「ベースアップ評価料の入金があったけれど、会計処理はどうすればいいんだろう」「消費税の申告で、課税売上に入れるのか非課税なのか分からない」——医療機関の経理を担当していると、こうした疑問に突き当たることがあります。
ベースアップ評価料は令和6年度診療報酬改定で新設された比較的新しい報酬項目のため、制度の解説記事は多くても「会計・税務でどう扱うか」に絞った情報は意外と見つかりません。専用の勘定科目が要るのか、消費税の扱いを間違えると税務調査で指摘されないか、不安に感じている方も多いはずです。
この記事では、ベースアップ評価料の制度そのものの解説は最小限にとどめ、①会計処理と仕訳、②消費税の扱い、③実績報告に備えた区分管理という「会計・税務の実務」に焦点を絞って整理します。
この記事のポイント
対象読者:医療機関(クリニック・病院)の経理担当者・院長、医療特化でない税理士事務所スタッフ/読了の目安:約7分
- ベースアップ評価料の会計処理・仕訳は、通常の保険診療収入と同じでよい理由
- 消費税が「非課税売上」になる根拠と、課税売上割合への影響
- 法人税・所得税での益金・損金の扱い方
- 実績報告に備えて、収入額と賃金改善額を区分管理する方法
ぜいむたん


ベースアップ評価料とは(会計・税務の視点で最低限おさえること)
ベースアップ評価料は、令和6年度診療報酬改定で新設された報酬項目です。診療報酬(社会保険診療報酬)の一部として保険医療機関に支払われ、その収入を対象職員の賃金改善に充てることが算定の要件とされています。算定するには、あらかじめ賃金改善計画書を作成・届出し、実施後には賃金改善実績報告書を提出する必要があります。
制度の位置づけ——診療報酬の一部として支払われる
会計・税務処理を考えるうえでまず押さえておきたいのは、ベースアップ評価料が「別枠の補助金」ではなく、あくまで診療報酬(社会保険診療報酬)の一部として支払われるという点です。この位置づけが、後述する会計処理・消費税の扱いの結論に直結します。
対象職員・施設基準・令和8年度改定の詳細は厚労省・地方厚生局で確認
対象となる職員の範囲や施設基準、届出・再届出の要否は、令和6年度の新設以降も改定が続いています。令和8年度改定では対象範囲が拡大される方向で議論されているとされますが、対象職員の詳細・施設基準・届出手続きは流動的なため、本記事では断定しません。制度そのものの詳しい解説は、以下の記事と厚生労働省の特設ページ・管轄の地方厚生局で必ず確認してください。
制度の全体像や令和8年度改定の変更点は「ベースアップ評価料の令和8年度改定を解説」で詳しく整理しています。本記事では、この制度を前提に「会計・税務でどう処理するか」に絞って解説します。
対象職員の範囲・施設基準・届出/再届出の要否は改定のたびに変わる可能性があります。本記事の会計・消費税の扱いは制度の枠組みが変わっても大きくは変わりませんが、算定要件そのものは必ず厚生労働省の特設ページまたは管轄の地方厚生局で最新情報を確認してください。






会計処理と仕訳|特別な仕訳は不要
結論:通常の保険診療収入として計上する
ベースアップ評価料は診療報酬(社会保険診療報酬)の一部として支払われるため、会計処理は通常の保険診療収入と同じ流れで問題ありません。「ベースアップ評価料」という専用の勘定科目を新設する必要はなく、既存の「保険診療収入(医業収益)」の中に含めて計上すれば足ります。
ただし、後述するとおり実績報告のために収入額を区分把握しておく必要はあります。これは「勘定科目を分ける」ことと「集計上、金額を把握しておく」ことの違いなので、混同しないようにしましょう。
仕訳例:診療月の計上から入金まで
レセプト請求から入金までの一般的な流れに沿うと、仕訳は次の3段階になります。
ベースアップ評価料を算定した月に、他の保険診療報酬と合わせて未収計上します。仕訳は(借方)医業未収金/(貸方)保険診療収入です。専用の勘定科目は使わず、通常の保険診療収入に含めます。
社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会からの入金は、診療月からおおむね2か月後になるのが一般的です。入金時は(借方)普通預金/(貸方)医業未収金で処理します。
賃金改善に充てる支出(給与の増額や賞与への上乗せなど)は、通常の給与計算・支払いの流れの中で処理します。仕訳は(借方)給料手当・法定福利費/(貸方)預り金・普通預金となり、こちらも専用科目は不要です。
「専用の仕訳が必要」という誤解に注意
制度が新設されたばかりだと、「新しい報酬項目だから専用の勘定科目や仕訳ルールが必要なのでは」と身構えてしまいがちです。しかし会計処理そのものは既存の保険診療収入の枠組みに乗せるだけでよく、無理に複雑な仕訳を組む必要はありません。






