は、一時差異等に係る税金の額から、将来の会計期間において回収が見込まれない税金の額を控除して計上しなければなりません(適用指針第28号第7項)。つまり、将来減算一時差異があるからといって、機械的に繰延税金資産を計上してよいわけではなく、「回収可能性」を判定する必要があります。中小企業の会計に関する指針は、この回収可能性について「収益力に基づく課税所得が十分見込めること及びタックス・プランニングを行うことが前提となる」としたうえで、「その回収可能性を厳格かつ慎重に検討することが必要である」としています(第63項(1))。

中小企業の会計に関する指針 第64項の例示区分(1)〜(4)

中小企業の会計に関する指針第64項は、回収可能性についての判断基準を4つの例示区分として示しています。

中小企業の会計に関する指針 第64項の例示区分

例示区分(1)

期末の将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を当期及び過去3年以上計上している場合は、回収可能性があると判断する。

例示区分(2)

過去の業績が安定しており将来も安定的な経常利益が見込まれるが、期末の一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない場合は、将来減算一時差異の合計額が過去3年間の課税所得の合計額の範囲内であれば回収可能性があると判断する。

例示区分(3)

業績が不安定、又は税務上の繰越欠損金が存在する場合でも、将来の合理的な見積可能期間(最長5年)内の課税所得の見積額を限度に、取締役会等による合理的な計画(スケジューリング)に基づくものであれば回収可能性があると判断する。スケジューリングができない場合・行っていない場合は回収可能性はないと判断する。

例示区分(4)

過去3年以上連続して重要な税務上の欠損金を計上し当期も欠損金の計上が見込まれる場合、又は債務超過・資本の欠損の状況が長期化し短期間での解消が見込まれない場合は、回収可能性はないと判断する。

例示区分(3)で繰越欠損金が存在する場合の判定にあたっては、繰戻し還付と繰越控除のどちらが有利かという論点も関わってきます。欠損金の繰戻し還付と繰越控除はどっちが得?計算式・判定フローと地方税の扱い【2026年版】もあわせてご確認ください。

ぜいむたん
あの…うちの会社は業績が安定してるんですけど、一時差異が多くて、課税所得だけじゃ上回らない年もあるんです。この場合はどうなるんですか?
イザーク
それやったら例示区分(2)のパターンやな。過去3年間の課税所得の合計額の範囲内に一時差異の合計額が収まっとったら、回収可能性ありと判断できるで。

会計監査を受ける会社が使う(分類1)〜(分類5)との違い

上記の例示区分(1)〜(4)は、中小企業の会計に関する指針を適用する会社が使う判断基準です。これに対して、企業会計基準を適用する会社(会計監査を受ける会社など)は、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」が定める(分類1)〜(分類5)という別の体系を使います。両者は別の基準に基づく別々の区分であり、混同しないように注意してください。

適用指針第26号の(分類1)〜(分類5)(会計監査を受ける会社向け)
  • (分類1):過去(3年)及び当期のすべての事業年度で、期末の将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じ、経営環境の著しい変化も見込まれない会社。原則として繰延税金資産の全額に回収可能性があるとされる(第17項・第18項)
  • (分類2):臨時的な原因を除いた課税所得が将来減算一時差異を下回るものの安定的に生じ、経営環境の著しい変化が見込まれず、過去3年及び当期に重要な税務上の欠損金がない会社。原則としてスケジューリング不能な将来減算一時差異には回収可能性がないとされる(第19項・第21項)
  • (分類3):臨時的な原因を除いた課税所得が大きく増減している会社等。将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の見積額に基づいて判断する(第22項・第23項)
  • (分類4):過去3年又は当期に重要な税務上の欠損金が生じている会社等で、翌期に一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる場合。翌期の見積額に基づいて判断する(第26項・第27項)
  • (分類5):過去(3年)及び当期のすべての事業年度で重要な税務上の欠損金が生じ、翌期も重要な税務上の欠損金が見込まれる会社。原則として回収可能性はないとされる(第30項・第31項)

相殺しきれない将来加算一時差異は回収可能性の判断に使えない

将来の解消見込年度に相殺しきれなかった将来加算一時差異については、繰延税金資産の回収可能性の判断に当たり、将来減算一時差異と相殺できません(中小企業の会計に関する指針第63項(4))。将来加算一時差異があるからといって、それをそのまま将来減算一時差異の回収財源として見積もることはできない、という点に注意が必要です。

