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家族信託のデメリットとして「損益通算ができない」と書かれているのを見たことがある方は多いと思います。ただ、それが自分の場合いくらの負担になるのかまで書かれている記事はほとんどありません。司法書士事務所のサイトが中心の分野で、税額の試算は税理士法の関係で踏み込みにくいためです。
この記事では、租税特別措置法41条の4の2を条文にあたって確認し、収益不動産を信託した場合に増える税額を試算できるツールを用意しました。赤字が出る物件を信託に入れると、その赤字は「生じなかったもの」とみなされ、他の所得と相殺できず、翌年へ繰り越すこともできません。
📌 この記事でわかること
- 収益不動産を家族信託に入れた場合に、その年の税額がいくら増えるかを試算できるツール
- 租税特別措置法41条の4の2が「生じなかったものとみなす」と定めている対象の範囲(原文で確認)
- 他の所得と相殺できないだけでなく、翌年以降への繰越もできないこと
- 赤字が出やすいのはどんな年か(大規模修繕・減価償却・借入利子)
- 信託契約の組み方で結果が変わる理由(国税庁の通達が示す「信託ごとに計算する」という単位)
- 確定申告のときに明細書の添付が必要になること
ぜいむたん


家族信託の最大の税務デメリットは「損益通算の禁止」
家族信託で税務上の問題が起きるのは、信託を設定した時点ではありません。信託した後、収益不動産が赤字になった年です。
自益信託なら、設定時に贈与税・所得税はかからない
誤解されやすいので先に整理しておくと、委託者と受益者が同じ自益信託であれば、信託を設定した時点では贈与税も所得税もかかりません。財産の名義は受託者に移りますが、税務上は受益者が引き続き所有しているものとして扱われるためです。ただし信託の登記に係る登録免許税はかかります(委託者から受託者への所有権移転そのものは非課税、不動産取得税もかかりません)。税率は土地と建物で異なり軽減措置の適用期限もあるため、金額は登記を依頼する司法書士に確認してください。所得税・住民税の面で問題が起きるのは設定時ではなく、その後の各年の所得計算です。
租税特別措置法41条の4の2は、信託から生ずる不動産所得の損失について、「生じなかつたものとみなす」と定めています。効果は3つあります。
税理士法人で個人の申告を見ていたとき、信託の設定自体は司法書士が適切に組んでいるのに、大規模修繕の年になって初めてこの規定に気づくケースがありました。設定時点では赤字が出る前提で考えていないので、無理もありません。先に金額を見ておけば、修繕の時期を信託の前に寄せるといった選択肢も検討できます。
家族信託で切り捨てられる赤字と、増える税額の試算ツール
信託した場合としなかった場合で、その年の所得税と住民税がいくら変わるかを比べます。赤字の金額そのものより、税額でいくら違うかのほうが判断しやすいはずです。






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家族信託で切り捨てられる赤字と、増える税額の試算
収益不動産を信託した場合としなかった場合で、その年の税額がいくら変わるかを比べます。金額は年額・税引前で入力してください。
| 項目 | 金額(円) |
|---|---|
| 信託した不動産の収入(家賃など) | |
| 信託した不動産の必要経費(減価償却・修繕・借入利子など) | |
| 信託していない不動産の所得(黒字分) | |
| その他の所得(給与所得控除後の給与、年金の雑所得など) | |
| 所得控除の合計(社会保険料・基礎控除など) |
※ 租税特別措置法41条の4の2に基づく一般的な試算です。所得税(復興特別所得税を含む)と住民税10%で計算し、土地等を取得するために要した負債の利子の損益通算の特例、青色申告特別控除、純損失の繰越控除、信託財産以外の損失との調整など個別の取扱いは反映していません。実際の税額は顧問税理士にご確認ください。
初期値は、信託した物件が収入300万円・経費450万円で150万円の赤字、信託していない物件が200万円の黒字、給与などの他の所得が500万円というケースです。信託しなければ税額は780,322円ですが、信託すると1,236,622円になり、456,300円の増になります。
家族信託の損益通算禁止は条文にどう書いてあるか
根拠は租税特別措置法41条の4の2第1項です。原文は次のように定めています。






「同法第二十六条第二項」は不動産所得の金額の計算、「第六十九条第一項」は損益通算の規定です。この2つの適用について損失が無いものとされるため、不動産所得の内部でも、他の所得との間でも相殺できません。そして繰越控除についても同じ結論になります。所得税法70条の繰越控除の対象は「純損失の金額」で、その定義(同法2条1項25号)は損益通算をしてもなお控除しきれない部分の金額です。69条1項の適用上その損失が無いものとされる以上、純損失を構成する損失がそもそも生じません。条文が「その他の所得税に関する法令の規定の適用については」と包括している点も同じ方向を示しています。なお、繰越控除ができない旨を直接述べた国税庁の公表資料は確認できておらず、これは条文から導かれる整理です。






「政令で定める金額」の中身
租税特別措置法施行令26条の6の2第4項は、対象となる損失の金額を「その年分における信託から生ずる不動産所得に係る総収入金額に算入すべき金額の合計額が、必要経費に算入すべき金額の合計額に満たない場合におけるその満たない部分の金額に相当する金額」と定めています。信託ごとに収入と経費を集計し、差引きで赤字になった部分が対象、という書き方です。






家族信託した不動産で赤字が出やすいのはどんな年か
賃貸経営は黒字が続くとは限りません。信託を検討する段階で、次の3つに心当たりがあれば影響を試算しておく価値があります。






