「役員報酬を上げて自分で家賃を払うより、会社が住宅を貸してくれる方が得だと聞いたけれど、実際どういう仕組みなのか」「役員社宅にすると税務調査で否認されないか不安」——一人社長・小規模法人の経営者からよく聞く悩みです。結論から言うと、会社が住宅を借り上げ(または所有)て役員に貸し、役員から「賃貸料相当額」を受け取れば、会社は家賃の大半を地代家賃として経費にでき、役員個人は給与課税を受けずに済みます。ポイントは「賃貸料相当額」の計算方法と、税務調査で否認リスクを下げるための実務要件です。本記事では国税庁タックスアンサーNo.2600の算式に基づき、計算例と独自の手取り試算、契約時の注意点まで、公認会計士試験合格者の視点で解説します。
ぜいむたん


一人社長が役員社宅で手取りを増やせる仕組み【結論】
役員社宅とは、会社が住宅を借り上げる(または所有する)かたちで役員に貸与し、役員から「賃貸料相当額」を受け取ることで、会社は家賃相当額を地代家賃として経費にでき、役員個人は現物給与として課税されない制度です。国税庁タックスアンサーNo.2600「役員に社宅などを貸したとき」で示された算式に基づき賃貸料相当額を計算し、役員が毎月それ以上の金額を会社に支払っていれば、給与としての課税は生じません。一人社長が役員報酬を増額して自分で家賃20万円を払う場合と比べると、報酬増額分には所得税・住民税・社会保険料が課されるため、同じ家賃負担でも役員社宅の方が会社・個人トータルの手取りを増やしやすい設計になります(後述の独自試算参照)。
ただし節税効果が出るのは、賃貸料相当額の計算・契約名義・徴収の実態が国税庁の基準に沿っている場合に限られます。要件を満たさないまま「社宅」と称しているだけでは、税務調査で給与として認定し直されるリスクがあります。次章から、判定基準・計算方法・実務要件の順に見ていきます。






賃貸料相当額とは?小規模住宅の判定基準(132㎡・99㎡)
賃貸料相当額の計算方法は、貸与する住宅が「小規模な住宅」に該当するかどうかで変わります。国税庁の基準では、法定耐用年数が30年以下の建物は床面積132㎡以下、30年を超える建物(鉄筋コンクリート造など)は床面積99㎡以下であれば「小規模な住宅」に区分されます。区分所有のマンション等の場合は、共用部分の床面積を専有部分の床面積に按分して加えたうえで判定します。多くの一人社長が借りる賃貸マンション・アパートはこの小規模住宅に該当するケースが大半で、実務上もっとも利用頻度の高い区分です。
法定耐用年数30年以下の建物
132㎡以下
木造・軽量鉄骨造の賃貸マンション・アパートなど。一人社長の入居物件の多くがこの区分。
法定耐用年数30年超の建物
99㎡以下
鉄筋コンクリート造のマンション等。共用部分は按分して専有部分に加算して判定。






賃貸料相当額の計算方法【小規模住宅】①②③の計算例
小規模住宅に該当する場合、1か月当たりの賃貸料相当額は次の①②③の合計額で計算します。自社所有・借り上げのどちらでも計算式は共通です。
小規模住宅の賃貸料相当額(1か月あたり)
- ① その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
- ② 12円 ×(建物の総床面積㎡ ÷ 3.3㎡)
- ③ その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
賃貸料相当額 = ① + ② + ③
固定資産税の課税標準額は、家主や会社自身が保有する納税通知書で確認できるほか、物件所在地の市区町村(資産税課)の固定資産課税台帳で確認できます。借り上げ社宅であっても、この課税標準額をもとに計算する点が実務上の重要なポイントで、家賃の金額そのものから賃貸料相当額を計算するわけではありません。
実際に数字を当てはめて計算してみます。建物の固定資産税課税標準額が500万円、建物の総床面積が70㎡、敷地の固定資産税課税標準額が800万円という仮定条件で試算すると、次のようになります(あくまで計算例で、実際の金額は物件ごとの課税標準額により異なります)。
| 項目 | 計算式 | 金額(月額) |
|---|---|---|
| ① 建物分 | 500万円 × 0.2% | 10,000円 |
| ② 床面積分 | 12円 ×(70㎡ ÷ 3.3㎡) | 約255円 |
| ③ 敷地分 | 800万円 × 0.22% | 17,600円 |
| 合計(賃貸料相当額) | ①+②+③ | 約27,855円/月 |
この例では、市場の家賃相場が月15万〜20万円クラスの物件であっても、賃貸料相当額は月2万円台後半にとどまるケースが多く、家賃と賃貸料相当額の差額を会社が地代家賃として負担できる余地が大きいことが分かります。ただし課税標準額は物件・自治体によって大きく異なるため、必ず対象物件の実際の課税標準額で計算し直す必要があります。