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中小企業は税効果会計を適用しなければならないのか(重要性が乏しい場合の取扱い)

すべての一時差異について、必ず繰延税金資産・負債を計上しなければならないわけではありません。中小企業の会計に関する指針は「一時差異に重要性が乏しい場合には繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないことができる」としています(第62項(5))。金額的な影響が小さい一時差異まで無理に仕訳を起こす必要はない、ということです。

ただし、これは「重要性が乏しい場合」に限った取扱いです。中小企業の会計に関する指針に拠る会社では、賞与引当金や繰越欠損金などの一時差異の金額が大きい場合には、税効果会計を適用して繰延税金資産・負債を計上することが求められます。なお、もう一つの枠組みである「中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)」には税効果会計の定めがありません(要領で示していない処理は、中小会計指針等から選んで適用できます=要領 総論5)。

ぜいむたん
あの…うちは一時差異の金額がそんなに大きくないんですけど、それでも仕訳しないとダメですか?
イザーク
重要性が乏しい場合は計上せんでもええって指針に書いてあるで。せやけど「乏しい」かどうかは金額次第やから、自己判断だけで済まさず税理士にも確認しとくのが安全やな。

毎期の見直しと取崩し(前期に計上した繰延税金資産をどうするか)

繰延税金資産は、一度計上したら終わりではありません。中小企業の会計に関する指針は「過年度に計上した繰延税金資産についても、その回収可能性を毎期見直し、将来の税金負担額を軽減する効果を有していると見込まれなくなった場合には、過大となった金額を取り崩す必要がある」としています(第63項(3))。業績が悪化して例示区分(1)〜(4)の判定結果が変わったときは、前期の繰延税金資産をそのままにせず、取崩しを検討しなければなりません。

設例C:見直しによる取崩し
前期末に計上していた繰延税金資産の残高300,000円のうち、当期末の判定で回収可能性がなくなったと判断した120,000円を取り崩す場合。

借方金額貸方金額
法人税等調整額120,000円繰延税金資産120,000円
STEP
前期末の繰延税金資産の残高を確認する

科目ごとに、前期末時点で計上していた繰延税金資産・負債の残高を確認します。

STEP
当期末時点の例示区分(1)〜(4)に照らして再判定する

当期の業績や課税所得の状況を踏まえて、どの例示区分に該当するかを改めて判定します。

STEP
見込めなくなった部分を取り崩す

回収可能性がなくなったと判断した金額について、法人税等調整額を相手勘定として取り崩す仕訳を計上します。

ぜいむたん
あの…前期はよかったのに、当期は業績が悪化しちゃって…前期計上した分はどうすればいいんですか?
イザーク
放っておいたらあかんで。毎期見直して、回収できひんと分かった分は取り崩すのがルールやねん。ここは「必要がある」とはっきり書かれとる大事なとこや。

貸借対照表・損益計算書の表示と注記

繰延税金資産は投資その他の資産の区分に、繰延税金負債は固定負債の区分に表示します。なお、繰延税金資産と繰延税金負債は、双方を相殺して表示します(第65項)。また、繰延税金資産と繰延税金負債との差額の増減額は、法人税等調整額として、法人税、住民税及び事業税の次に表示します(第66項)。

注記については、税効果会計を適用し、一時差異の金額が重要な場合、又は税引前当期純利益に対する法人税等(法人税等調整額を含む)の比率と法定実効税率との間に重要な差異がある場合には、発生原因別の主な内訳、比率差異の原因となった主要な項目別の内訳、回収可能性がなく繰延税金資産から控除された額について注記を行うことが「望ましい」とされています(第67項)。会計監査人を設置していない非公開会社であれば、会社計算規則上もこの注記は省略できます(第98条第2項第1号)。公開会社や会計監査人設置会社は、会社計算規則第107条による税効果会計の注記が必要です。

表示のルール整理
  • 繰延税金資産:貸借対照表の「投資その他の資産」区分に表示
  • 繰延税金負債:貸借対照表の「固定負債」区分に表示
  • 繰延税金資産と繰延税金負債は相殺して表示する
  • 法人税等調整額:損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」の次に表示

