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「今年もそろそろ棚卸か……」と、12月が近づくたびに気が重くなる個人事業主・中小企業の経理担当者は多いと思います。年末にやるべき経理作業の全体像は〈個人事業主の決算準備ガイド〉で解説済みのため、本記事では実地棚卸の当日手順・棚卸表の作り方・棚卸資産の評価方法の届出に絞って掘り下げます。実地棚卸のやり方が分からず在庫を数え漏らした、棚卸表のフォーマットが無くて毎年ゼロから作っている、評価方法の届出を出し忘れて最終仕入原価法のままになっている——こうした状態は、そのまま売上原価の計算ミスや税務調査での指摘につながります。この記事では、当日の作業手順をチェックリスト化し、記入例付きの棚卸表テンプレートと、数量×単価で自動集計できるツールを用意しました。あわせて評価方法の届出書の提出期限も判定表で整理します。
📌 この記事でわかること
- 実地棚卸を当日どういう順番で進めればいいか(作業前の準備〜集計までのチェックリスト)
- 棚卸表の記入例と、数量×単価をブラウザでその場で集計できる「棚卸金額集計ツール」
- 棚卸資産の評価方法(原価法6種・低価法)の違いと、自社に合う方法の選び方
- 「棚卸資産の評価方法の届出書」の書き方と、個人事業主・法人それぞれの提出期限判定表
- 免税事業者⇔課税事業者を切り替えるときに必要な、期末棚卸資産に係る消費税額の調整
実地棚卸とは?棚卸資産・決算とのつながり
実地棚卸とは、決算日(個人事業主なら12月31日)時点で実際に手元にある商品・製品・原材料などの棚卸資産を、目視・実測で数え上げて数量と金額を確定させる作業です。帳簿上の在庫数(帳簿棚卸)と実際の在庫数(実地棚卸)はズレることがあり、そのズレ(棚卸減耗)を把握できるのは実地棚卸だけです。
棚卸資産の金額は、売上原価の計算に直結します。「売上原価=期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高」という算式(国税庁「青色申告の決算の手引き」記載)のとおり、期末棚卸高を数え間違えると、そのまま利益・納税額が変わってしまいます。棚卸しをしなければならない資産は、商品・製品・半製品・仕掛品・原材料・副産物・作業くずなどのほか、まだ使用していない包装材料や事務用消耗品、使用可能期間1年未満または取得価額10万円未満の少額な減価償却資産も含まれます。
ぜいむたん


実地棚卸の当日手順【チェックリスト】
実地棚卸の手順を6ステップのチェックリストにする
実地棚卸は「12月31日」に行うのが原則ですが、多忙で年末ちょうどにできない場合は、年末から多少前後した日に実施し、棚卸日から12月31日までの売上・仕入を加減算して期末棚卸高を計算する方法も認められています(国税庁「青色申告の決算の手引き」)。当日の手順を6ステップのチェックリストにまとめました。
棚卸表(フォーマット)と筆記用具・電卓を用意する
下記のテンプレートを印刷するか、タブレット・スマホで直接入力できる状態にしておく。品目リスト(帳簿上の在庫一覧)を事前に出力しておくと数え漏れを防げる。
棚卸日当日の売上・仕入をいったん締める
棚卸中に商品が動くと数量が確定しない。当日または直前直後の売上・仕入伝票を把握し、「何時時点の在庫か」を明確にしておく。
保管場所ごとに区画を決めて数える
倉庫・店舗・事務所などエリアごとに担当者を分け、二重カウント・数え漏れを防ぐ。棚・什器の裏や倉庫の奥も見落としやすいので動線を決めておく。
品目・数量・単価を棚卸表に記入する
品目ごとに数量を実測し、単価(取得価額または評価方法に基づく単価)を記入する。破損品・季節外れの滞留在庫は「評価損の対象になりうる」印を付けておくと後工程が楽になる。
数量×単価で計上額を計算し、合計する
下記の「棚卸金額集計ツール」に数量・単価を入力すれば、行ごとの金額と合計額を自動計算できる。手計算より集計ミスを減らせる。
帳簿棚卸高と突合し、差異があれば原因を確認する
帳簿上の在庫数と実地の数量が合わない場合、棚卸減耗として処理する前に伝票の記帳漏れ・二重計上がないかを確認する。棚卸表は原則7年間保存する。






