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「10,000円の請求に対して9,560円しか振り込まれてこない」——振込手数料を差し引かれて入金されたとき、経理担当者が最初にぶつかるのが「これは売上値引きなのか、支払手数料なのか」という仕訳の判断と、「返還インボイス(適格返還請求書)は交付しなければいけないのか」という2つの疑問です。本記事では、契約上の負担者と金額を入力するだけで処理方法を判定できるツール、税率別の仕訳早見表、そして国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問28〜問30の原文に基づいた返還インボイスの交付要否を、実務目線でまとめます。なお、税務署に相談する前に社内で判断に迷いやすいのは「契約で買手負担と決めているのに一方的に差し引かれた場合」と「契約や商慣習で売手負担になっている場合」を混同してしまうケースです。本記事はこの2つを明確に分けて解説します。
📌 この記事でわかること
- 振込手数料を差し引かれたときの「売上値引き」と「支払手数料」の使い分け基準(契約上の負担者で決まる)
- 差し引かれた金額・負担者の取り決めを入力すると処理方法と返還インボイスの要否を自動判定する内蔵ツール
- 売上値引き/支払手数料×標準税率10%・軽減税率8%の仕訳パターン早見表
- 返還インボイス(適格返還請求書)の税込1万円未満・交付義務免除の判定単位(国税庁Q&A問28原文)
- 売手が振込手数料を負担する3パターン(売上値引き/役務提供の対価/買手の立替払い)の違い(国税庁Q&A問29・問30原文)
- 買手側が仕入税額控除で見落としがちな注意点
ぜいむたん


振込手数料が引かれて入金されたときの結論|まず「契約上の負担者」を確認する
振込手数料を差し引かれて入金された場合の処理は、契約や商慣習で「誰が振込手数料を負担することになっているか」によって結論が変わります。ここを取り違えると、消費税の処理も、そもそも経理処理に進んでよいかどうかも誤ってしまいます。
整理すると次の2つのケースは全くの別問題です。
- ケースA: 契約や商慣習で「振込手数料は売手(請求した側)が負担する」と決まっている、または特に取り決めがなく実務上そうなっている → 会計処理の話(売上値引きか支払手数料かを選ぶ)
- ケースB: 契約で「振込手数料は買手(支払う側)が負担する」と明記されているのに、買手が一方的に差し引いて振り込んできた → 契約履行の話(まず是正を求めるのが先で、会計処理はその後)
本記事が主に扱うのは、実務で圧倒的に多いケースAです。国税庁のインボイスQ&A(問29・問30)も、このケースAを前提に処理方法を示しています。ケースBについては後述の判定ツールで個別に案内します。






仕訳判定ツール|売上値引き・支払手数料・返還インボイス要否を診断
負担者の取り決めと差し引かれた金額を入力すると、①どちらの科目で処理すべきか、②返還インボイス(適格返還請求書)の交付が必要かどうかを同時に判定します。
🧮 振込手数料の仕訳・返還インボイス判定ツール
税理士法人での実務では、この判定ツールが出す結論のうち特に見落とされやすいのが「契約で買手負担と決めているのに差し引かれた」ケースです。会計処理を先に決めてしまうと、後から契約上の負担者を確認したときに仕訳をやり直す二度手間が発生します。まず負担者の取り決めを確認する順序を徹底してください。
売上値引き処理と支払手数料処理の違い
売上値引き処理とは
差し引かれた振込手数料相当額を、自社の売上に対する値引きとして処理する方法です。消費税法上は「売上げに係る対価の返還等」(消法38)に該当し、課税標準額に対する消費税額からこの返還等に係る消費税額を控除できます。国税庁のインボイスQ&A問29はこの処理を前提に解説しています。
支払手数料処理とは
差し引かれた金額を、金融機関の振込手数料を自社が負担した「支払手数料」として処理する方法です。この場合、その振込手数料相当額を課税仕入れとして扱うことになりますが、原則としては買手が金融機関から受け取った適格請求書(または買手が作成した立替金精算書等)の保存が必要になります(問29の2・3のパターン。詳しくは後述します)。
判定のポイント|契約上の負担者と経理方針で決める
国税庁のQ&A問30では、「支払手数料として経理処理していたものを、インボイス制度開始後に売上げに係る対価の返還等としての経理処理に変更することは問題ない」と明記されています。つまり、税務上どちらか一方に固定しなければならないわけではなく、自社の経理システムや運用のしやすさに合わせて選べます。ただし、支払手数料として経理しつつ消費税法上は売上げに係る対価の返還等として扱う場合は、通常の支払手数料と区別できるようコード管理するなどの対応が必要になる点に注意してください。