これらの表示・注記のルールの原文は、「中小企業の会計に関する指針」(第65項〜第67項)で確認できます。指針の本文は日本税理士会連合会「中小会計指針・中小会計要領」のページから入手できます。また、計算書類の注記として何を記載するかは会社法の下位規則である会社計算規則に定めがあり、条文はe-Gov法令検索「会社計算規則」(平成18年法務省令第13号)で確認できます。

ぜいむたん
あの…注記は絶対に書かないといけないものなんですか?
イザーク
会計監査人を置いてへん非公開会社なら、指針でも「望ましい」止まりで省略できるで。公開会社や会計監査人設置会社は注記が必要やから、そこは区別しときや。

よくある失敗・ミス

  • 永久差異を将来減算一時差異と誤認して繰延税金資産を計上してしまう
    交際費の損金不算入額のように将来にわたって解消しない差異は一時差異ではなく、税効果会計の対象になりません。誤って計上すると、繰延税金資産が過大に表示された決算書になってしまいます。
  • 前期に計上した繰延税金資産を、業績悪化後も見直さずそのまま据え置く
    回収可能性は毎期見直す必要があり(中小企業の会計に関する指針第63項(3))、見込めなくなった部分は取り崩さなければなりません。放置すると、繰延税金資産が過大表示のまま決算が確定してしまいます。
  • 相殺しきれない将来加算一時差異を、将来減算一時差異の回収可能性の判断材料に使ってしまう
    解消年度に相殺しきれなかった将来加算一時差異は、将来減算一時差異と相殺できません(中小企業の会計に関する指針第63項(4))。この点を見落とすと、回収可能性を過大に見積もってしまいます。
  • 繰越欠損金があるのに、スケジューリング(取締役会等の合理的な計画)を作らないまま回収可能性ありと判断してしまう
    例示区分(3)はスケジューリングに基づくことが前提であり、スケジューリングができない場合・行っていない場合は回収可能性なしと判断されます。
ぜいむたん
あの…この中で一番やってしまいがちなミスってどれですか?
イザーク
①の永久差異との混同と②の見直し漏れが特に多いで。どっちも「一時差異かどうか」「毎期見直すこと」を忘れんかったら防げるミスやから、決算のたびにチェックする癖をつけときや。

決算前チェックリスト

  • 会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額に差がある項目を洗い出したか(賞与引当金・未払事業税・減損損失・圧縮記帳・その他有価証券評価差額金等)。簿価差はないが一時差異と同様に扱う税務上の繰越欠損金も、あわせて拾い上げたか
  • 洗い出した差異のうち、将来解消しない永久差異(交際費の損金不算入額等)を一時差異と混同していないか
  • 一時差異について、将来減算か将来加算かを判定したか
  • 法定実効税率を、自社に適用される最新の税率で計算したか
  • 繰延税金資産について、中小企業の会計に関する指針第64項の例示区分(1)〜(4)に照らして回収可能性を判定したか
  • 繰越欠損金がある場合、繰戻し還付・繰越控除の扱いをあわせて確認したか
  • 前期計上分の繰延税金資産について、当期の状況で回収可能性を見直したか
  • 相殺しきれない将来加算一時差異を、回収可能性の判断材料に使っていないか
  • 繰延税金資産・負債を貸借対照表で相殺表示したか
  • 法人税等調整額を、損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」の次に表示したか
ぜいむたん
あの…このチェックリスト、決算のたびに毎回確認したほうがいいですか?
イザーク
せなあかんで!特に業績が変わった年は、前期と同じ判定のまま済ませたらあかんから、毎期このリストで確認する習慣をつけてな。

よくある質問(FAQ)

中小企業は税効果会計の仕訳を必ず作らなければならないのですか?

一時差異に重要性が乏しい場合には、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しないことができます(中小企業の会計に関する指針第62項(5))。ただし、中小企業の会計に関する指針に拠る会社では、賞与引当金や繰越欠損金などの一時差異の金額が大きい場合には税効果会計の適用が求められます。中小会計要領には税効果会計の定めがありません(要領で示していない処理は、中小会計指針等から選んで適用できます=要領 総論5)。

繰延税金資産を計上できるかどうかは、どうやって判定すればよいですか?

