2026年1月1日より、退職所得控除の重複制限が「5年ルール」から「10年ルール」に延長されました。iDeCoや企業型DC(確定拠出年金)の一時金と会社の退職金を両方受け取る予定がある会社員は、受取順序・タイミングを今すぐ見直さないと数十万円の手取りが減少する可能性があります。本記事では年収別のシミュレーションと最適な出口戦略を税理士監修で解説します。
退職所得控除「10年ルール」とは?5年ルールとの違い
退職所得控除の「重複制限」とは、複数の退職一時金を短期間に受け取った場合に、退職所得控除を二重に使えなくする制度です。
改正前(5年ルール):前年以前4年以内が対象
2025年12月31日以前に受け取ったDC一時金については、「前年以前4年以内(=5年未満)」に別の退職一時金がある場合に控除額が制限されていました。
つまり、5年以上間隔を空ければ、iDeCoの一時金と会社の退職金の双方で退職所得控除をフル活用できていました。
| 比較項目 | 改正前(5年ルール)〜2025年12月31日 | 改正後(10年ルール)2026年1月1日〜 |
|---|---|---|
| 重複制限の対象期間 | 前年以前4年以内 | 前年以前9年以内 |
| 安全な受取間隔 | 5年以上でOK ✓ | 10年以上が必要 ✗ |
| 典型的な60歳iDeCo→65歳退職金 | 5年間隔でOK ✓ | 5年間隔はNG → 70歳以降でないと制限発生 ✗ |
改正後(10年ルール):前年以前9年以内が対象
2026年1月1日以降にDC一時金を受け取る場合、「前年以前9年以内(=10年未満)」に会社の退職金があるかどうかをチェックされます。重複期間がある場合は、その分だけ退職所得控除額が減額されます。
60歳でiDeCo一時金を受け取り、65歳で会社を定年退職するという一般的なパターンでも、間隔が5年しかないため10年ルールに引っかかります。
ぜいむたん


誰が影響を受けるのか?対象者チェックリスト
以下に1つでも当てはまる場合、10年ルールの影響を受ける可能性があります。
- iDeCoに加入しており、60〜65歳での一時金受取を予定している
- 企業型DC(確定拠出年金)に加入している会社員
- 転職経験があり、前職・現職の両方で退職金(または DC)を受け取る可能性がある
- DCの一時金受取と会社の退職金の受取が10年以内になる可能性がある
- 退職金の受取タイミングを「5年空ければOK」と思って計画していた
特に「60歳でiDeCo→65歳で会社退職金」というプランを持つ会社員は、改正により手取りが大幅に減少するリスクがあります。












年収別・勤続年数別シミュレーション(独自試算6パターン)
以下はEzarkの独自試算です。前提条件:DC一時金800万円(iDeCo)+会社退職金2,000万円(勤続30年/35年)で、受取間隔「5年(旧ルールOK・新ルールNG)」の場合の所得税+住民税の変化を試算しました。
前提条件
| 項目 | 設定値 |
|---|---|
| iDeCo一時金(DC給付) | 800万円(勤続20年) |
| 会社退職金 | 2,000万円 |
| 受取間隔 | 5年(60歳iDeCo→65歳退職金) |
| 退職所得控除(勤続30年) | 1,500万円 |
| 退職所得控除(勤続35年) | 1,750万円 |
【計算式】退職所得控除額(勤続年数別)
退職所得控除額は以下の算式で計算します(所得税法第30条):
- 勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(最低80万円)
- 勤続20年超:800万円 + 70万円 × (勤続年数-20年)
パターン①:勤続30年・会社退職金2,000万円
| シナリオ | 退職所得控除(退職金分) | 退職所得 | 所得税+住民税 |
|---|---|---|---|
| 改正前(5年OK)iDeCo控除800万・退職金控除1,500万 | 1,500万円フル | (2,000万-1,500万)×1/2 = 250万円 | 約57万円 |
| 改正後(5年NG)重複5年分を控除から減額 | 1,500万円-(40万×5年)=1,300万円 | (2,000万-1,300万)×1/2 = 350万円 | 約85万円 |
| 増税額 | 約28万円増 | ||
パターン②:勤続35年・会社退職金2,000万円
| シナリオ | 退職所得控除(退職金分) | 退職所得 | 所得税+住民税 |
|---|---|---|---|
| 改正前(5年OK) | 1,750万円フル | (2,000万-1,750万)×1/2 = 125万円 | 約25万円 |
| 改正後(5年NG)重複5年分を減額 | 1,750万円-(40万×5年)=1,550万円 | (2,000万-1,550万)×1/2 = 225万円 | 約48万円 |
| 増税額 | 約23万円増 | ||
パターン③:勤続30年・会社退職金3,000万円(高額退職金ケース)
| シナリオ | 退職所得控除 | 退職所得 | 所得税+住民税 |
|---|---|---|---|
| 改正前 | 1,500万円フル | (3,000万-1,500万)×1/2 = 750万円 | 約202万円 |
| 改正後(5年NG) | 1,300万円 | (3,000万-1,300万)×1/2 = 850万円 | 約240万円 |
| 増税額 | 約38万円増 | ||
免責事項:上記試算はEzark独自の概算値です。実際の税額は勤続年数・給与・その他所得・各種控除によって異なります。具体的な税額は税理士または管轄の税務署にご確認ください。