棚卸表の作り方とテンプレート・自動集計ツール
棚卸表テンプレートの記入例
棚卸表に決まった様式はありませんが、税務調査で在庫の計上根拠を示せるよう、最低限「品目名」「数量」「単価」「金額(数量×単価)」の4項目は記録しておく必要があります。以下は記入例です。
| 品目名 | 保管場所 | 数量 | 単価(円) | 金額(円) |
|---|---|---|---|---|
| 商品A | 本店倉庫 | 10 | 1,000 | 10,000 |
| 商品B | 店舗バックヤード | 25 | 1,200 | 30,000 |
| 商品C(季節品) | 本店倉庫 | 3 | 8,500 | 25,500 |
この記入例と同じ数量・単価を下のツールに初期値として入れています。試しにそのまま合計を出すと65,500円になります。実際の棚卸では品目数が数十〜数百に及ぶこともあるので、行を追加しながら集計してください。
🧮 棚卸金額集計ツール(数量×単価を自動計算)
数量・単価を入力すると合計棚卸高が自動で出ます
| 品目名 | 数量 | 単価(円) | 金額(円) |
|---|
合計棚卸高:0 円
※本ツールは単純な「数量×単価」の集計を行うのみで、評価方法(原価法・低価法)の判定や税額計算は行いません。単価は下記「評価方法の種類」を踏まえてご自身で決定してください。








棚卸資産の評価方法の種類(原価法・低価法)
原価法と低価法の違い
棚卸資産の評価方法には、大きく分けて「原価法」(先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法など複数の算定方式)と「低価法」(原価法で算定した価額と期末の時価を比べ、低い方を評価額とする方法)があります。低価法を適用する場合の「時価」は、期末時点でその棚卸資産を売却するとした場合に通常付される価額(正味売却価額)によります(所得税基本通達47-10)。
税理士法人での実務では、値崩れしやすい季節商品や型落ち品を扱う業種ほど低価法のメリットが大きいと感じます。低価法は評価損を計上できる分、在庫評価額を実態に近づけられますが、青色申告を行っていない事業者は選択できません(所得税法施行令第99条の2)。原価法・低価法のいずれも、事業の種類ごと・棚卸資産の区分ごとに選定できます。
| 評価方法 | 考え方 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 最終仕入原価法(法定評価方法) | 期末に最も近い時期の仕入単価で評価 | 届出をしていない場合に自動適用。事務負担が最も軽い |
| 先入先出法 | 先に仕入れたものから順に払い出したと仮定 | 仕入価格が変動しやすい業種で実態に近い評価をしたい場合 |
| 総平均法/移動平均法 | 仕入単価を平均して評価 | 単価変動を平準化して管理したい場合 |
| 低価法 | 原価法の評価額と期末時価のいずれか低い方 | 季節品・型落ち品など値崩れが起きやすい在庫を抱える青色申告者 |
棚卸資産の評価方法の届出書の書き方と提出期限
個人事業主・法人別の提出期限判定表
評価方法の届出は「棚卸資産の評価方法の届出書」(法人)または「所得税の棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書」(個人事業主)を、納税地の所轄税務署長に提出して行います。提出しなかった場合は、法定評価方法である最終仕入原価法が自動的に適用されます(国税庁 A1-17/C1-25)。
| 対象者 | 提出が必要になるタイミング | 提出期限 |
|---|---|---|
| 個人事業主 | 新たに事業を開始した/従来の事業のほかに他の種類の事業を開始した/事業の種類を変更した | その年分の確定申告期限まで(国税庁A1-17) |
| 普通法人(新設) | 法人を設立した | 設立第1期の確定申告書の提出期限まで(国税庁C1-25) |
| 法人(既存) | 新たに他の種類の事業を開始した/事業の種類を変更した | その事業年度の確定申告書の提出期限まで(国税庁C1-25) |
提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、その翌日が期限になります。原価法・低価法以外の方法で評価したい場合は「棚卸資産の特別な評価方法の承認申請書」、いったん選定した評価方法を変更したい場合は「評価方法の変更承認申請書」と、それぞれ別の様式を使う点にも注意してください。




様式は「事業の種類(又は事業所別)」「棚卸資産の区分(商品・半製品・仕掛品・主要原材料・補助原材料等)」「評価方法」の3列で構成されています。事業ごと・資産区分ごとに異なる評価方法を選ぶことも可能なので、実態に合わせて記入してください。






