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2026年7月21日に閣議決定された「骨太方針2026」で、政府は「遅くとも2030年代前半に全国平均1,500円」という最低賃金の目標を改めて明記しました。さらに7月23日の中央最低賃金審議会では、労働側が過去最大級の引き上げを要求しています。「従業員を雇っている個人事業主は人件費がいくら増えるのか」「一人社長の自分には関係ないのか」——本記事では、国の一次資料をもとに、個人事業主・一人社長がいま打つべき4つの対策(人件費の試算・価格転嫁・節税・資金繰り)を、公認会計士試験合格者が実務目線で整理します。
📌 この記事でわかること
- 骨太方針2026で「最低賃金1,500円」がいつまでに目指されるのか(正確な文言)
- 時給が1,500円まで上がると、従業員1人あたり年間いくら人件費が増えるかの試算
- 価格転嫁の交渉に使える「労務費転嫁指針」「取適法」という国の後ろ盾
- 賃上げ促進税制の「繰越控除」を個人事業主が令和7年分から使う方法
- 一人社長・従業員がいない個人事業主が受ける“間接的な”影響と備え
ぜいむたん


骨太方針2026で「最低賃金1,500円」はいつから?個人事業主への影響
結論から言うと、「2030年代前半までに全国平均1,500円」が政府の公式目標です。ただし毎年の引き上げ額は審議会で決まるため、2026年度も10月から大幅な上昇が見込まれます。従業員を雇う個人事業主にとっては、数年かけて人件費が段階的に上がっていく前提で経営を組み直す必要があります。
骨太方針2026の正確な記述
2026年7月21日に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太方針2026)の本文には、次のように書かれています。
「最低賃金については、2020年代に全国平均1,500円という高い目標(骨太方針2025)の達成に向け、官民でたゆまぬ努力を継続し、労働生産性の継続的な向上を図ることで、遅くとも2030年代前半できる限り早期に全国平均1,500円を達成する。」 出典:内閣府『経済財政運営と改革の基本方針2026』(令和8年7月21日閣議決定)本文p.11
ポイントは、「2020年代に1,500円」という当初の目標は前年の骨太方針2025で掲げられたもので、骨太方針2026では現実的な達成時期として「遅くとも2030年代前半」と幅を持たせつつ、できる限り前倒しする姿勢を示した点です。つまり、時期に多少の幅はあっても、「1,500円に向かって毎年上がり続ける」という方向は固まったと考えるのが実務的です。
2026年度は「過去最大級」の引き上げが議論されている
足元の2026年度の改定額も注目です。2026年7月23日の中央最低賃金審議会(目安に関する小委員会)では、労働側が現行の全国平均(1,121円)からの大幅な引き上げを要求し、経営側と折り合わず結論は持ち越し、7月末の決着を目指すとされています。例年、目安答申は7月下旬、実際の発効は10月です。2026年10月の改定に向けて、いま準備を始めておくのが得策です。






最低賃金1,500円で個人事業主の人件費はいくら増える?【独自試算】
時給を1,100円から1,500円へ引き上げると、フルタイム相当の従業員1人あたり年間およそ80〜100万円の負担増になります(社会保険の事業主負担を含む概算)。ここでは前提を明示したうえで、筆者が自ら計算した試算を示します。
従業員数別・年間人件費増の試算
前提:時給1,100円 → 1,500円(+400円)、月間所定労働160時間、社会保険料の事業主負担を給与の約15%として概算(健康保険・厚生年金・労災・雇用保険の事業主負担分の合計イメージ。加入状況・料率により変動します)。
| 区分 | 従業員1人 | 従業員3人 | 従業員5人 |
|---|---|---|---|
| 給与の増加(月) | +64,000円 | +192,000円 | +320,000円 |
| 給与の増加(年) | +768,000円 | +2,304,000円 | +3,840,000円 |
| 社保事業主負担(年・約15%) | +約115,000円 | +約346,000円 | +約576,000円 |
| 年間の総負担増(概算) | 約88万円 | 約265万円 | 約442万円 |
あくまで概算ですが、従業員3人でも年間250万円超のインパクトになり得ます。しかも最低賃金の引き上げは、もともと最低賃金より上で働いていた人の給与も「逆転しないように」押し上げる圧力になるため、実際の負担は試算以上に膨らむこともあります。次章以降の対策で、この負担をどう受け止めるかが勝負です。
一人社長・従業員なしの個人事業主が受ける“間接的な”影響
「従業員はいないから関係ない」と思うのは早計です。一人社長・ひとり個人事業主にも、次のような間接的な影響が及びます。
① 外注・仕入コストの上昇
外注先や仕入先の人件費が上がれば、その分は単価に転嫁されてくる。あなたは“価格転嫁される側”になります。
② 自分の報酬・単価の見直し
最低賃金が上がる局面は、あなた自身の報酬単価を上げる交渉の“追い風”。据え置きは実質値下げです。
③ これから人を雇うときの前提
初めての採用を検討中なら、募集時給は「今の最低賃金」ではなく「数年後の水準」で設計しておくと安全です。






