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テナントに立ち退いてもらった、あるいは自分が立ち退いて立退料を受け取った。そのとき経理担当者が最初に詰まるのが「これ、消費税どうするの?」です。金額が数百万円から数千万円になることも珍しくないので、課税か不課税かを取り違えると納税額がまるごとずれます。
結論から書くと、立退料の消費税は原則として課税対象外(不課税)です。ただし例外が1つだけあり、そこを踏み外すと「課税売上を計上し忘れた」「仕入税額控除できないものを控除した」という形で表に出ます。この記事では、その分かれ目を通達の原文で確認したうえで、受取・支払 × 法人・個人 × 立退料の性格を選ぶだけで消費税・所得区分・仕訳まで出す判定ツールを用意しました。
📌 この記事でわかること
- 立退料が消費税の課税対象外になる根拠(消費税法基本通達5-2-7)と、唯一課税になる例外
- 受け取った立退料が譲渡所得・事業所得・一時所得のどれになるかの分け方(タックスアンサーNo.3155の3区分)
- 支払った立退料が損金・必要経費になるのか、それとも取得価額・譲渡費用に吸収されるのか(No.1382の4区分)
- 立場・法人/個人・立退料の性格を選ぶと消費税・所得区分・仕訳を返す立退料の税務判定ツール
- 受取側・支払側それぞれの仕訳パターン早見表と、契約書に何を書き分けておくべきか
ぜいむたん


立退料に消費税はかかる?原則は不課税、例外は1つだけ
建物の賃借人が立ち退きに伴って賃貸人から受け取る立退料は、消費税の課税対象外(不課税)です。根拠は消費税法基本通達5-2-7(建物賃貸借契約の解除等に伴う立退料の取扱い)で、原文はこう書かれています。
建物等の賃借人が賃貸借の目的とされている建物等の契約の解除に伴い賃貸人から収受する立退料(不動産業者等の仲介を行う者を経由して収受する場合を含む。)は、賃貸借の権利が消滅することに対する補償、営業上の損失又は移転等に要する実費補償などに伴い授受されるものであり、資産の譲渡等の対価に該当しない。 出典:国税庁『消費税法基本通達 第5章第2節 資産の譲渡の範囲』5-2-7
ポイントは「賃貸借の権利が消滅することに対する補償」という部分です。権利が誰かに移るのではなく、消えてなくなる。消えるものには譲渡がないので、資産の譲渡等の対価に当たらない、という整理です。営業上の損失の補償(休業補償)や移転費用の実費補償も、同じ通達で名指しされています。
唯一の例外:賃借人たる地位を第三者に譲渡したときは課税
同じ5-2-7には(注)が付いていて、ここが実務で最も間違えられる分岐です。
(注) 建物等の賃借人たる地位を賃貸人以外の第三者に譲渡し、その対価を立退料等として収受したとしても、これらは建物等の賃借権の譲渡に係る対価として受領されるものであり、資産の譲渡等の対価に該当することになるのであるから留意する。 出典:国税庁『消費税法基本通達 第5章第2節 資産の譲渡の範囲』5-2-7(注)
つまり、お金の出し手が誰かで結論が変わります。賃貸人(大家)から受け取って権利が消えるなら不課税。次に入る第三者から受け取って権利がその人に移るなら、名目が「立退料」でも中身は借家権の譲渡なので課税取引です。契約書のタイトルではなく、権利が消えたか移ったかで判定します。
税理士法人で不動産オーナーの決算を見ていたころ、この「不課税なのに課税仕入れで入力されていた」パターンを何度か直しました。会計ソフトの初期設定で支払手数料や雑費に紐づく税区分が課税仕入10%になっていて、金額が大きいぶん消費税額への影響もそのまま大きくなります。立退料を計上したら、税区分だけは必ず目で確認する運用にしておくと安全です。






