「サラリーマンは経費が使えない」——そう思っていませんか?実は半分正解で、半分間違いです。給与所得者の特定支出控除という制度を使えば、スーツ代・資格取得費・研修費を実質的に経費として控除できます。ただし全国で年間数千件しか申告されていない現実もあります。条件は正直厳しめですが、公認会計士試験・税理士試験・弁護士試験の費用なども「会社が業務上必要と認めれば」対象になります。
令和7年改正に完全対応した正確な条件と手順を解説します。
- 特定支出控除の対象となる7種類の支出(通勤費・研修費・資格取得費など)
- スーツ代・資格取得費(公認会計士試験も)が経費になる具体的な条件
- 令和7年改正後の計算方法と年収別シミュレーション(300万〜1,000万円)
- 確定申告の具体的な手順と必要書類3点
特定支出控除とは?給与所得者が使える唯一の経費控除制度
特定支出控除とは、所得税法57条の2に規定された制度で、給与所得者が一定の支出を行った場合に、給与所得控除とは別に追加で所得から差し引ける仕組みです。会社員・公務員など給与収入のある人が対象で、確定申告を通じて申請する必要があります。
会社員は「給与所得控除」という概算控除が自動適用されるため、個別の経費を申告できないと思われがちですが、その給与所得控除を超える実費支出があれば、超えた分を追加控除できるのがこの制度の核心です。国税庁 No.1415「給与所得者の特定支出控除」が一次情報です。
給与所得控除 vs 特定支出控除 — 違いを比較
年収に応じた定額が自動適用。申告不要で誰でも適用される。実際の支出額は関係ない概算控除。
実費支出を確定申告で申請。給与所得控除額×1/2を超えた分だけ追加控除。勤務先の証明書が必須。
令和7年12月1日施行・令和7年分以後適用。給与所得控除の最低保証額が55万→65万円に引き上げ。低収入層の控除ハードルが若干上昇。
令和7年改正の詳細は国税庁の公式ページで確認できます。低収入層(年収300万円程度)は特定支出控除の計算基準が最低27.5万円から最低32.5万円に上昇するため、やや適用ハードルが上がる方向の改正です。
ぜいむたん


対象となる7種類の特定支出(スーツ代・資格取得費の詳細)
特定支出として認められる支出は法律で7種類に限定されています。「なんでもかんでも経費にできる」わけではないため、まずどの支出が対象かを把握しておくことが大切です。
特定支出の7種類(所得税法57条の2)
通勤に必要な交通費のうち、会社から支給されていない部分。在宅勤務で支給がなくなった場合も対象になりうる。
職務の遂行上必要な旅行費用のうち会社未支給分。出張旅費が自己負担になっているケースが対象。
転勤に伴う引越し費用のうち会社未支給分。転勤命令を受けた場合に適用可能。
職務に直接必要な技術・知識の習得のための研修費用。会社命令・自主参加を問わず業務必要性の証明が必要。
弁護士・公認会計士・税理士等の資格取得費が平成25年〜対象。受験料・通学費・テキスト代を含む。合否不問。
単身赴任者が帰宅する際の交通費。月4回以内が目安とされている。
衣服費(スーツ等)・図書費・交際費等の3種。合計65万円が算入前スクリーニングの上限。
⑤資格取得費の詳細:公認会計士・税理士試験も対象に
資格取得費(第五号)は、弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士などの国家資格取得のための費用が対象です。平成25年の法改正で対象が大幅に広がり、受験費用・通学費用・教材費(テキスト・問題集)も含まれるようになりました。合格・不合格を問わず、その年の支出全額が対象になるのがポイントです。
ただし最も重要な条件は「会社(給与等の支払者)が業務上必要と証明すること」です。
例えば監査法人・金融機関に勤務していて、公認会計士試験の取得が業務上必要と会社が認めれば対象になる。
キャリアコンサルタントによる証明が代替できるのは「令和5年分以後かつ厚生労働大臣指定の教育訓練給付指定講座に係る部分のみ」という非常に限定的なケースだけで、一般的な受験費用は勤務先証明が原則必須です。詳しくは厚生労働省の特定支出控除キャリアコンサルタント証明制度ページを確認してください。
⑦勤務必要経費の65万円上限(算入前スクリーニング)
勤務必要経費(衣服費・図書費・交際費等)には合計65万円という上限があるのですが、これは「算入前スクリーニング」という意味です。つまり65万円を超えた部分は控除の計算式に入れることができず、65万円が計算式に算入できる上限となります。65万円以下の場合はその実額を計算式に算入します。
スーツ代等の衣服費は、キャリアコンサルタントによる証明では対象になりません。衣服費は常に「勤務先(給与等の支払者)の証明書」が必須です。この点は誤解が多いため注意してください。






