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「社長が会社にお金を貸したまま、返済されずに何年も残っている」。中小企業の決算書でよく見かける役員借入金です。会社の資金繰りを支えた分だけなら問題ありませんが、この残高は社長個人から見ると会社に対する「貸付金債権」であり、社長が亡くなったときはそのまま相続財産に数えられます。会社に対して社長が「貸している」お金の解消方法と相続税リスクについては情報が少なく、多くの記事は逆方向の役員貸付金(会社が社長に貸しているお金)の解消方法を扱っています。本記事はその逆、役員借入金(社長が会社に貸しているお金)に絞り、とくに相続財産になる問題と、解消する際の法人税・みなし贈与のリスクを掘り下げます。
📌 この記事でわかること
- 役員借入金とは何か、役員貸付金との向きの違い
- 発生時・利息計上時・返済時の勘定科目と仕訳
- 無利息でも税務上問題にならない理由
- 役員借入金が社長の相続財産になる仕組みと評価方法
- 返済・報酬相殺・債権放棄・DESの4パターンを、法人税の追加負担と相続財産への影響で比較する内蔵シミュレーター
- 債権放棄した場合に生じる債務免除益の法人税課税と繰越欠損金との相殺
役員借入金とは何か|役員貸付金との向きの違い
役員借入金とは、会社の代表者や役員が会社にお金を貸した状態を指す勘定科目で、貸借対照表では負債に計上されます。会社が資金不足のときに社長が個人の預金を会社口座に入れた場合や、役員報酬を減額してその分を未払いにせず貸付扱いにした場合などに発生します。逆に会社が社長にお金を貸している状態は役員貸付金で、これは資産科目です。名前が似ているため混同されやすいところですが、貸している側と借りている側がまったく逆であり、税務上の論点も異なります。
ぜいむたん


税理士法人での実務では、中小企業の決算書を見ると役員借入金が数百万円から数千万円単位で長年動かないまま残っているケースを頻繁に確認する。会社の資金繰りが厳しかった時期の名残であることが多く、経営が安定した後もそのまま放置されがちだが、放置期間が長いほど後述する相続財産の問題が大きくなる。
役員借入金の勘定科目と仕訳|発生・返済・返済仕訳の書き方
役員借入金の勘定科目は「役員借入金」または「短期借入金」「長期借入金」のうち役員からの借入であることが分かる補助科目を使う。1年以内に返済予定なら流動負債、それを超えるなら固定負債に区分するのが原則だが、実務上返済期限を定めず据え置いているケースが多く、その場合は流動負債として計上している会社が大半である。
発生時の仕訳
社長が会社の預金口座に100万円を入金した場合の仕訳は次のとおり。
発生時:(借方)現金預金 1,000,000円 /(貸方)役員借入金 1,000,000円
返済時(役員借入金 返済 仕訳):(借方)役員借入金 500,000円 /(貸方)現金預金 500,000円。返済額が残高を超えることはできないため、返済のたびに補助元帳で残高を確認する。
利息を計上する場合:(借方)支払利息 〇〇円 /(貸方)役員借入金(未払利息) 〇〇円。ただし後述のとおり、役員借入金には利息を計上しない会社が大半である。
勘定科目内訳明細書での書き方
法人税申告書に添付する勘定科目内訳明細書では「借入金及び支払利子の内訳書」に役員借入金を記載する。借入先が役員である旨、期末残高、期中の利率(無利息なら0%と記載)を明記する必要がある。逆方向の役員貸付金の内訳書の書き方は役員貸付金の勘定科目内訳明細書の書き方で解説しているので、両方の科目が発生している場合はあわせて確認してほしい。






役員借入金の利息は必要か|無利息でも問題にならない理由
役員借入金は無利息のままでも税務上のリスクは小さい。役員貸付金(会社が社長に貸す場合)は認定利息を計上しないと社長への経済的利益の供与とみなされ課税リスクが生じるが、役員借入金(社長が会社に貸す場合)は逆で、社長が会社から利息を受け取らなくても会社側に経済的利益は発生しない。無利息で貸し付けている行為は、貸主である社長が本来得られたはずの利息を受け取らなかっただけであり、法人税法22条2項が定める「無償による資産の譲受けその他の取引」には該当しない。会社が得をする形の取引ではないため、原則として法人税の課税関係は生じない。






