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📌 この記事でわかること(読了目安:約8分)
- 非上場会社が自己株式を相対取引で買い取ったときに「みなし配当」が生じる仕組み
- 取得対価・発行済株式総数・資本金等の額から、みなし配当額を自動で按分計算するツール
- みなし配当に対する源泉徴収20.42%の計算方法と納付期限
- 別表五(一)・別表四への記載例(利益積立金額と資本金等の額をどう分けて減らすか)
- 支払調書(配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書)の記入ポイント
役員や親族株主から自社株(自己株式)を買い取ろうとして、税理士から「それ、みなし配当になりますよ」と言われて戸惑った経験はないでしょうか。自己株式の取得は、単なる株の売買と違い、対価の一部が税務上「配当」として扱われ、会社側に源泉徴収義務が発生します。処理を誤ると、源泉徴収漏れによる不納付加算税や、別表の記載誤りによる申告是認リスクにつながります。
この記事では、みなし配当が生じる仕組みと計算式を整理したうえで、実際の数字を入力してみなし配当額・源泉徴収額を試算できるツールを内蔵しました。あわせて別表五(一)・別表四の記載例、支払調書の記入ポイントまで、非上場会社が自己株式を買い取る場面を想定して解説します。
ぜいむたん


1. 自己株式の取得で「みなし配当」が生じる仕組み
結論から言うと、非上場会社が株主との相対取引で自己株式を取得し、その取得対価が「資本金等の額のうち取得株式に対応する部分」を超える場合、その超えた部分は税務上「配当等の額とみなす金額(みなし配当)」として扱われます(法人税法24条1項5号)。
法人税法24条1項5号の条文が定める範囲
法人税法24条1項5号は、みなし配当が生じる事由として「自己の株式又は出資の取得」を掲げたうえで、「金融商品取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得」を明示的に除外しています。つまり、上場株式を証券取引所の市場で買い戻す場合はみなし配当の対象外で、非上場会社が特定の株主から相対取引で買い取る場合が主な適用場面になります。出典:e-Gov法令検索「法人税法」第24条
会計上は資本控除、税務上は2階建てで減る
会計上、自己株式の取得は取得対価の全額を純資産の控除項目(自己株式勘定のマイナス表示)として処理し、損益には影響させません。ところが税務上は、取得対価を「資本金等の額の減少部分」と「利益積立金額の減少部分(=みなし配当)」の2つに分けて処理する必要があり、この会計と税務のズレを申告書の別表四・別表五(一)で調整するのが実務上のポイントです。
みなし配当が生じない自己株式取得のケース
①証券取引所の市場での買い付け(市場取引による取得)、②取得対価が資本金等の額の対応部分以下(会社の帳簿価額を下回る安値での買い取り)、③合併・会社分割等に伴う抱合株式の消滅、の3ケースは、みなし配当が生じないか、生じても金額がゼロになります。本記事は②の判定を含む、非上場会社の相対取引を前提にしています。






2. みなし配当の計算式と按分計算ツール
みなし配当額は「取得対価の額-(1株当たりの資本金等の額×取得株式数)」で計算します。1株当たりの資本金等の額は「資本金等の額÷発行済株式総数(自己株式を除く)」で求め、対応する株式に対応する部分の金額の計算方法は法人税法施行令23条に定められています。出典:e-Gov法令検索「法人税法施行令」第23条
みなし配当の計算式
みなし配当額=取得対価の額-(資本金等の額÷発行済株式総数×取得株式数)
この式で算出した「資本金等の額に対応する部分」は、株主側では株式の譲渡対価とみなされ、譲渡所得(またはみなし譲渡)の計算に使われます。一方、それを超える部分(みなし配当)は配当所得として扱われ、法人側に源泉徴収義務が生じます。
🧮 自己株式の取得 みなし配当・按分計算ツール
※本ツールは、市場取引を伴わない非上場会社の相対取引による自己株式取得を前提とした概算計算です。源泉徴収税額は1円未満を切り捨てて計算しています。実際の申告・納付にあたっては顧問税理士にご確認ください。
初期値(発行済株式総数10,000株・資本金等の額5,000万円・取得株式数1,000株・取得対価1,500万円)で試算すると、1株当たりの資本金等の額は5,000円、資本金等の額に対応する部分は500万円、みなし配当額は1,000万円、源泉徴収税額は204万2,000円、株主への差引支払額は1,295万8,000円になります。
取得対価が資本金等の額の対応部分以下の場合はみなし配当ゼロ
取得対価が「資本金等の額に対応する部分」以下の場合(会社の帳簿価額を下回る安値での買い取り)、みなし配当額はマイナスにならず0円になります。この場合は源泉徴収も発生しませんが、株主側では譲渡損(みなし譲渡損)が生じる可能性があるため、株価算定の妥当性は別途検討が必要です。