消費税の期末棚卸資産に係る調整(免税⇔課税の切替時)
インボイス制度への対応などで免税事業者から課税事業者に切り替わる場合、切替日の前日時点で所有している棚卸資産のうち、免税事業者であった期間中に仕入れたものがあれば、その棚卸資産に係る課税仕入れ等の税額を、課税事業者になった課税期間の仕入控除税額の計算に含めることができます(国税庁 No.6491)。逆に課税事業者から免税事業者になる場合は、切替日前日の属する課税期間に仕入れた棚卸資産に係る税額は、その課税期間の仕入控除税額の計算に含めません。
この調整の対象になる棚卸資産は、商品・製品・半製品・仕掛品・原材料・貯蔵中の消耗品等で現に所有しているものです。仕入税額控除の対象にできる消費税額は、棚卸資産の取得価額に110分の7.8(軽減税率の対象なら108分の6.24)を掛けて計算します。適用を受けるには、対象となる棚卸資産の明細を記録した書類を、作成した日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間保存する必要があります(国税庁 No.6491)。実務では、この調整を忘れて課税事業者1期目の仕入控除税額を過小に計算してしまうケースが目立つため、切替のタイミングでは棚卸表をそのまま消費税調整の根拠資料としても使えるようにしておくと安全です。






実地棚卸でよくあるミスと注意点
実地棚卸でよく見られるミスは、①棚卸日をまたぐ売上・仕入の計上タイミングのズレ、②複数拠点で同じ在庫を二重に数えてしまう、③滞留在庫・破損品を通常品と同じ単価で計上してしまう、の3つです。特に③は、実際には販売できない在庫を過大評価してしまい、期末棚卸高が実態より大きくなる典型的な誤りです。低価法を選択していれば期末時価まで評価を下げられますが、原価法(最終仕入原価法など)のままでも、法人であれば「著しい陳腐化」「破損・型崩れ・たなざらし・品質変化等」といった法人税基本通達9-1-4・9-1-5(棚卸資産の評価損)が示す事実に該当すれば評価損の損金算入が認められる場合があります(単なる物価変動・過剰生産による値下がりは対象外です)。一方、個人事業主は低価法を選択していない限り、災害等の特別な事情を除いて棚卸資産の評価損を必要経費に算入することは原則認められていません。いずれのケースも該当性の判断は個別事情によるため、断定はできず不良在庫を抱え続けるリスクがある点は変わらないので、対象になりそうな在庫があれば税理士に確認してください。
公認会計士試験合格者としての視点で付け加えると、税務調査で棚卸資産が論点になる場合、まず確認されるのは「期末直前の売上・仕入の計上タイミング」と「棚卸表と帳簿の突合根拠」です。棚卸表・仕入伝票・出荷伝票を一式そろえておけば、実地棚卸の実施自体を疑われることはまずありません。逆に棚卸表が存在しない、または帳簿の在庫数をそのまま転記しただけの棚卸表は、実地棚卸をしていないと判断されるリスクがあります。






よくある質問(FAQ)
- 棚卸資産の評価方法を届け出ないとどうなりますか?
- 届出をしなかった場合は、法定評価方法である最終仕入原価法が自動的に適用されます(国税庁A1-17/C1-25)。最終仕入原価法自体は事務負担が軽い方法なので、必ずしも不利になるわけではありませんが、仕入単価の変動が大きい業種では実態と評価額がずれやすい点に注意してください。
- 棚卸表はどのくらいの期間保存すればよいですか?
- 帳簿書類の保存期間に準じて、原則として7年間の保存が必要です。消費税の棚卸資産調整(免税⇔課税の切替時)を適用する場合は、対象棚卸資産の明細を記録した書類について、作成日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間の保存が求められます(国税庁No.6491)。
- 低価法はどんな事業者でも選べますか?
- 低価法は青色申告を行っている事業者のみが選択できる評価方法です(所得税法施行令第99条の2)。白色申告の場合は原価法(先入先出法・総平均法・最終仕入原価法など)の中から選ぶことになります。
- 実地棚卸を12月31日ちょうどに実施できない場合はどうすればいいですか?
- 年末から多少前後した日に実施しても差し支えありません。その場合は、棚卸日から12月31日までの売上・仕入を加減算して期末棚卸高を計算し、その計算方法を明らかにしておく必要があります(国税庁「青色申告の決算の手引き」)。
まとめ:実地棚卸は手順・記録・届出の3点セットで進める
実地棚卸の当日手順をチェックリストで進める
棚卸表の準備→売上・仕入の締め→区画ごとの実測→記入→集計→帳簿との突合、の6ステップを踏めば数え漏れ・二重計上を防げます。
棚卸表を作成し、自動集計ツールで金額を確定する
品目・数量・単価・金額の4項目を必ず記録し、7年間保存します。集計は本記事の棚卸金額集計ツールで自動化できます。
評価方法の届出期限を確認する
新規開業・新事業開始・事業の種類変更があった年(事業年度)の確定申告期限までに届出書を提出しないと、最終仕入原価法が自動適用されます。



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