逆方向(役員貸付金)の適正利率1.3%の計算方法や、認定利息を計上しなかった場合の税務調査での指摘は役員貸付金の利息計算の完全ガイドで扱っているとおりで、本記事の役員借入金とは課税の向きが逆であることに注意してほしい。
役員借入金は相続財産になる|被相続人の貸付債権としての評価
役員借入金でもっとも見落とされがちなのが、社長が亡くなったときの相続財産への算入である。役員借入金は会社から見れば負債だが、貸主である社長個人から見れば会社に対する貸付金債権という財産であり、相続税の申告では原則としてこの債権の全額を相続財産に計上しなければならない。会社が返済していない残高がそのまま相続税の課税対象になる、という点は経営者本人にも家族にも意外に知られていない。
財産評価基本通達204(貸付金債権の評価)は、貸付金債権等の価額を「返済されるべき金額」である元本の価額と、課税時期現在の既経過利息の価額との合計額で評価すると定めている。無利息の役員借入金であれば既経過利息はゼロなので、実質的には元本残高がそのまま評価額になる。
続く同通達205(貸付金債権等の元本価額の範囲)は、回収が不可能または著しく困難であると見込まれる金額を元本の価額に算入しないと定めている。ただし、そこに挙げられているのは手形交換所での取引停止処分、会社更生法の更生手続開始の決定、民事再生法の再生手続開始の決定、会社法の特別清算開始の命令、破産法の破産手続開始の決定、業況不振による事業の廃止や6か月以上の休業といった、外形的に確認できる事実である。決算書が債務超過であるというだけでは、この列挙事由には当たらない。多くの中小企業では額面どおりに評価されると考えておいたほうがよい。






相続が発生してから慌てて対応しようとしても、遺産分割協議や納税資金の準備と並行して会社の債務整理まで進めるのは容易ではない。役員借入金の解消は、経営者が元気なうちに検討しておくべき論点である。
内蔵ツール:役員借入金 解消4パターンの税負担比較シミュレーター
役員借入金の解消方法は大きく分けて「返済」「役員報酬減額での相殺」「債権放棄(債務免除)」「DES(デット・エクイティ・スワップ)」の4パターンがある。それぞれ法人税の追加負担、相続財産への影響、みなし贈与のリスクが異なるため、下のシミュレーターで自社の数値を入力して比較してほしい。






役員借入金 解消4パターン 税負担比較シミュレーター
※実効税率・DESにおける現物出資の時価は簡易的な仮定です。実際の税額・評価は顧問税理士に確認してください。本ツールは税理士法72条にもとづき個別の税務判断を提供するものではありません。
初期値(借入残高1,000万円・繰越欠損金なし・実効税率33.58%・同族株主あり・債務超過ではない・推定相続人あり)で試すと、債権放棄を選んだ場合の法人税の追加負担は335万8,000円、相続財産への算入額は0円になり、みなし贈与のリスクは「あり」と表示される。繰越欠損金が借入残高以上にある会社であれば、この追加負担は0円まで下がる。
債権放棄で解消する場合の法人税と繰越欠損金の相殺
社長が会社に対する貸付債権を放棄すると、会社側では債務免除益が発生する。法人税法22条2項は「無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のもの」に係る収益を益金の額に算入すると定めており、債務の免除もこの「その他の取引」に含まれるため、免除された金額はその事業年度の益金に算入され法人税の課税対象になる。ただし、会社に繰越欠損金があれば同じ事業年度の所得と相殺できるため、繰越欠損金の範囲内であれば債務免除益に対する追加の税負担は生じない。
他の株主がいる場合のみなし贈与リスク(相基通9-2・9-3)
債権放棄には、法人税とは別のリスクもある。相続税法基本通達9-2は、同族会社に対して対価を受けずに債務の免除・引受け・弁済があった場合、その債務免除等によって株式や出資の価額が増加した部分に相当する金額を、他の株主が債務免除をした人から贈与によって取得したものとして取り扱うと定めている。社長が自社への貸付債権を放棄して会社の純資産が増えれば、その分だけ他の同族株主が持つ株式の価値も増加するため、その増加分が贈与とみなされる可能性がある。社長が実質的に100%株主であれば贈与を受ける相手が存在しないため実務上の影響は限定的だが、配偶者や子どもに株式を分散させている会社では無視できない論点になる。
一方、同通達9-3は、会社が資力を喪失している場合において債務免除を受けたときは、その会社の債務超過額に相当する部分の金額についてはみなし贈与として取り扱わないとしている。会社が実際に債務超過であれば、その超過額の範囲内での債権放棄はみなし贈与の対象から外れる。ただし「単に一時的に債務超過となっている場合」は該当しないとも明記されており、決算書上の数字だけで機械的に判断できるものではない。






債権放棄は貸付金債権そのものを消滅させるため、相続財産としての評価は0円になる。相続税の負担を軽くしたい場合には有効な手段だが、法人税の追加負担とみなし贈与リスクを天秤にかけて判断する必要がある。逆方向の役員貸付金を解消する5つの方法(報酬増額・資産売却・退職金相殺・債権放棄など)は役員貸付金の解消方法5パターン比較で解説しているので、両方の債権債務が発生している会社は相互に確認してほしい。
DES・擬似DESで役員借入金を資本金に振り替える方法
DES(デット・エクイティ・スワップ)とは、社長が持つ会社への貸付債権を現物出資し、その分だけ会社の資本金を増加させる手法である。役員借入金という負債が資本金という純資産に振り替わるため、会社の財務体質は改善し、社長個人から見ると貸付金債権が株式に変わる。金銭のやり取りを実際に行わず、契約書上の処理だけで完結させる場合は「擬似DES」と呼ばれることが多い。
DESの税務上の論点は、現物出資する債権の時価をいくらと見るかにある。会社の財務状態が良好で額面どおり回収できると見込まれるなら、時価と額面(券面額)は一致し、法人税の課税関係は生じない。しかし会社の資産状況が悪く、額面どおりの回収が見込めない債権を現物出資する場合は、時価が額面を下回ることになり、その差額は実質的に債務免除を受けたのと同じ経済効果になるため、前節の債権放棄と同様に債務免除益として法人税が課税されるという考え方が実務上広く採られている。時価の算定は個別の財務状況によって大きく変わるため、実行前に必ず税理士・会計士に時価評価を依頼してほしい(この時価評価の考え方は実務上広く参照されているものであり、本記事はDESの税務処理を断定するものではない)。