【最難関】特定支出控除が適用される3つの条件(なぜ使える人が少ないのか)
特定支出控除は「知っているだけで得する制度」では残念ながらない。実際に全国でも年間数千件(国税庁の統計では令和3年分で約3,600件)しか申告されておらず、10万人に3人程度しか使っていない制度という現実がある。その理由は3つの条件が高いハードルを設けているためです。
条件①:特定支出合計額が「給与所得控除額×1/2」を超えること
最大のハードルがこれです。例えば年収600万円の人は給与所得控除額が174万円で、その半分の87万円を特定支出合計が超えないと控除が発生しません。
87万円以上をスーツ代・資格費用・書籍代などで自己負担するのは、多くの会社員にとって現実的に難しい。年収400万円でも基準額は62万円超が必要になるため、単発の支出では到底届かないレベルです。
条件②:勤務先の証明書が必須(一部はキャリアコンサルタント代替可)
全ての特定支出において「給与等の支払者(会社)の証明書」が必要です。
会社が「この支出は業務上必要」と証明してくれないと申告できません。実務上、この証明書の発行を会社が拒否するケースや、証明書発行の手続きを知らない会社も多く、ここで断念してしまう人が多い。
令和5年分以後は、厚生労働大臣指定の教育訓練給付指定講座に限りキャリアコンサルタントによる証明が代替できるようになりましたが、適用範囲は限定的です。
条件③:会社から補填・支給されていない自己負担分のみ
通勤費は大半の会社で全額支給されているため特定支出として計上できないし、出張旅費も会社負担が一般的なので対象外になることが多いです。会社が一部でも補填している場合は、補填を受けた部分を除いた自己負担分だけが特定支出として計上できます。
- 通勤費は会社支給が一般的で、自己負担分がほぼ発生しない
- 基準額超えが困難(年収600万円でも87万円以上の自己負担が必要)
- 証明書取得が実務上のハードル(会社が対応方法を知らない・拒否するケース多数)






【令和7年改正対応】年収別・控除適用のための最低支出額シミュレーション
特定支出控除の計算式は少し複雑なので、まず式を理解してから年収別の具体的な数字を確認してください。
給与所得金額 = 給与収入 − { 給与所得控除額 + (特定支出合計額 − 給与所得控除額×1/2) }
つまり「特定支出合計 − 給与所得控除額×1/2」がプラスになった分だけ、給与所得控除後の所得から追加で差し引けます。粗収入からではなく、給与所得控除後の所得から差し引く点に注意してください。
年収別・特定支出控除の最低必要支出額シミュレーション(令和7年改正後)
給与所得控除額:98万円
基準額(×1/2):49万円超が必要
給与所得控除額:124万円
基準額(×1/2):62万円超が必要
給与所得控除額:144万円
基準額(×1/2):72万円超が必要
給与所得控除額:174万円
基準額(×1/2):87万円超が必要
給与所得控除額:190万円
基準額(×1/2):95万円超が必要
給与所得控除額:195万円
基準額(×1/2):97.5万円超が必要
令和7年改正前後で変化が大きいのは低収入層です。令和7年改正前は最低保証額が55万円だったため、最低基準額は27.5万円超だったが、改正後は65万円×1/2=32.5万円超になる。
年収300万円程度の方は基準が引き上がった点に注意が必要です。
実際に控除が使えるリアルなケース例としては、「監査法人勤務で公認会計士試験の受験費用50万円(勤務先証明あり)+専門書購入費20万円+スーツ代15万円=合計85万円」で年収550万円(基準額77万円超)をクリアするようなケースが挙げられます。複数の支出を合算することが実務上の鍵です。