対策①価格転嫁——「労務費転嫁指針」と取適法という国の後ろ盾
賃上げ分を価格に反映する「価格転嫁」は、いまや国が制度で後押ししている正当な行為です。骨太方針2026でも、官公需における価格転嫁・取引適正化を「強力に推進する」と明記されました。民間取引でも、価格交渉をしやすくするための指針・法律が整備されています。
使える2つの後ろ盾:労務費転嫁指針と取適法
労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針
内閣官房・公正取引委員会が策定。発注者・受注者それぞれが取るべき行動を12の項目で示し、「労務費上昇分の価格転嫁は正当」という土台を作っています。交渉時にこの指針を根拠として示せます。
取適法(中小受託取引適正化法)
下請法の後継として整備された法律。買いたたきや一方的な単価据え置きを規制し、中小・小規模事業者が価格交渉しやすい環境づくりを進めています。
価格交渉を通すための3ステップ
中小企業庁は価格交渉のノウハウ・ハンドブックを公開しています。要点は「原価の見える化」です。感覚ではなく、根拠資料を用意することが交渉成功の鍵になります。
人件費・材料費・経費に分け、労務費が何円/何%上がったかを数字で示す資料を作ります。
「労務費転嫁指針に沿った適正な転嫁のお願い」として交渉すれば、値上げ要請が“わがまま”ではなく“正当”になります。
最低賃金は毎年上がる前提。単価も年1回は見直すルールを取引先と共有しておきます。






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原価の“見える化”は、日々の記帳の精度から始まります
価格転嫁の交渉資料も、賃上げ促進税制の申告も、土台は正確な会計データです。マネーフォワード クラウド会計なら、銀行・カード連携で人件費や経費を自動で集計。原価構造を可視化し、交渉にも節税にも使える帳簿を無理なく整えられます。
マネーフォワード クラウド会計を見る →対策②節税——賃上げ促進税制の「繰越控除」を令和7年分から使う
従業員の給与を前年より増やした個人事業主は、増加額の一部を所得税から差し引ける「賃上げ促進税制」が使えます。しかも令和6年度改正で、控除しきれない分を5年間繰り越せる措置が新設され、赤字の年でも将来取り戻せるようになりました。個人事業主がこの繰越控除を使えるのは令和7年分(2025年分・2026年3月申告)からです。
中小・個人事業主向けの控除率(最大45%)
| 要件 | 内容 | 控除率 |
|---|---|---|
| 通常 | 給与等支給額が前年比 +1.5%以上 | 15% |
| 上乗せ① | 給与等支給額が前年比 +2.5%以上 | +15% |
| 上乗せ② | 教育訓練費が前年比 +5%以上 ほか | +10% |
| 上乗せ③ | くるみん・えるぼし等の認定 | +5% |
| 最大 | すべて満たした場合 | 45% |
たとえば給与を年間80万円増やし、通常+上乗せ①で30%の控除が使えるなら、24万円を所得税から直接差し引ける計算です(他の要件・所得税額により上限あり)。制度の詳細は中小企業庁の賃上げ促進税制ページで確認できます。
赤字でも取り返せる「5年繰越控除」と、令和8年度改正の注意点
これまでは、賃上げをしても所得税額が小さい(=赤字ぎみの)個人事業主は控除枠を使いきれず“もらい損ね”ていました。令和6年度改正の繰越控除により、控除しきれなかった分を翌年以降5年間繰り越せるようになり、賃上げ→翌年黒字化で回収、という設計が可能になりました。個人事業主は令和7年分から適用されます。