中小企業の会計に関する指針第64項の例示区分(1)〜(4)に照らして、過去の課税所得の実績や繰越欠損金の有無から回収可能性を判断します。過去3年以上にわたり将来減算一時差異を十分に上回る課税所得があれば区分(1)、業績が安定していても課税所得が一時差異を下回るなら区分(2)、業績が不安定・繰越欠損金がある場合はスケジューリングに基づく区分(3)、重要な税務上の欠損金が続いている場合は区分(4)に該当し回収可能性はないと判断されます。

前期に計上した繰延税金資産は、そのままにしておいてよいですか?

いいえ。中小企業の会計に関する指針第63項(3)により、回収可能性は毎期見直す必要があり、将来の税金負担額を軽減する効果が見込めなくなった部分は取り崩さなければなりません。業績が悪化した期には、前期の判定をそのまま引き継がず、当期末時点で例示区分(1)〜(4)に照らして再判定してください。

法定実効税率は何%を使えばよいですか?

2026年4月1日以後に開始する事業年度に解消が見込まれる一時差異等には、防衛特別法人税率を含めた算式(分子:法人税率×(1+地方法人税率+防衛特別法人税率+住民税率)+事業税率+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率、分母:1+事業税率+事業税率(標準税率)×特別法人事業税率)に、自社に適用される税率を当てはめて計算します(実務対応報告第48号 第9項、企業会計基準委員会 補足文書〈2026年7月7日〉第9項)。なお、2026年7月公表の改正適用指針第28号では第4項(11)から算式が削除されましたが、この改正の適用は原則として2028年4月1日以後に開始する事業年度からです。分子・分母の両方に特別法人事業税率の項が入ります。具体的な税率は事業年度や資本金の規模等によって異なるため、この記事で断定することはできません。自社の顧問税理士等に確認のうえ計算してください。

永久差異も税効果会計の対象になりますか?

いいえ。交際費の損金不算入額のように、将来にわたって解消せず課税所得に影響しない差異(いわゆる永久差異)は、一時差異の定義に当てはまらないため、税効果会計の対象外です。ただし「簿価差がなければすべて対象外」ではありません。税務上の繰越欠損金は簿価差を生じませんが、一時差異と同様に取り扱われます(中小企業の会計に関する指針第62項(2))。

税効果会計の仕訳まとめ:一時差異の判定から回収可能性の確認まで

ぜいむたん
あの…今日教えてもらったこと、決算のときにどの順番でやればいいか整理してもらえますか?
イザーク
ええで、最後にまとめとこか!この順番で確認していけば迷わへんはずやで。
STEP
差異が「一時差異」かどうかを判定する

会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額に差があるか、または税務上の繰越欠損金があるかを確認します。交際費の損金不算入額のような永久差異は対象外です。繰越欠損金は一時差異と同様に扱い、次のSTEP2は経ずにSTEP3の回収可能性の判定へ進みます。

STEP
将来減算一時差異か将来加算一時差異かを判定する

簿価差がある場合は、解消時に課税所得を減らす方向か、増やす方向かを判定します。

STEP
繰延税金資産の回収可能性を判定する

中小企業の会計に関する指針第64項の例示区分(1)〜(4)に照らして、繰延税金資産を計上してよいかを判定します。

STEP
法定実効税率を乗じて仕訳を計上する

自社に適用される法定実効税率を一時差異の金額に乗じ、法人税等調整額を相手勘定として仕訳を計上します。

STEP
前期計上分を毎期見直す

回収可能性がなくなった部分は取り崩す必要があります。決算のたびにチェックリストで確認しましょう。

イザーク
今日の授業は終わり!また来てや!!

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繰延税金資産を計上してよいかどうかは、過去3年の課税所得の推移や今後の見通しをどう評価するかで結論が変わります。自社だけで判断しきれないときは、決算・法人税を扱う税理士に見てもらうのが確実です。

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この記事を書いた人

イザーク|公認会計士試験合格者

会計基準・実務指針・税法の原文にあたり、中小企業の経理実務で実際に判断が必要になる場面に落とし込んで解説しています。詳しい経歴はプロフィール・公認会計士試験受験記をご覧ください。

監修:イザークコンサルティング株式会社
本記事は執筆時点の情報提供を目的としたものです。個別の取扱いは税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。
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