スーツ代は特定支出控除になる?正直に解説
「スーツ代が経費になる」という話を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。正確に言うと、理論上は対象になり得るが、現実的なハードルは高いというのが正直なところです。
スーツ代が認められる条件(国税庁令和5年6月通達より)
国税庁が令和5年6月に発出した通達では、スーツ代等の衣服費が特定支出として認められる条件を具体的に示しています。
条件は「勤務場所での着用が必要な衣服」であることと「勤務先による証明書」の2点です。社内規定がなくても、「研修時に説明があった」「職場でのスーツ着用が慣行として定着している」などの事実があれば認定可能とされています。
逆に私服着用が慣行となっている職場は対象外です。スタートアップや私服OKのIT企業で「私服でも仕事できるけどスーツも買ってます」という場合は、業務必要性の証明が困難になります。
スーツ代で控除が通りやすい職種・状況
- 接客業(スーツ着用規定あり・または業界慣行として明確)
- 金融機関・証券会社・保険会社(外部顧客との接点があり正装慣行が明確)
- 士業事務所(税理士法人・監査法人など、クライアント対応でスーツが業界慣行)
- 管理職・役員(会社として正装を求める場合)
なお、勤務必要経費の65万円上限は「算入前スクリーニング」であることを再確認しておきます。スーツ代(衣服費)・図書費・交際費等の3種を合計した金額が65万円を超えた場合、65万円を上限として計算式に算入する。65万円超の部分は切り捨てられます。また衣服費はキャリアコンサルタント証明では代替できず、常に勤務先証明書が必須という点も忘れないでください。
年収500万円の場合、基準額は72万円超。スーツ代だけで72万円以上の自己負担は非現実的です。資格取得費・研修費・図書費などと合算して初めて控除が発生するケースがほとんどです。






特定支出控除の確定申告手順(ステップ解説)
特定支出控除を実際に申告するには、年中を通じた準備と確定申告期間での手続きが必要です。以下の4ステップで進めましょう。
特定支出に該当する可能性がある支出(スーツ購入費・資格受験料・テキスト代・研修費等)の領収書をすべて保管しておきましょう。年の途中から始めても遡ることはできないため、1月から意識してファイリングしておくのがベストです。クレジットカードの明細も証拠書類として活用できるから、専用のフォルダを作っておくと管理しやすい。
年末から翌年1月が証明書発行の依頼タイミングとして最適です。依頼先は会社の総務部・人事部・経理部などです。依頼の際は「所得税法57条の2に基づく特定支出控除を申告するため」と説明すれば担当者もわかりやすい。断られた場合は、衣服費・交際費等は諦めざるを得ないが、厚生労働大臣指定の教育訓練給付指定講座に係る資格取得費については、キャリアコンサルタントによる証明が代替手段となる(令和5年分以後)。
申告に必要な書類は①「給与所得者の特定支出に関する明細書」(国税庁のウェブサイトからダウンロード)②「勤務先からの証明書」③各支出の「領収書等の証拠書類」の3点や。明細書には特定支出の種類ごとに金額・内容・証拠書類番号を記入する。
国税庁e-Taxまたは確定申告書作成コーナーから申告できるで。確定申告ソフトを使えば特定支出控除の入力画面が用意されており、計算も自動で行われるため、手書きよりはるかに簡単や。
確定申告ソフトを使えば、特定支出控除の計算(給与所得控除額×1/2との比較)も自動で行ってくれます。初めての申告でも安心して使えます。