対策③助成金——業務改善助成金で設備投資を賄う
賃上げを「コスト」で終わらせず、生産性向上への投資に変えるのが業務改善助成金です。厚生労働省の業務改善助成金は、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げ、あわせて生産性向上に資する設備投資(機械・システム・POSレジ等)を行った中小企業・個人事業主に、その費用の一部を助成する制度です。
仕組み
「賃金の引上げ額」×「対象となる労働者数」で助成上限が決まり、対象人数が多いほど上限額が大きくなります。設備投資費用に助成率を掛けた額が支給されます。
賃上げ促進税制との違い
税制は「税金を減らす」、助成金は「現金が入る」。両方を組み合わせれば、賃上げ負担を税務と資金の両面から受け止められます。
助成の上限額・助成率・対象経費・申請期限はコースや年度で変わります。申請は「設備投資の前」に交付申請が必要で、事後申請は認められないのが原則です。導入を考えているなら、購入前に厚生労働省の最新の公募要領を確認してください。






対策④資金繰り・社会保険の最適化で手元資金を守る
賃上げは「毎月の固定費が増える」話なので、資金繰りへの影響を年間ベースで先に見積もっておくことが欠かせません。人件費は社会保険料の事業主負担とセットで増えるため、キャッシュアウトは給与増加額よりも大きくなります。
やっておきたい3つのこと
① 年間資金繰り表を作る
賃上げ後の人件費・社保をのせて、月ごとの資金残高をシミュレーション。ボーナス月・納税月の谷を可視化する。
② 社会保険の加入区分を確認
短時間労働者の社会保険適用拡大が進行中。パートの労働時間設計は、本人の手取りと事業主負担の両面で見直す。
③ 資金調達の余力を確保
賃上げ原資の低利融資・制度融資も拡充傾向。運転資金の枠は「使う前」に相談・確保しておくと安心。
なお、事業規模が大きくなり社会保険や税負担が重くなってきた個人事業主は、法人化(マイクロ法人・法人成り)による社会保険・役員報酬の最適化が選択肢に入ることもあります。ただし手続き・維持コストとの兼ね合いがあるため、数字で比較して判断するのが安全です。






よくある質問(FAQ)
- 最低賃金1,500円はいつから適用されますか?
-
「1,500円」は特定の年に一斉適用される金額ではなく、政府が「遅くとも2030年代前半までに全国平均で達成する」と掲げる目標です。実際の最低賃金は毎年10月に改定されるため、目標年を待たずに毎年段階的に上がっていきます。2026年度も10月に改定される見込みです。
- 従業員がいない一人社長には関係ないですか?
-
直接の人件費増はありませんが、外注先・仕入先のコスト上昇が単価に転嫁される「間接的な影響」を受けます。逆に、自分の報酬単価を見直す好機でもあります。据え置きは実質的な値下げになるため、価格改定の交渉材料として活用しましょう。
- 賃上げ促進税制と業務改善助成金は両方使えますか?
-
制度上、両方を活用することは可能です。賃上げ促進税制は「所得税を減らす」、業務改善助成金は「現金の助成を受ける」もので役割が異なります。ただし助成金は設備投資の前に交付申請が必要、税制は要件・控除率が年度で変わるなど、それぞれに条件があります。適用の可否は個別に確認してください。
- 価格転嫁を取引先に断られたらどうすればいいですか?
-
まずは原価(特に労務費の上昇分)を数字で示した資料を用意し、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」に沿った適正な要請であることを伝えます。それでも一方的な据え置きが続く場合は、取適法(中小受託取引適正化法)の観点から、中小企業庁の相談窓口や下請かけこみ寺などに相談することも検討できます。
まとめ:最低賃金1,500円時代に、個人事業主がやるべきこと
最低賃金1,500円は「いつか来る遠い話」ではなく、毎年10月に一歩ずつ近づく現実です。慌てて人件費に押しつぶされる前に、次の順番で手を打ちましょう。
従業員数・時給から、社会保険の事業主負担込みの年間負担増を先に把握する。数字が見えれば打ち手の優先順位も決まります。
原価の見える化+労務費転嫁指針を根拠に、取引先との単価を年1回見直すルールを作る。
令和7年分から使える5年繰越控除も含め、給与増加額の最大45%を所得税から控除する。
業務改善助成金で設備投資を賄い、年間資金繰り表で納税月・賞与月の谷を先に潰す。
これらの対策の土台は、どれも「正確な会計データ」です。人件費の推移も、価格交渉の原価資料も、賃上げ促進税制の給与増加額も、日々の記帳がきちんとできていて初めて出てきます。まずは足元の帳簿を整えるところから始めましょう。



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