立退料の税務判定ツール|消費税・所得区分・仕訳を一度に出す
ここまでの分岐に、所得区分と仕訳を重ねたのが下のツールです。立場・事業者の区分・立退料の性格の3つを選ぶと、①消費税の課否 ②所得区分または損金・必要経費の扱い ③勘定科目と仕訳例を返します。判定の根拠になる通達番号も一緒に表示するので、そのまま調書のメモに使えます。
ツールを使う前に押さえる3つのチェックリスト
賃貸人(大家)からなのか、次に入る第三者からなのか。ここで消費税の課否が分かれます。仲介業者を経由していても、最終的な出し手が賃貸人なら不課税の扱いです。
権利消滅の対価か休業補償か移転実費か、どれにいくら充てられているか。個人が受け取る場合は所得区分がここで決まるので、内訳の記載があるかどうかで申告の手間が大きく変わります。
売るためか、貸し続けるためか、買うためか。同じ金額でも譲渡費用・必要経費・取得価額と行き先が変わり、当期の利益への効き方がまったく違います。






立退料を受け取ったときの所得区分は3つに分かれる
個人が立退料を受け取った場合、金額の性格によって所得区分が3つに分かれます。タックスアンサーNo.3155「借家人が立退料をもらったとき」(令和8年4月1日現在法令等)が、その3区分を明示しています。
| 立退料の性格 | 所得区分 | 根拠 |
|---|---|---|
| 家屋の明渡しによって消滅する権利(借家権)の対価 | 総合課税の譲渡所得 | 所令95、所基通33-6 |
| 休業等による収入金額または必要経費の補填 | 事業所得等の収入金額 | 所基通34-1(7) 注1 |
| 上記のいずれにも当たらない部分 | 一時所得 | 所基通34-1(7) |
借家権の消滅の対価は総合課税の譲渡所得になる
所得税基本通達33-6(借家人が受ける立退料)は「借家権の消滅の対価の額に相当する部分の金額は、令第95条に規定する譲渡所得に係る収入金額に該当する」と定めています。ここで見落とされやすいのが総合課税である点です。土地建物の譲渡所得は分離課税ですが、借家権の消滅の対価は分離課税の対象ではなく、給与所得などと合算して累進税率がかかります。保有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得として2分の1課税になります。
休業補償は事業所得側に入る
所得税基本通達34-1(7)の括弧書きは、立退きに伴う業務の休止等で減る収入や、休止期間中に使用人へ支払う給与など必要経費に算入される金額を補填するための金額を、一時所得から除外しています。そのうえで注1が「収入金額又は必要経費に算入される金額を補填するための金額は、その業務に係る各種所得の金額の計算上総収入金額に算入される」と念を押しています。飲食店が半年休業して補償を受けたなら、その分は事業所得の売上と同じ扱いになるということです。
残りは一時所得。特別控除50万円が効く
引越し費用の補償や、どの性格とも言いにくい解決金は一時所得です。一時所得は「収入金額 − 支出した金額 − 特別控除50万円」を計算し、さらにその2分の1を他の所得と合算します。移転費用として実際に支出した金額があれば、その支出との対応関係を説明できるよう領収書を残しておきます。






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不課税の取引こそ、税区分の設定を間違えると気づけません
立退料のように金額が大きく件数が少ない取引は、税区分を一度間違えるとそのまま申告まで通ってしまいます。マネーフォワード クラウド会計なら勘定科目ごとの税区分を明示的に管理でき、不課税・課税の設定を仕訳画面で確認しながら入力できます。
マネーフォワード クラウド会計を見る →立退料を支払ったときは損金か取得価額か譲渡費用か
支払側は、消費税は原則すべて不課税仕入れで統一される一方、法人税・所得税の扱いが4つに割れます。タックスアンサーNo.1382「立退料を支払ったとき」の4区分がそのまま判断軸になります。No.1382は対象税目が所得税なので個人向けの取扱いですが、支出が何にひも付くかで行き先が決まるという考え方は法人でも同じで、法人は法人税法22条3項と法人税基本通達7-3-5で整理します。
| 支払う目的 | 扱い | 当期の損益への影響 |
|---|---|---|
| 賃貸中の建物・敷地を譲渡するため | 譲渡費用 | 譲渡所得(譲渡損益)の計算で控除 |
| 賃貸を続けたまま立ち退かせるため | 必要経費・損金 | 支払った期に費用化される |
| 土地・建物等を取得する際に使用者へ | 取得費・取得価額 | 当期は費用にならない(建物分は減価償却) |
| 敷地のみ賃貸で借地人に立ち退いてもらう | 土地の取得費 | 当期は費用にならない |