消費税の扱い——非課税売上と課税売上割合への影響
ベースアップ評価料は非課税売上
社会保険診療報酬(健康保険法・国民健康保険法等に基づく療養の給付)は、消費税法別表第二第六号により非課税とされています。国税庁の消費税法基本通達第6節および、タックスアンサーNo.6201「非課税となる取引」でも確認できる取扱いです。
ベースアップ評価料は診療報酬(社会保険診療報酬)の一部として支払われるものなので、消費税法上もこの非課税売上に含まれます。「課税売上」「課税対象」として集計してしまうミスがないよう注意してください。
「消費税が非課税」であることと「法人税・所得税で収入に計上しなくてよい」ことは、まったく別の話です。消費税は非課税売上ですが、法人税・所得税では収入(益金)として計上する必要があります。このあと詳しく解説します。
課税売上割合が下がる仕組みと仕入税額控除への影響
課税売上割合は「課税売上高÷(課税売上高+非課税売上高)」で計算します。医療機関の場合、社会保険診療報酬(非課税)が売上の大半を占め、自由診療の一部・健診・予防接種・文書料などの一部が課税売上に該当するのが一般的です。
ベースアップ評価料は非課税売上として分母に加算されるため、課税売上割合を引き下げる方向に働きます。消費税法第30条により、課税売上割合が95%以上かつ課税期間の課税売上高が5億円以下であれば、その課税期間の仕入税額を全額控除できます。この要件を満たさない場合は、個別対応方式または一括比例配分方式によって仕入税額控除を按分計算することになります。
- 計算式:課税売上高 ÷(課税売上高+非課税売上高)
- ベースアップ評価料を含む社会保険診療報酬は「非課税売上」として分母に算入される
- 95%以上かつ課税期間の課税売上高5億円以下なら仕入税額を全額控除できる(消費税法30条)
- 満たさない場合は個別対応方式または一括比例配分方式で按分
医療機関の収入と消費税区分(イメージ)
健康保険法・国民健康保険法等に基づく療養の給付。ベースアップ評価料もこの一部として非課税。
自由診療の一部、健診・人間ドック、予防接種、文書料など(施設・診療内容により異なる)。
課税売上高÷(課税売上高+非課税売上高)。非課税売上が多い医療機関ほど割合は下がりやすい。
控除対象外消費税——医療機関が負担する構造
課税売上割合が低い医療機関では、仕入れにかかった消費税の一部が控除しきれず、いわゆる「控除対象外消費税」として医療機関側の負担になる構造があります。具体的な税額の計算は医療機関ごとの課税売上・非課税売上の内訳によって変わるため、一般論としての理解にとどめ、実際の申告額は税理士に確認することをおすすめします。






法人税・所得税の扱い(益金と損金)
収入は益金、賃金改善の支出は損金
法人税・所得税の観点では、ベースアップ評価料の収入は益金(収入)に算入されます。一方で、賃金改善に充てた給与・賞与の増額分や、それに伴う法定福利費(社会保険料の事業主負担分の増加分)は、通常の人件費と同様に損金(必要経費)に算入されます。
「消費税は非課税」と「法人税は課税」を混同しない
ここで整理しておきたいのが、消費税と法人税・所得税は別の税目だという点です。消費税では「非課税売上」として扱われますが、法人税・所得税では収入(益金)として計上され、課税所得の計算に含まれます。「消費税が非課税=税金がかからない」と誤解しないよう注意しましょう。