【仕訳早見表】売上値引き×支払手数料×税率別パターン
10,000円(税込)の請求に対し、振込手数料440円が差し引かれて9,560円が入金されたケースを例に、標準税率10%・軽減税率8%それぞれの仕訳を整理します。
| 処理方法 | 税率 | 借方 | 貸方 | 消費税区分 |
|---|---|---|---|---|
| 売上値引き(標準10%) | 10% | 普通預金 9,560円 売上値引き 440円 |
売掛金 10,000円 | 売上値引き=課税売上げに係る対価の返還等(標準10%) |
| 売上値引き(軽減8%) | 8% | 普通預金 9,560円 売上値引き 440円 |
売掛金 10,000円 | 売上値引き=課税売上げに係る対価の返還等(軽減8%・元取引の税率に従う) |
| 支払手数料(買手発行インボイス保存) | 10% | 普通預金 9,560円 支払手数料 440円 |
売掛金 10,000円 | 支払手数料=課税仕入れ(買手から受領した適格請求書または立替金精算書等の保存が必要) |
| 支払手数料(帳簿記載のみ・1万円未満特例) | 10% | 普通預金 9,560円 支払手数料 440円 |
売掛金 10,000円 | 一定規模以下の事業者は少額特例(令和5年10月〜令和11年9月・帳簿のみ保存)の対象になりうる |
なお、支払手数料として処理する場合に「一定規模以下の事業者」が使える帳簿のみ保存の経過措置(少額特例)の対象者・期間の判定は別記事「インボイスの2割特例を徹底解説!計算方法・申告書の書き方から終了後の対応策まで」で詳しく解説しているので、あわせて確認してください。
返還インボイス(適格返還請求書)の交付義務と1万円未満の判定単位
売上げに係る対価の返還等(値引き・返品・割戻しなど)を行った場合、インボイス発行事業者には原則として返還インボイス(適格返還請求書)の交付義務があります。ただし、その税込価額が1万円未満である場合は、この交付義務が免除されます(消法57条の4第3項、消令70条の9第3項第2号)。これは令和5年度税制改正で設けられた恒久的な措置です。
1万円未満の判定単位|「1回の返還等の単位」で見る
国税庁インボイスQ&A問28では、この1万円未満の判定は「返還した金額や値引き等の対象となる請求や債権の単位ごと」に行うとされています(消費税法基本通達1-8-17)。原文の数値例を引用します。
- 500,000円の請求に対し、買手が振込手数料相当額440円を減額した499,560円を支払った場合 → 1万円未満の対価返還等であり、適格返還請求書の交付義務は免除される
- 400,000円の請求に関し、1商品当たり100円のリベートを後日支払い、合計額が20,000円になった場合 → 1万円以上の対価返還等であり、交付義務は免除されない
注意点として、この1万円かどうかの判定は、値引き等の金額に標準税率10%が適用されたものと軽減税率8%が適用されたものが混在している場合でも、適用税率ごとに分けて判定するのではなく、返還した金額や値引き等の対象となる請求・債権の単位ごとの減額金額で判定します。








負担者を確認する:契約書・取引基本契約・請求書の記載を確認し、振込手数料を売手・買手のどちらが負担する取り決めかを確認します。
差引額を確定する:請求額と入金額の差額(振込手数料相当額)を確認します。複数請求をまとめて相殺している場合は、請求単位ごとの減額額を分けて把握します。
処理方法を選ぶ:売手負担が確定していれば「売上値引き」または「支払手数料」のどちらかで経理処理します(社内方針で統一)。
返還インボイスの要否を判定する:売上値引きとして処理する場合、請求単位ごとの減額額が税込1万円未満であれば返還インボイスの交付は不要(帳簿記載のみ)。1万円以上なら交付が必要です。
売手が振込手数料を負担するケースの3パターン|国税庁Q&A問29
国税庁インボイスQ&A問29は、売手が振込手数料相当額を負担する場合の対応を、契約当事者間の関係により3パターンに分けて示しています。
①売手が振込手数料相当額を売上値引きとする場合
売手は、振込手数料相当額について売上げに係る対価の返還等を行ったことになるため、原則として買手に適格返還請求書を交付する必要があります。ただし前述のとおり、一般的にこうした振込手数料相当額は1万円未満となるため、その場合は交付義務が免除されます。
②振込手数料相当額を「代金決済上の役務提供の対価」とする場合
売手の買手に対する課税資産の譲渡等と、買手の売手に対する代金決済上の役務の提供(支払方法の指定に係る便宜)は、それぞれ別の課税資産の譲渡等として扱われます。この場合、売手が仕入税額控除の適用を受けるには、買手から交付を受けた適格請求書の保存が必要です。もしくは、売手が仕入明細書等を作成し買手の確認を受けて仕入税額控除を行うこともできます(消法30条9項3号)。
③買手が売手のために振込手数料を立替払いしたものとする場合
買手が売手に代わって金融機関に振込手数料を立替払いしたとする場合、売手は、買手が金融機関から受け取った適格請求書と、買手が作成した立替金精算書等の交付を受けて、振込手数料に係る仕入税額控除を行います(買手が差し引く金額が金融機関の振込手数料と同額である必要があります)。なお、買手が金融機関のATMを使って振込手続きを行った場合、そのATM手数料は3万円未満の自動販売機特例の対象となるため、適格請求書・立替金精算書等の保存は不要で、一定の要件のもと帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能です。