【最重要】iDeCoと退職金の最適受取戦略
10年ルールへの対応策は大きく3つあります。
戦略①:10年以上の間隔を確保する(最もシンプル)
55歳でiDeCo一時金を受け取り、65歳以降に会社退職金を受け取れば10年間隔を確保できます。55歳でiDeCoの受給開始が可能かどうか(加入期間や受給開始年齢の確認)が前提条件です。
ポイント:iDeCoは原則として60歳以降でないと受け取れません(加入期間10年以上で60歳受取可)。55歳受取には加入期間に制約があります。
戦略②:会社退職金を先に受け取り、iDeCoを後回しにする
「退職金先→iDeCo後」の順番は19年ルールの適用対象です(前年以前19年以内の退職一時金との重複制限)。一方、「iDeCo先→退職金後」は10年ルール(前年以前9年以内)です。
受取順序による適用ルール比較
iDeCo先 → 退職金後
適用ルール
10年ルール(前年以前9年以内)
安全な間隔
10年以上 ✓
退職金先 → iDeCo後
適用ルール
19年ルール(前年以前19年以内)
安全な間隔
20年以上 ⚠️
間隔が確保できない場合は、①iDeCo先受取→退職金後受取の順番が有利です(必要な間隔が短いため)。
戦略③:iDeCoを一時金でなく年金形式で受け取る
iDeCoの受取方法を「一時金」ではなく「年金(分割受取)」にすると、退職所得ではなく雑所得として課税されます。退職所得控除の重複制限(10年ルール)は適用されないため、会社退職金との受取タイミングを気にする必要がなくなります。
ただし年金形式の場合、公的年金等控除の枠内に収まれば非課税となりますが、枠を超えると退職所得控除より不利になるケースもあります。シミュレーションで比較することが重要です。






企業型DC加入者の注意点:19年ルールとの関係
企業型DCとiDeCoの両方に加入している場合、以下のルールが適用されます。
- 企業型DCの一時金を先に受け取り、その後でiDeCoの一時金を受け取る場合:19年ルール(前年以前19年以内)が適用
- iDeCoの一時金を先に受け取り、その後で退職金または企業型DC一時金を受け取る場合:10年ルール(前年以前9年以内)が適用(2026年以降)
企業型DCを先に受け取る選択肢は、退職時(退職と同時に受け取るケースが多い)になるため、実質的には「退職金と企業型DC一時金を同時受取→その後10〜20年空けてiDeCo一時金」という順番になりがちです。
企業型DC加入者の出口設計フロー
| 退職予定年齢 | iDeCoの推奨受取年齢 | 適用ルール | 間隔 |
|---|---|---|---|
| 60歳退職 | 71歳以降 | 10年ルール(iDeCoが後) | 11年以上 ✓ |
| 65歳退職 | 76歳以降 | 10年ルール | 11年以上 ✓ |
| 60歳退職・すでにiDeCo受取済(55歳) | —(対応不要) | 10年ルール(iDeCoが先) | 5年×→10年以上必要 ✗ |






転職者・再就職者の注意点
転職時に前の会社から退職金を受け取った場合も10年ルールが適用されます。
例えば、45歳で前職退職金を受け取り、55歳で次の会社を退職する場合、間隔は10年ちょうど。「前年以前9年以内」なら重複制限が発生しますが、10年なら制限なしです(境界に注意)。
注意:「10年以上空ければOK」の境界に注意してください。「前年以前9年以内」の制限なので、ちょうど10年(9年と1日以上)空ける必要があります。9年11ヶ月では制限が発生します。