法人が物件取得のために払うなら、通達7-3-5で取得価額に吸われる
法人側の根拠は法人税基本通達7-3-5(土地、建物等の取得に際して支払う立退料等)です。「法人が土地、建物等の取得に際し、当該土地、建物等の使用者等に支払う立退料その他立退きのために要した金額は、当該土地、建物等の取得価額に算入する」と書かれています。立退料だけでなく「その他立退きのために要した金額」まで含むので、立ち退き交渉に伴う費用の扱いも合わせて検討することになります。
Big4監査法人で不動産を保有する会社の監査に入っていたとき、期末に「立退料」という費用科目が並んでいて、内訳を追うと取得直前のテナント退去に伴うものだった、というケースがありました。当期費用として落とすか取得価額に乗せるかで課税所得が数千万円動くので、支払の目的を示す稟議書や売買契約書の条項まで遡って確認する必要があります。
売るために払うなら譲渡費用(所基通33-7(2))
所得税基本通達33-7(2)は、譲渡費用の例示として「借家人等を立ち退かせるための立退料」を明記しています。売却前提の立ち退きであれば、当期の必要経費ではなく譲渡所得の計算上の控除項目になります。同じ通達の(注)は「譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する」としているので、立ち退き関連費用のうち何が譲渡費用に入るかは支出の性格ごとに分ける必要があります。






立退料の仕訳パターン早見表|勘定科目と税区分
実際に伝票を切るときの形を、受取側・支払側それぞれでまとめました。金額は仮に1,000万円としています。税区分の列がこの記事のいちばんの要点で、ここを取り違えると消費税の申告額が直接ずれます。
| 場面 | 借方 | 貸方 | 税区分 |
|---|---|---|---|
| 法人が大家から受け取る | 普通預金 10,000,000 | 雑収入 10,000,000 | 不課税売上 |
| 法人が地位譲渡の対価として第三者から受け取る | 普通預金 11,000,000 | 借家権譲渡収入 10,000,000/仮受消費税等 1,000,000 | 課税売上10% |
| 個人事業者が休業補償として受け取る | 事業用預金 10,000,000 | 雑収入 10,000,000 | 不課税売上 |
| 個人事業者が借家権の消滅対価として受け取る | 事業用預金 10,000,000 | 事業主借 10,000,000 | 不課税(譲渡所得で別途申告) |
| オーナーが賃貸継続のために支払う | 立退料 10,000,000 | 普通預金 10,000,000 | 不課税仕入 |
| 物件取得に際して使用者へ支払う | 建物 10,000,000 | 普通預金 10,000,000 | 不課税仕入(取得価額算入) |
| 賃借人たる地位を譲り受けて支払う | 借家権 10,000,000/仮払消費税等 1,000,000 | 普通預金 11,000,000 | 課税仕入10% |
勘定科目に決まりはないが、税区分には決まりがある
受け取った側の「雑収入」、支払った側の「立退料」「支払手数料」「雑費」は、いずれも慣行的に使われている科目で、法令で指定されているわけではありません。一方、税区分は消費税法の適用そのものなので選択の余地がありません。科目名を工夫するより、その科目に紐づく税区分の初期設定を不課税にしておくほうが事故を減らせます。






間違えやすい4つの論点と、実務での確認の手順
交渉段階でやっておくと後が楽になること
税務の処理は合意書ができた後では動かせません。まだ交渉中なら、次の2点を書面に落としてもらうよう働きかける価値があります。1つは金額の内訳、もう1つは誰が誰に支払うのかです。特に後者は、次のテナントが実質的に負担する形になっていないかを確認する意味があります。実態として第三者から受け取っているなら、書面上の当事者にかかわらず借家権の譲渡と見られるリスクがあります。






立退料に源泉徴収や印紙は必要か
源泉徴収の対象になる報酬には当たらない
個人に立退料を支払うとき、源泉徴収が必要かという相談をよく受けます。源泉徴収の対象は所得税法204条に列挙された報酬・料金等で、立退料はそこに掲げられていません。したがって通常は源泉徴収の対象にならないと整理されます。ただし、立ち退きに関連して原状回復工事やコンサルティングなど別の役務提供の対価が混ざっている場合は、その部分について別途判断が必要になります。
合意書の記載内容によって印紙の要否が変わる
印紙税の課税文書は印紙税法別表第一(課税物件表)に20種類が限定列挙されていて、そこに載っていない文書は不課税文書です。判断軸はシンプルで、その合意書が別表第一のどの号を証する文書かを1つずつ当てるだけです。立ち退きと金銭支払いだけを定めた合意書であれば、いずれの号にも当たらず不課税文書になります。逆に、同じ書面で不動産の譲渡を約束していれば第1号文書に、賃貸借の内容を定めていれば第1号の2に当たります。だから対策も明快で、立ち退きの合意と不動産の売買を1通に混ぜないのが実務上の最善手です。