DESと擬似DESの違い
本来のDESは会社法が定める現物出資の手続き(検査役の調査や弁護士・公認会計士等の証明)を経て新株を発行する方法である。一方、擬似DESは金銭による返済と払込みを同時に行う体裁を取り、実質的に貸付債権を資本に置き換える方法で、中小企業では手続きの負担が軽い擬似DESが選ばれることが多い。いずれの方法でも、税務上の取り扱い(時価と額面の差額課税)は同じ考え方で検討する必要がある。
役員借入金 資本金への影響と登記・消費税への波及
DESで資本金が増加すると、資本金の額を基準に判定される制度に影響が及ぶ。資本金が1,000万円を超えると消費税の免税事業者の判定が変わり、設立初年度から課税事業者になる可能性がある。また中小企業向けの軽減税率や交際費の損金算入枠なども資本金の額を基準に判定されるため、DESによって資本金が一定の基準額をまたぐ場合は、法人税・消費税の両面で影響がないかを事前に確認する必要がある。資本金の増加は登記事項でもあるため、登録免許税や司法書士への登記依頼費用も発生する。






役員借入金の契約書は必要か
役員借入金についても、金銭消費貸借契約書を作成しておくことが望ましい。契約書がなくても会計上・税務上ただちに否認されるわけではないが、税務調査で借入の実態(貸したタイミング・金額・返済条件)を説明する際の裏付け資料になる。とくに相続が発生した場合、この貸付債権が遺産分割の対象になるため、金額や条件が明確な契約書があれば相続人間のトラブルを避けやすい。契約書の記載項目や印紙税の考え方、認定利息を含めたひな形は役員貸付金の金銭消費貸借契約書ひな形で紹介している内容を、貸主・借主を入れ替えて役員借入金用に読み替えれば流用できる。






よくある質問(FAQ)
- 役員借入金は決算書のどこに載りますか?
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貸借対照表の負債の部に「役員借入金」または「短期借入金」「長期借入金」の内訳として計上されます。法人税申告書に添付する勘定科目内訳明細書の「借入金及び支払利子の内訳書」にも、借入先が役員である旨と期末残高・利率を記載する必要があります。
- 役員借入金があると銀行融資に影響しますか?
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金融機関は役員借入金を実質的に自己資本に近いものとして評価する場合がある一方で、返済されずに残り続ける借入金は資金繰りの不透明さを示す材料としてマイナスに見られることもあります。融資審査を控えている場合は、解消の見込みや返済計画を説明できるようにしておくことが望ましいです。
- 役員借入金を放置していると相続税はどれくらい増えますか?
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役員借入金の残高がそのまま相続財産(貸付金債権)として評価に加算されるため、増加する相続税額は残高に対する相続税の限界税率(財産の規模に応じて10%から55%)にほぼ比例します。正確な影響額は相続財産全体の構成によって変わるため、本記事の内蔵シミュレーターで概算を確認したうえで、税理士に試算を依頼することをおすすめします。
- 役員借入金と役員貸付金、両方が発生している場合はどうすればいいですか?
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両建てで残っている場合、相殺できないか(片方を返済に充てられないか)をまず確認します。相殺できない事情がある場合は、それぞれの科目について本記事と役員貸付金の解消方法5パターン比較を読み比べ、法人税・相続税・みなし贈与のリスクを両面から検討してください。
まとめ:役員借入金は「生きているうちに」解消方針を決める
役員借入金は放置していても会社の税務に直接の悪影響が出るわけではないため、後回しにされがちな科目である。しかし社長個人から見れば会社への貸付金債権という財産であり、解消しないまま相続が発生すれば額面どおりに相続税の対象になる。監査法人・税理士法人での実務を踏まえても、解消は経営が安定していて選択肢が多いうちに検討しておくのが合理的である。次の手順(ステップ)で確認していくとよい。
役員借入金の残高と発生時期を、勘定科目内訳明細書と契約書(あれば)で確認する
会社の財務状況(債務超過かどうか)と株主構成(同族株主が他にいるか)を整理する
内蔵シミュレーターで返済・報酬相殺・債権放棄・DESの4パターンを比較する
法人税の追加負担とみなし贈与のリスクを踏まえ、税理士と相談のうえ解消方針を決める



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