さらに注意点として、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)の適用対象となる取引では、当事者間の合意の有無にかかわらず、振込手数料を売手に負担させて代金から差し引くこと自体が禁止されています。該当しそうな取引がある場合は、公正取引委員会の「取適(トリテキ)法特設サイト」で確認することをおすすめします。






買手側の処理|支払手数料か立替金か・仕入税額控除で見落としがちな注意点
支払手数料として処理する場合
買手が振込手数料を自ら支払って(金融機関に手数料を払って)売手に全額を振り込んでいる場合は、通常の支払手数料として処理し、金融機関が発行するインボイス(適格簡易請求書に相当する振込明細等)を保存すれば仕入税額控除の対象にできます。この場合は売手側の返還インボイスの話とは無関係です。
立替金として処理する場合
問29の③のパターンのように、買手が売手のために振込手数料を立替払いしたと整理する場合、売手側が仕入税額控除を受けるためには、買手から金融機関発行の適格請求書と、買手作成の立替金精算書等の交付を受ける必要があります。買手側から見ると、この立替金精算書等を発行する事務負担が生じる点に注意してください。
税理士法人での実務では、振込手数料まわりの証憑保存を後回しにしている会社が少なくありません。金額が小さいからと軽視されがちですが、税務調査の現場ではこうした少額の対価返還等・仕入税額控除の処理が帳簿と整合しているかを確認されることがあります。処理方法を決めたら、社内の経理マニュアルに明記して運用をぶれさせないことが重要です。






よくある質問(FAQ)
- 振込手数料は売手と買手、どちらが負担するのが一般的ですか?
- 法律上一律の決まりはなく、契約や商慣習によります。実務では「振込手数料は振り込む側(買手)が負担する」慣行が広く見られますが、業界や取引によっては売手負担とする契約もあります。まずは契約書や取引基本契約の記載を確認してください。なお、下請法(取適法)の対象取引では、合意の有無にかかわらず振込手数料を売手に負担させる代金からの差し引きが禁止されています。
- 振込手数料440円のような少額でも、返還インボイスを本当に交付しなくていいのですか?
- 売上げに係る対価の返還等の税込価額が1万円未満であれば、返還インボイス(適格返還請求書)の交付義務は消費税法上免除されます(消法57条の4第3項、消令70条の9第3項第2号)。国税庁インボイスQ&A問29でも、440円の振込手数料相当額を例に「交付は必要ありません」と明記されています。ただし、取引先から取引先都合で交付を求められた場合に交付すること自体は妨げられません。
- 買手側は振込手数料分の仕入税額控除ができなくなることはありますか?
- 売手が振込手数料相当額を「売上値引き」として処理する場合、買手側では特に新たな課税仕入れは発生せず、通常どおり請求額全体で仕入税額控除を行います。一方、売手が「代金決済上の役務提供の対価」や「立替金」として整理する場合は、買手が金融機関から受け取ったインボイスや立替金精算書等を売手に交付する必要があるため、証憑のやり取りを怠ると売手側が仕入税額控除を受けられなくなるおそれがあります。自社がどちらの立場かを確認し、必要な証憑を用意しておきましょう。
- 経理処理を「支払手数料」から「売上値引き」に途中で変更しても問題ありませんか?
- 国税庁インボイスQ&A問30で、支払手数料としての経理処理からインボイス制度開始後に売上げに係る対価の返還等としての経理処理へ変更することは問題ないとされています。変更する際は、消費税法上「対価の返還等」として区分できるよう、経理システム上のコード管理などで通常の支払手数料と判別できるようにしておくことが推奨されています。
まとめ|振込手数料が引かれたときのチェックリスト
契約書・取引条件で振込手数料の負担者を確認する(買手負担なのに差し引かれた場合は、まず契約どおりの是正を求める)。
売手負担が確定していれば、社内方針に沿って「売上値引き」または「支払手数料」で仕訳処理する。
売上値引きとして処理する場合、請求・債権単位の減額額が税込1万円未満なら返還インボイスの交付は不要(帳簿記載のみ)。1万円以上なら交付する。
支払手数料や立替金として処理する場合は、買手からのインボイス・立替金精算書等の証憑保存を忘れずに行う。
ここまでの内容をチェックリストとして本記事内の判定ツールにも組み込んでいるので、実際の入金差異が発生したときはそのまま数値を入力して判定に使ってください。



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