一般住宅・豪華社宅の場合の賃貸料相当額はどう変わる?
小規模住宅に該当しない「一般の住宅」や、床面積240㎡超などの「豪華社宅」に該当すると、賃貸料相当額の計算方法や節税効果が大きく変わります。一人社長が広めのタワーマンション等を検討する場合は、この区分を必ず確認しておく必要があります。
| 区分 | 賃貸料相当額の算定 |
|---|---|
| 一般住宅(自社所有) | (建物の固定資産税課税標準額×12%〈耐用年数30年超は10%〉+敷地の固定資産税課税標準額×6%)÷12 |
| 一般住宅(借り上げ) | 「会社が家主に支払う家賃×50%」と、上記の自社所有の算式で計算した金額のいずれか多い方 |
| 豪華社宅(床面積240㎡超が目安) | 上記の計算式は使えず、通常支払うべき使用料相当額(時価)で判定。プール等の個人的嗜好が強い設備がある場合も同様に総合判定の対象 |
一般住宅の借り上げでは「家賃の50%」という下限があるため、小規模住宅ほど大きな節税効果は見込めません。さらに豪華社宅と判定されると賃貸料相当額は市場家賃とほぼ同水準(時価)になり、節税メリットはほぼ消えます。したがって一人社長の実務では、小規模住宅の範囲に収まる物件を選ぶのが基本戦略になります。豪華社宅に該当するかどうかは、床面積240㎡超という目安に加えて、取得価額・支払賃貸料の額・内外装の状況などから総合的に判断される点にも注意が必要です。






独自試算|役員社宅と役員報酬アップ、手取りはどちらが得か
同じ月20万円の家賃負担でも、「役員社宅」と「役員報酬を増額して自分で家賃を払う」方式では、会社・役員トータルの手取りに大きな差が出得ます。以下は執筆者が独自に置いた仮定条件によるシミュレーション例で、実際の税額・保険料率は個人の所得水準や自治体・加入保険によって変動するため、あくまで目安としてご覧ください。
前提(仮定):都心の賃貸マンション・家賃20万円/月(小規模住宅に該当)。役員社宅方式では賃貸料相当額を月2万円と仮定(実際は前章の①②③の算式で物件ごとに計算します)。役員報酬アップ方式では、月20万円(年240万円)の報酬を上乗せし、所得税・住民税の負担を合計30%、社会保険料の本人負担を15%と仮定(いずれも目安の数値です)。
| 比較項目 | A. 役員社宅(会社借り上げ) | B. 役員報酬アップ(自分で家賃を払う) |
|---|---|---|
| 会社→家主への家賃支払 | 年240万円(地代家賃として損金算入) | 支払わない(役員が個人で契約・支払) |
| 役員→会社への支払(賃貸料相当額) | 年24万円(給与天引き等で徴収) | 該当なし |
| 会社の実質年間負担(目安) | 約216万円(240万円-24万円) | 報酬240万円+社会保険料会社負担分(仮に15%=約36万円)=約276万円 |
| 役員個人への現物給与課税 | なし(賃貸料相当額以上を負担しているため) | -(もともと現金給与のため通常の所得税・住民税・社会保険料の対象) |
| 役員の自己負担・手取り影響(目安) | 自己負担は年24万円のみ | 額面240万円の手取りは240万円×(1-30%-15%)=約132万円。ここから家賃240万円を払うと約108万円が持ち出しになる目安 |
この仮定モデルでは、役員社宅方式は会社の実質負担が約216万円で済み役員の自己負担は年24万円にとどまる一方、役員報酬を増額して自分で家賃を払う方式は会社コストが約276万円に膨らんだうえ、役員の手取りだけでは家賃を払いきれず約108万円の持ち出しが生じる、という目安の結果になりました。数値は所得水準・保険料率・自治体によって変わるため断定はできませんが、「家賃負担を役員個人の現金給与で賄うより、会社が地代家賃として負担する方が税・社会保険料コストの面で有利になりやすい」という傾向は多くのケースで当てはまります。実際の意思決定にあたっては、自社の役員報酬水準や社会保険の等級を踏まえて税理士に確認することをおすすめします。