3. 源泉徴収20.42%の計算と納付
非上場株式の配当等(みなし配当を含む)は、支払時に20.42%(所得税及び復興特別所得税、地方税なし)の税率で源泉徴収されます。この税率は、受け取る株主が個人か法人かにかかわらず同じ税率が適用されます。出典:国税庁タックスアンサー No.1330「配当金を受け取ったとき(配当所得)」
納付期限は源泉徴収した月の翌月10日まで
源泉徴収した所得税等は、原則として徴収した日の属する月の翌月10日までに、法定納期限内に納付書(配当等の所得税徴収高計算書)を用いて納付します。自己株式の買い取りは決算期末や事業承継のタイミングで単発的に発生することが多く、通常の給与源泉と異なり納付を失念しやすいため、買い取り実行日と同時に納付スケジュールを確定させておくことが実務上のポイントです。決議から納付・支払調書の提出までの一連の手順を、下記のステップで整理しておきます。
株主総会(または取締役会)で自己株式の取得を決議し、取得対価・取得株式数を確定する。
上記ツールでみなし配当額と源泉徴収額を試算し、株主への支払額(源泉徴収後の差引額)を確定する。
源泉徴収した所得税等を、徴収の日の属する月の翌月10日までに納付する。
支払調書を作成し、支払確定日から1か月以内(大口株主等)または翌年1月31日までに税務署へ提出する。
4. 別表五(一)の記載例|資本金等の額と利益積立金額をどう分けて減らすか
自己株式の取得は、会計上は自己株式勘定(純資産のマイナス)として処理する一方、税務上は「資本金等の額の減少」と「利益積立金額の減少(みなし配当相当額)」の2本立てで処理されます。この差を別表五(一)で調整します。別表五(一)の基本構造は国税庁の申告の手引きで解説されています。出典:国税庁「令和7年版 法人税申告書の記載の仕方」別表五(一)の解説
Ⅱ 資本金等の額の計算に関する明細書
先ほどのツールの試算例(資本金等の額に対応する部分=500万円)であれば、別表五(一)Ⅱの区分欄に「自己株式」と記載し、当期の減「△5,000,000」を記入します。差引翌期首現在資本金等の額は、この分だけ期首残高から減少します。
Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書
みなし配当額(試算例で1,000万円)は、区分欄に「自己株式」または「みなし配当」と記載し、利益積立金額の当期の減「△10,000,000」として記入します。これにより、会計上は資本の部の控除項目としてしか処理していない自己株式の取得が、税務上は利益積立金額の払い出しとして扱われていることが申告書上で明確になります。
別表四での加算・減算調整
会計上は自己株式の取得を損益に計上しないため、別表四では基本的に申告調整は生じませんが、みなし配当額を受け取った株主が関係会社の場合、受取配当等の益金不算入(法人税法23条)の対象になるかどうかを別途確認する必要があります。個人株主の場合は、みなし配当額がその株主の確定申告における配当所得として総合課税の対象になります。