よくある質問(FAQ)
- 立退料を受け取ったら、消費税の課税売上として申告する必要がありますか?
-
賃貸人から立ち退きに伴って受け取ったものであれば、消費税法基本通達5-2-7により資産の譲渡等の対価に該当しないため、課税売上にはなりません。課税対象外(不課税)として処理します。例外は、賃借人たる地位を賃貸人以外の第三者に譲渡し、その対価として受け取るケースで、この場合は借家権の譲渡対価として課税取引になります。誰から受け取ったかを最初に確認してください。
- 支払った立退料は課税仕入れとして仕入税額控除できますか?
-
立退料はそもそも対価性がなく資産の譲渡等に当たらない支出なので、課税仕入れに該当せず、仕入税額控除の対象外となります。会計ソフトの初期設定で課税仕入10%になっていることが多いので、入力時に税区分を不課税へ変更する必要があります。逆に、賃借人たる地位を譲り受ける対価として支払う場合は借家権という資産の取得なので課税仕入れとなり、仕入税額控除にはインボイスの保存が必要です。
- 個人が受け取った立退料は、どの所得区分で確定申告すればよいですか?
-
タックスアンサーNo.3155のとおり3つに分かれます。家屋の明渡しによって消滅する借家権の対価に相当する部分は総合課税の譲渡所得、立ち退きに伴う休業等で減る収入や必要経費を補填する部分は事業所得等の収入金額、それ以外の部分は一時所得です。合意書に内訳の記載がない場合は、算定根拠となる資料をもとに区分を検討することになります。区分の判断に迷う金額であれば、税理士に確認することをおすすめします。
- 法人が支払った立退料は、その期の損金にできますか?
-
目的によって変わります。賃貸を続けたまま賃借人に立ち退いてもらうためであれば支払った期の損金になりますが、土地・建物等の取得に際して使用者に支払うものは法人税基本通達7-3-5により取得価額に算入され、当期の損金にはなりません。売却するために立ち退かせた場合は譲渡損益の計算に取り込みます。同じ金額でも当期の課税所得への影響がまったく異なるため、支払の目的を示す社内資料を残しておくと、後から説明できます。
- 個人に立退料を支払うとき、源泉徴収は必要ですか?
-
源泉徴収の対象となる報酬・料金等は所得税法204条に列挙されており、立退料はそこに掲げられていないため、通常は源泉徴収の対象にならないと整理されます。ただし、立ち退きに関連して工事やコンサルティングなど別の役務提供の対価が同じ支払に含まれている場合は、その部分について別途判断が必要です。支払明細で内訳を分けておくと判断しやすくなります。
まとめ:立退料の税務は誰から受け取り、何のために払うかで決まる
賃貸人から立ち退きに伴って受け取る立退料は、権利の消滅の補償・営業上の損失の補償・移転実費の補償のいずれであっても資産の譲渡等の対価に該当しません(消費税法基本通達5-2-7)。
賃借人たる地位を賃貸人以外の第三者に譲渡し、その対価を立退料の名目で受け取る場合は借家権の譲渡対価として課税されます(同通達の注)。お金の出し手が誰かで判定してください。
受取側は譲渡所得・事業所得等・一時所得(No.3155)、支払側は譲渡費用・必要経費/損金・取得価額・土地の取得費(No.1382・法基通7-3-5)。合意書の内訳が判断材料になります。
雑収入・支払手数料の初期税区分は課税であることが多く、そのまま入力すると誤りが申告まで通ります。立退料用の補助科目を作り、不課税を紐づけておくと事故を防げます。
本記事の内容は2026年9月時点で公表されている通達・タックスアンサーに基づいています。立退料は1件あたりの金額が大きく、性格の按分によって税額が大きく動くため、実際の処理は合意書と算定根拠を確認したうえで判断してください。



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