税務調査で否認リスクを下げる実務要件と注意点
役員社宅で給与課税を避けるための最大の要件は、役員が毎月「賃貸料相当額」以上を会社に支払っていることです。無償で貸与している場合や、賃貸料相当額に満たない金額しか受け取っていない場合は、賃貸料相当額との差額(無償の場合は全額)が給与として課税されます。従業員(役員でない一般社員)向けの社宅では賃貸料相当額の50%以上の徴収でよいとされていますが、役員の場合は原則として賃貸料相当額の全額を徴収する必要がある点が、一人社長が特に注意すべきポイントです。
否認リスクを下げやすい運用
賃貸借契約は必ず会社名義で締結/賃貸料相当額以上を毎月の給与天引き等で継続的に徴収/固定資産税課税標準額の資料を保存/床面積は小規模住宅の範囲に収める
否認リスクが高まりやすい運用
役員個人名義で契約し会社が家賃相当を補填(単なる住宅手当扱い)/賃貸料相当額を計算せず一律少額しか徴収していない/徴収の記録が残っていない/床面積240㎡超や豪華な設備で豪華社宅に該当
特に多い否認事例が、賃貸借契約が役員個人名義になっているケースです。会社が家賃相当額を役員に支給していても、契約者が役員個人であれば「社宅の貸与」ではなく単なる住宅手当(現金給与)とみなされ、全額が給与課税の対象になるリスクが高まります。物件探しの段階から、契約者を会社にできるかどうかを不動産会社・家主に確認しておくことが実務上の出発点になります。また、賃貸料相当額の徴収は「口約束」ではなく、給与規程や社宅使用規程に明記したうえで給与天引き等の記録を残し、固定資産税課税標準額の根拠資料も保存しておくことで、税務調査時の説明がしやすくなります。






役員社宅を始める前に押さえる実務ポイント(書類・費用・消費税)
役員社宅は「制度の骨格」だけでなく、賃貸料相当額の計算に必要な書類の入手、社宅にかかる費用の負担区分、消費税の扱いでつまずきがちです。導入前に、次の4つの実務ポイントを押さえておきましょう。ここを外すと、せっかくの節税効果が薄れたり、税務調査で指摘を受けたりする原因になります。