5. 支払調書(法定調書)の記入例
みなし配当を支払った会社は、「配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書」を作成し、税務署に提出する義務があります。提出義務者は当該配当等の支払をした法人、様式名・提出期限は次のとおりです。出典:国税庁「配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書(同合計表)」
支払調書の主な記載項目
支払調書には、支払を受ける者の住所・氏名(法人の場合は所在地・名称)と個人番号または法人番号、株数、1株当たりの資本金等の額、みなし配当の金額(配当等の金額)、源泉徴収税額、支払確定年月日を記載します。試算例であれば「配当等の金額=10,000,000円」「源泉徴収税額=2,042,000円」を該当欄に転記します。
提出期限は原則として翌年1月31日
支払調書の提出期限は、原則としてその支払をした年の翌年1月31日までです。ただし、支払を受ける者が発行済株式の3%以上を保有する大口株主に該当する場合は、支払確定日(記名の場合)または支払った日(無記名の場合)から1か月以内に提出する必要がある点に注意してください。
税理士法人の実務で見る提出漏れの典型パターン
税理士法人での申告実務では、法人税の確定申告書は期限内に提出できていても、みなし配当が発生する自己株式の取得を単発の株主総会決議だけで完結させてしまい、決議から数か月後に支払調書の提出漏れが判明するケースを実際に何件か見てきました。源泉徴収の納付(翌月10日まで)と支払調書の提出(翌年1月31日まで)は期限もタイミングも別の手続きであることを、決議のタイミングで担当者間で共有しておくと防げます。
6. 個人株主・法人株主で扱いが変わる点
みなし配当そのものの計算方法や源泉徴収税率(20.42%)は、株主が個人か法人かで変わりません。変わるのは、源泉徴収された後の申告・課税の仕組みです。
個人株主:配当所得として総合課税、少額配当の申告不要制度に注意
個人株主が受け取るみなし配当は配当所得として扱われ、原則として総合課税の対象になります。一回に支払われる配当等の金額が「10万円×配当計算期間の月数÷12」以下であれば、確定申告不要制度を選択できますが、自己株式の取得は金額が大きくなりやすく、この基準を超えるケースが大半です。確定申告不要制度を選択すると、源泉徴収された税額はその年の所得税額から差し引けなくなる点にも注意が必要です。
法人株主:益金算入したうえで受取配当等の益金不算入制度を確認
法人株主が受け取るみなし配当は、いったん益金に算入したうえで、株式の保有割合に応じて受取配当等の益金不算入制度(法人税法23条)の対象になるかどうかを確認します。完全子法人株式等や関連法人株式等に該当する場合は不算入割合が高くなりますが、みなし配当の場合は通常の配当と異なる調整が必要になる場合があるため、保有割合と取得時期を精査したうえで判定してください。






7. 実務でつまずきやすい注意点
株価算定を誤ると税務調査で否認リスクがある
自己株式の取得対価(買い取り価格)が時価から著しく乖離していると、税務調査で価格の妥当性そのものを問われるリスクがあります。特に同族会社が非上場株式を役員・親族から買い取る場合、恣意的に低い価格を設定して株主側の税負担を圧縮しようとする事例が典型的に指摘されるため、株価算定の根拠資料は必ず保存しておいてください。
種類株式を発行している場合は按分計算が複雑になる
普通株式に加えて種類株式を発行している会社が自己株式を取得する場合、「1株当たりの資本金等の額」の計算が単純な発行済株式総数按分では済まず、種類ごとの権利内容を踏まえた按分が必要になることがあります。本ツールは普通株式のみの単純なケースを想定しているため、種類株式を発行している場合は顧問税理士に個別に相談してください。
よくある質問(FAQ)
- 自己株式を無償(0円)で取得した場合もみなし配当は発生しますか?
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取得対価が0円であれば、資本金等の額に対応する部分を上回ることはないため、みなし配当は発生しません。ただし無償での自己株式取得は実務上まれで、贈与税など別の論点が生じないか検討が必要です。
- 源泉徴収を忘れて対価の全額を株主に支払ってしまいました。どうすればいいですか?
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速やかに気づいた時点で納付書を作成し、不足分の源泉所得税を納付してください。納付が法定納期限を過ぎている場合は不納付加算税・延滞税の対象になります。株主から徴収し忘れた源泉税相当額を事後的に回収できるかは、株主との合意次第になるため、早めに顧問税理士に相談してください。
- 上場会社が市場で自己株式を買い付ける場合もみなし配当の計算は必要ですか?
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いいえ。法人税法24条1項5号は、金融商品取引所の開設する市場における購入による取得を明示的にみなし配当の対象から除外しています。上場会社の市場内買い付けは対象外で、本記事が想定する相対取引による自己株式取得とは扱いが異なります。
- みなし配当額がマイナスになる場合、株主に還付のようなものはありますか?
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みなし配当額はマイナスにはならず0円で下限が付きます。取得対価が資本金等の額に対応する部分を下回る場合、その差額は株主側で譲渡損(みなし譲渡損)として扱われる可能性があり、還付ではなく損失計上の可否として検討します。
まとめ
非上場会社が相対取引で自己株式を取得し、対価が資本金等の額の対応部分を超える場合、超えた部分は「みなし配当」として法人税法24条1項5号により配当扱いになる。
みなし配当額=取得対価-(資本金等の額÷発行済株式総数×取得株式数)。本記事のツールで自社の数字を入力し、みなし配当額と源泉徴収額(20.42%)を試算できる。
源泉徴収した所得税等は翌月10日までに納付し、支払調書は原則翌年1月31日まで(大口株主等は1か月以内)に提出する。
別表五(一)では、資本金等の額の減少部分と利益積立金額の減少部分(みなし配当相当額)を分けて記載し、会計処理とのズレを申告書上で調整する。



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