- 大規模修繕:外壁塗装・屋上防水・給排水管の更新など。数百万円単位になり、資本的支出に当たらない部分はその年の経費になります
- 減価償却費が大きい時期:取得から間もない物件や、設備部分を短い耐用年数で償却している場合
- 借入金の利子:返済初期は利子の割合が大きく、経費が膨らみます
修繕の時期と信託の時期は、セットで考える
逆にいえば、これらの支出が見込まれる時期を信託の設定前に済ませられるなら、影響を避けられる可能性があります。ただし信託の目的は認知症などによる資産凍結への備えであり、税金だけで時期を判断するものではありません。信託を遅らせている間に判断能力が低下すれば、そもそも信託契約を結べなくなります。
家族信託の契約の分け方で結果が変わる理由
政令が「信託から生ずる不動産所得」の収入と経費を合計して差引きする書き方になっているため、同じ信託のなかに複数の物件が入っていれば、その内部では黒字と赤字が相殺されることになります。逆に物件ごとに信託契約を分けると、赤字の信託の損失は他の信託の黒字と相殺できません。






国税庁の通達も「信託ごとに計算する」と明示している
これは条文の読み方だけの話ではありません。租税特別措置法関係通達41の4の2-1は、受益者等課税信託を含む「組合事業等」から生ずる不動産所得の金額の計算について、「各組合事業等ごとに行うことに留意する」としています。損益計算書や収支内訳書も区分ごとに各別に作成するとされています。国税庁タックスアンサーNo.1391も、明細書の添付について「組合事業ごとまたは信託ごとに」と書いています。
つまり計算単位が信託ごとであることは公表資料で裏付けられています。残る不確かさは、どの財産をどの信託に入れるかという個別の契約内容によって結論が変わりうる、という点です。複数の収益不動産を信託する予定がある場合は、契約を組む前に税理士に相談してください。信託を組んでから契約を分け直すのは簡単ではありません。
家族信託をすると確定申告に明細書の添付が必要になる
見落とされやすいのが申告時の手続です。租税特別措置法施行令26条の6の2第6項は、信託から生ずる不動産所得を有する個人が確定申告書を提出する場合には、その不動産所得の金額の計算に関する明細書を申告書に添付しなければならないとしています。






受託者の側にも提出義務がある
加えて受託者の側にも、信託の計算書などを税務署へ提出する義務が生じる場合があります。信託を組むと、毎年の事務が増えるという点も判断材料に入れておいてください。
過去の申告書から、物件ごとの収入と必要経費を並べます。赤字になった年があるかを確認します。
外壁・防水・設備更新の時期と概算額を置きます。その年に赤字になるかを見ます。
赤字になる年の数字を入れて、信託した場合としない場合の税額差を確認します。
契約をいくつに分けるか、修繕の時期をどうするかを、司法書士と税理士の双方に確認します。






よくある質問(FAQ)
家族信託の税務でよく聞かれる5つをまとめました。とくに1問目は誤解が多いところです。
- 家族信託をすると相続税は減りますか?
-
減りません。家族信託は認知症などによる資産凍結に備えて財産の管理を託す仕組みで、相続税の負担そのものを軽くする制度ではありません。信託した財産も相続税の課税対象に含まれます。信託を「節税策」として案内されている場合は、何をもって節税と言っているのかを確認してください。むしろ本記事のとおり、収益不動産を信託すると赤字の年に所得税・住民税が増えることがあります。
- 信託した不動産が黒字の年は、何か影響がありますか?
-
損益通算の禁止という意味での影響はありません。租税特別措置法41条の4の2が対象にしているのは、信託から生ずる不動産所得の「損失の金額」だからです。黒字の年は通常どおり不動産所得として課税されます。ただし確定申告の際には、信託から生ずる不動産所得の金額の計算に関する明細書の添付が必要になる点は黒字でも変わりません。
- 切り捨てられた損失を、翌年の黒字と相殺できませんか?
-
できません。条文は「生じなかつたものとみなす」としており、損失そのものが存在しなかった扱いになるため、純損失の繰越控除の対象にもなりません。通常の不動産所得なら、青色申告であれば赤字を翌年以降3年間繰り越せますが、信託から生じた不動産所得の損失にはこの扱いが及びません。赤字が大きい年ほど、信託していることの不利が大きくなります。
- 信託していない自分名義の物件の赤字は、これまでどおり通算できますか?
-
できます。この規定の対象は信託から生ずる不動産所得の損失に限られます。信託に入れていない物件の赤字は、従来どおり他の不動産所得や他の所得との損益通算が可能です。つまり同じ人が信託あり・なしの両方の物件を持っている場合、赤字の扱いが物件によって変わることになります。申告のときに混同しないよう、物件ごとに区分して集計しておく必要があります。
- 自宅や預貯金だけを信託する場合も関係しますか?
-
関係しません。この規定は不動産所得の損失についての定めなので、収益を生まない自宅や、預貯金・有価証券だけを信託する場合は対象外です。家族信託の目的が実家の管理や売却に備えることであれば、この論点は生じません。収益不動産を信託財産に含めるかどうかが分かれ目になります。
まとめ:家族信託は収益不動産を入れる前に金額で確認する
家族信託のデメリットとして語られる損益通算の禁止は、条文上は「損失が生じなかったものとみなす」という強い規定です。影響の大きさは物件の収支と所得の水準で決まるため、一般論ではなく自分の数字で確認するしかありません。
収益不動産を信託財産に含めるかどうかで決まります。自宅や預貯金だけなら関係ありません。
大規模修繕の年が最も大きく出ます。ツールで信託あり・なしの税額を比べます。
契約を分けるか、修繕をいつ行うか。税務と信託の目的の両方から判断します。判断能力があるうちにしか組めない点も忘れずに。






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