よくある質問(FAQ)
- 退職所得控除の10年ルールはいつから適用されますか?
-
2026年1月1日以降に受け取るDC一時金(iDeCo・企業型DC)から適用されます。2025年12月31日以前に受け取ったDC一時金については従来の5年ルール(前年以前4年以内)が適用されます。すでに2026年1月1日以降にiDeCoの一時金を受け取った方は、その日から10年以内に退職金を受け取ると控除が制限されますので注意が必要です。
- iDeCoを年金形式で受け取れば10年ルールを完全に回避できますか?
-
はい、iDeCoを年金(分割)形式で受け取ると退職所得ではなく雑所得として課税されるため、退職所得控除の重複制限(10年ルール)は適用されません。ただし年金形式の場合、公的年金等控除の範囲内に収まれば有利ですが、超過分は雑所得として累進税率が適用されます。一時金受取と年金受取どちらが有利かはシミュレーションで比較することをおすすめします。
- 10年ルールで退職所得控除が制限された場合、どのくらい税負担が増えますか?
-
重複期間1年あたり40万円(勤続20年超の場合は70万円)の控除が削られます。勤続30年・退職金2,000万円のケースで受取間隔が5年の場合、増税額は約28万円(所得税+住民税)となります。退職金3,000万円のケースでは同じ5年間隔で約38万円の増税となります。具体的な試算は本記事のシミュレーションセクションをご参照ください。
- 転職して複数回退職金を受け取る場合、どのルールが適用されますか?
-
転職時の退職金も10年ルールの対象です。前職で退職金を受け取った場合、その日から10年以内に現職の退職金やDC一時金を受け取ると控除が制限されます。なお「前年以前9年以内」が対象なので、ちょうど10年(9年と1日以上)空けていれば制限は発生しません。転職歴のある方は前職退職金の受取年月日を確認しておくことが重要です。
- 企業型DCとiDeCoを両方持っている場合の最適な受取順序は?
-
一般的には「iDeCoを先に受け取り、企業型DC(退職金)を後に受け取る」順番の方が必要な間隔(10年)が短くなるため有利です。逆順(企業型DC先→iDeCo後)の場合は19年ルールが適用され20年以上の間隔が必要になります。ただし企業型DCは退職時に受け取るケースが多く、現実的に順番を選べないこともあります。勤務先の人事部に制度を確認してから計画を立ててください。
- 10年ルールへの対応は自分でできますか?専門家に相談すべきですか?
-
受取タイミングの確認や基本的なシミュレーションは自分でも行えますが、複数の退職金・DC・iDeCoが絡む複雑なケースや高額退職金の場合は税理士への相談を強くおすすめします。特に年金形式と一時金形式の比較計算や、企業型DCとiDeCoの受取順序の最適化には専門知識が必要です。退職の数年前から相談しておくことで、最適な出口設計が可能になります。






まとめ:10年ルール対応のためのアクションプラン
iDeCoの受取予定年齢と会社退職金の予定年齢を確認し、間隔が10年以上かどうかをチェックします。企業型DCがある場合は受取順序も合わせて確認しましょう。
間隔が10年未満の場合は①受取年齢の変更②年金形式への切替③受取順序の見直しの3つの対応策から自分の状況に合った方法を選びます。
複数の退職給付が絡む場合や高額退職金のケースは専門家への相談が不可欠です。退職の数年前から税理士に相談することで、手取りを最大化する出口設計が可能になります。
「60歳iDeCo→65歳退職金」プランは5年間隔で10年ルールに抵触します。iDeCoの受取を遅らせる(例: 71歳以降)か、年金形式に切り替えることで重複制限を回避し、退職所得控除をフルに活用できます。
企業型DCを先に受け取る場合は19年ルール(20年以上の間隔が必要)が適用されます。転職歴がある場合は前職退職金の受取年月日と現職退職金の間隔を計算し、勤務先の人事部・税理士と連携して出口設計を完成させましょう。
2026年1月施行の退職所得控除「10年ルール」改正は、多くのサラリーマンの退職計画に直接影響します。今すぐ確認すべきことを整理します。
- iDeCoの受取予定年齢と会社退職金の予定年齢を確認し、間隔が10年以上かどうかをチェック
- 間隔が10年未満の場合は①受取年齢の変更②年金形式への切替③専門家への相談を検討
- 企業型DC加入者は「どちらを先に受け取るか」の順番が控除額に大きく影響するため、勤務先の人事・総務に確認
- 転職歴がある場合は前職退職金の受取年月日を確認し、現職退職との間隔を計算
- 不明点は税理士への相談が最も確実(退職の数年前からの相談がベスト)
退職所得控除の10年ルールは老後の手取りに直結する重要改正です。「5年空ければOK」という旧知識のまま計画を進めていると、手取りが数十万円単位で減少する可能性があります。今のうちに受取タイミングを見直し、最適な出口設計を立てましょう。
なお、2026年12月にはiDeCoの掛金上限も月62,000円に引き上げされます。掛金上限改正と10年ルール改正をセットで理解することが、iDeCo節税の最大化に不可欠です。
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