よくある質問(FAQ)
- 公認会計士・税理士試験の費用は特定支出控除の対象になりますか?
-
はい。会社(給与等の支払者)が「業務上必要」と証明してくれれば、受験費用・通学費・テキスト代を含めて資格取得費として対象になります。ただし「キャリアコンサルタントの証明」では代替できず、勤務先の証明書が必須です。監査法人・金融機関等での会計業務に就いている場合は比較的証明を受けやすいです。合格・不合格を問わずその年の支出全額が対象となる点も重要です。
- スーツ代だけで特定支出控除を受けられますか?
-
スーツ代は「勤務必要経費(衣服費)」として対象になりますが、特定支出合計が「給与所得控除額×1/2」を超える必要があります(例:年収500万円なら72万円超が必要)。スーツ代単独で要件を満たすのは現実的に困難なため、資格取得費・研修費・書籍費等と合算して申告するのが実務的な対応です。また衣服費には常に勤務先証明書が必要です。
- 令和7年改正で特定支出控除はどう変わりましたか?
-
令和7年12月1日施行で給与所得控除の最低保証額が55万円から65万円に引き上げられました。これにより、特定支出控除の計算基準(給与所得控除額×1/2)の最低値も27.5万円から32.5万円に上昇しました。低収入層の控除適用ハードルが若干高くなる方向の改正です。年収が高い層(年収500万円超程度)への影響は限定的です。
- 会社が証明書を発行してくれない場合はどうすればいいですか?
-
残念ながら会社が証明を拒否した場合、衣服費・交際費等の勤務必要経費については代替手段がありません。資格取得費・研修費については、厚生労働大臣指定の教育訓練給付指定講座に該当する場合のみキャリアコンサルタントによる証明が認められています(令和5年分以後)。該当しない場合は当該支出を特定支出として計上することはできません。
- 副業収入がある場合でも給与所得者の特定支出控除を受けられますか?
-
はい。特定支出控除は「給与所得」に係る控除であるため、副業収入(事業所得・雑所得)の有無に関わらず、給与所得の範囲で申告可能です。副業所得は別途事業経費として計上します。特定支出控除と副業の事業経費を混在させることはできませんが、それぞれ独立して計上できます。






特定支出控除 まとめ:使える人が取るべき3ステップ
まず「年収から自分の給与所得控除額×1/2(基準額)」を計算し、1年間の特定支出候補(受験料・スーツ代・書籍費・研修費など)を合算してみる。基準額を超えそうなら本格的に準備する価値があります。
総務部・人事部・経理部に「所得税法57条の2に基づく特定支出控除の証明書発行」を依頼する。拒否されたり手続きが遅れると申告できなくなるため、年末前に余裕を持って相談することが大切です。
マネーフォワードクラウド確定申告またはfreeeで申告書を作成する。特定支出控除の計算(給与所得控除額×1/2との比較・控除額の算出)は自動で行われるため、証明書と領収書を揃えれば入力するだけで完了します。
特定支出控除は「知っていれば使える制度」ではなく、「準備した人だけが使える制度」です。年間数千件しか申告されていない現実は、多くの人が制度を知らないか、証明書取得の手間を敬遠しているためです。公認会計士・税理士試験の受験費用や高額な研修費用がある人は、ぜひ年初から意識して準備してみてください。



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この記事の監修
公認会計士試験合格者が在籍。税務・会計の実務経験に基づき、正確な情報提供を心がけています。
公認会計士試験合格者在籍、Big4監査法人・税理士法人での実務経験、財務省勤務経験
免責事項
本記事の内容は情報提供を目的としたものであり、特定の税務判断を推奨するものではありません。具体的な税務・会計の判断については、必ず税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。記事の内容は執筆時点の法令・制度に基づいています。


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