実績報告に備えた区分管理
何を区分して管理するか
ベースアップ評価料は「その収入を対象職員の賃金改善に充てる」ことが算定要件のため、会計上の勘定科目は分けなくても、次の2つの数字は区分して管理しておく必要があります。1つは評価料の収入額(レセプト・医事会計システムで算定回数と請求額を集計)、もう1つは賃金改善額(賃金改善後の給与総額から改善前の給与総額を差し引いた額)です。
賃金改善額の算定に事業主負担の法定福利費(社会保険料の増加分など)を含められるかどうかは、厚生労働省が示す要件次第のため、本記事では断定せず「必ず厚労省の要件で確認する」項目として扱います。
- 評価料の収入額を、医事会計システムのレセプトデータから算定回数・請求額ベースで集計しているか
- 賃金改善額(改善後の給与総額−改善前の給与総額)を算定できる資料を残しているか
- 法定福利費(事業主負担の社会保険料増加分)を賃金改善額に含めてよいか、厚労省の要件で確認したか
- 賃金改善実績報告書を、管轄の地方厚生局に毎年度提出する準備ができているか
実績報告の提出先・時期・様式は厚労省・地方厚生局で確認
賃金改善額の算定を効率化したい場合は「ベースアップ評価料の計算シート」が参考になります。また、届出・再届出の様式は「ベースアップ評価料の届出様式まとめ」、実績報告の具体的な手順は「ベースアップ評価料の実績(中間)報告のやり方」で解説しています。提出時期・様式・具体的な記入方法は、必ず最新の厚生労働省の情報または管轄の地方厚生局で確認してください。






ベースアップ評価料の会計・消費税処理でよくある失敗・ミス
制度が新しいこともあり、会計・消費税の処理では次のような失敗が起こりがちです。事前に知っておくことで、記帳ミスや実績報告時の慌てを防げます。
- 専用の勘定科目を新設しようとして、かえって仕訳が複雑になってしまう(本来は通常の保険診療収入でよい)
- ベースアップ評価料を誤って「課税売上」として消費税集計してしまう(正しくは非課税売上)
- 課税売上割合の計算でベースアップ評価料(非課税売上)を分母に含め忘れ、割合を実際より高く算出してしまう
- 評価料の収入額と賃金改善額をその都度集計せず、実績報告の提出直前になって慌てて資料を作り直す






よくある質問(FAQ)
- ベースアップ評価料の収入に専用の勘定科目は必要ですか?
-
不要です。ベースアップ評価料は診療報酬(社会保険診療報酬)の一部として支払われるため、既存の「保険診療収入(医業収益)」に含めて計上すれば問題ありません。ただし、実績報告のために収入額を別途集計しておく必要はあります。
- 消費税の申告で課税売上に含めるのですか?
-
いいえ、課税売上ではなく非課税売上です。社会保険診療報酬は消費税法別表第二第六号により非課税とされており、ベースアップ評価料もこの一部として非課税売上に区分されます。課税売上として集計しないよう注意してください。なお、非課税売上であっても課税売上割合の計算上は分母に含まれ、割合を引き下げる方向に働きます。
- 賃金改善に社会保険料(事業主負担)の増加分は含められますか?
-
含められる場合がありますが、具体的な要件は厚生労働省が示す最新の基準によって決まります。本記事では断定を避けていますので、賃金改善実績報告書の作成にあたっては、厚生労働省の特設ページまたは管轄の地方厚生局で最新の取扱いを必ず確認してください。
ベースアップ評価料の会計・税務処理まとめ:特別な仕訳は不要、区分管理だけは忘れずに






専用の勘定科目・専用の仕訳は不要。診療月に医業未収金/保険診療収入、入金時に普通預金/医業未収金で計上します。
課税売上に含めない。課税売上割合の分母には算入され、95%・5億円の要件を満たさない場合は仕入税額控除の按分計算が必要です。
収入は益金、賃金改善に充てた給与・法定福利費は損金に算入します。消費税の非課税とは別の話として整理しましょう。
評価料の収入額と賃金改善額を区分把握し、賃金改善実績報告書の提出に備えます。提出先・時期・様式は厚労省・地方厚生局で確認してください。
参考・情報源
本記事の消費税の取扱い・制度の位置づけは、以下の一次情報を参照しています。
- 国税庁 消費税法基本通達 第6節「医療の給付等関係」:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/06/06.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.6201「非課税となる取引」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6201.htm
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について(ベースアップ評価料 特設)」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html



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