賃貸料相当額の計算に必要な「固定資産税の課税標準額」の調べ方
賃貸料相当額の計算には、建物・敷地それぞれの固定資産税の課税標準額が必要です。入手ルートは主に2つあります。①毎年4〜6月ごろに物件の所有者へ届く「固定資産税・都市計画税の課税明細書」を、貸主(家主)や管理会社から見せてもらう方法。②市区町村の窓口で「固定資産評価証明書」を取得する方法です。借り上げ社宅では、会社(借主)でも賃貸借契約書を持参すれば評価証明書を取得できる場合があります。ただし、管理会社からの又貸し(転貸)物件などでは借主が証明書を取得できないこともあるため、契約前に「固定資産税の課税標準額がわかる資料の提供に協力してもらえるか」を確認しておくと安心です。資料が入手できないと正確な賃貸料相当額を計算できず、実務では家賃の一定割合で徴収せざるを得なくなります。
「現況床面積」に注意——タワーマンションは小規模判定を外しやすい
小規模住宅かどうかの床面積判定は、専有部分の面積だけでなく、共用部分(廊下・エントランス・エレベーターホール等)を各戸に按分して加えた「現況床面積」で行います。専有面積が60㎡程度でも、共用部分が広い物件では現況床面積が99㎡(木造以外の場合)を超え、小規模住宅の区分から外れてしまうことがあります。特に共用設備が充実したタワーマンションは、この現況床面積が膨らみやすく、借り上げ社宅としては小規模判定を外して節税効果が下がりやすい点に注意が必要です。物件選びの段階では、専有面積だけで「小規模に収まる」と判断しないようにしましょう。
社宅にかかる費用の負担区分(会社が持てるもの・持てないもの)
社宅として会社が負担できるのは、住まいそのものにかかる費用です。家賃・共益費・管理費のほか、契約時の敷金・礼金・保証金・仲介手数料などが会社負担(経費または資産計上)の対象になります。一方、水道光熱費・引越し費用・駐車場や駐輪場の使用料などは、個人が負担すべき生活費・私的費用とされ、会社が負担すると給与課税の対象になり得ます。「家賃まわりは会社、暮らしのランニングコストは個人」と切り分けて経理処理するのが基本です。
消費税の扱い——居住用の社宅家賃は「非課税」
見落としやすいのが消費税です。居住用として貸し付けられる住宅の家賃は消費税が非課税とされているため、会社が家主に支払う社宅家賃は「課税仕入れ」にならず、仕入税額控除の対象外です。同様に、役員から受け取る社宅使用料も非課税売上として扱います。会計ソフトで社宅家賃を課税仕入れのまま入力すると消費税の計算を誤るおそれがあるため、税区分の設定に注意しましょう(課税対象となる駐車場代などの費目とは区分して処理します)。
よくある質問(FAQ)
- 役員社宅の賃貸料相当額はどこで確認できますか?
-
賃貸料相当額の計算に必要な「固定資産税の課税標準額」は、家主が保有する納税通知書のほか、物件所在地の市区町村(資産税課)の固定資産課税台帳で確認できます。会社が家主に直接依頼して確認する、または不動産会社を通じて確認する方法が実務上一般的です。借り上げ社宅では、賃貸借契約書を持参して市区町村で固定資産評価証明書を取得できる場合もあります。
- 役員が賃貸料相当額を1円でも下回ったらどうなりますか?
-
役員の場合、賃貸料相当額に満たない金額しか支払っていないと、原則としてその差額が給与として課税されます。従業員(役員でない一般社員)は賃貸料相当額の50%以上の徴収でよいとされていますが、役員は全額の徴収が必要な点に注意が必要です。
- 賃貸物件を会社名義に変更できない場合、役員社宅の節税メリットは使えませんか?
-
契約者が役員個人のままだと、会社が家賃相当額を負担しても社宅の貸与とはみなされず、住宅手当(現金給与)として全額が給与課税の対象になるリスクが高くなります。役員社宅として制度を使うには、会社と家主との間で賃貸借契約を締結できるかどうかを事前に確認することが前提になります。
- 豪華社宅に該当するかどうかはどう判断すればよいですか?
-
床面積240㎡を超える住宅は豪華社宅に該当しやすいとされていますが、それだけでなく取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況、プールなど個人的な嗜好を反映した設備の有無などから総合的に判定されます。豪華社宅に該当すると、賃貸料相当額は通常の使用料相当額(時価)となり、節税メリットはほぼなくなります。
- 賃貸料相当額の徴収はどのように記録しておけばよいですか?
-
社宅使用規程や給与規程に賃貸料相当額の金額と徴収方法を明記したうえで、給与天引きなど継続的な徴収の記録を残しておくことが望ましいとされています。あわせて賃貸料相当額の計算根拠となる固定資産税課税標準額の資料も保存しておくと、税務調査の際に説明がしやすくなります。
まとめ:一人社長の役員社宅導入ステップ



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